エピローグ
エピローグ
二学期になり、まだまだ蒸し暑さの残る九月が始まって数日が経った。大地はマクミラン・バーガーに入るとオレンジジュースを注文していつもの場所に行き、待ち合わせしていた岡本の向かい側に座る。
今日は珍しくラフだった制服の服装をしっかり整えていた。
「よぉ土谷、あれからどうだ? 涼の様子は?」
「学校にいる時は俺と駄弁ってるが……昼休みや放課後は見ているこっちが恥かしくなるくらいベタベタしてるよ」
もっとも、自分も美紀とベタベタしてるから人のことは言えないと微笑む。
「そうか、いいなぁ……俺も恋を成就させたいぜ」
「好きな奴いるのか?」
「ああ、この夏にできてな……もう何回もアタックしたんだが全然駄目だよ」
岡本は溜息吐くと大地はちょっと罪悪感を感じて相談をもちかける。
「相手は? どんな奴だ?」
「……花崎だよ、あんなに凛とした人は初めてだぜ」
岡本は気持ち悪いほどうっとりとした表情になる、大地は戦慄した。
「ど、どうして花崎に? あんな男嫌いな奴を?」
「でも凛とした美人だろう?」
「まぁ、それはわかるが花崎は鬼の風紀委員と呼ばれてるような奴だ」
「それがいいいんだよ……だってよ、あの凛とした眼差し、俺のタイプだぜ!」
恋は盲目と言うがどうやら本当らしい、だが岡本はとんでもないことを言い放った。
「あの眼差しで……口汚く罵られたい」
「……スマン、岡本……もう一度言ってくれ」
大地は聞き間違いかと祈りながら恐る恐る訊く。
「俺はな花崎に……踏まれたい、罵倒されたい、蔑む目で見られたい! ああ、もうハイヒールで踏まれながら変態とかブタ野郎とか言われたい!」
「……拒絶されて当然だと思うぞ」
「ええ、この前なんかさぁ。キモイんだよこのブタ野郎って言われたんだ。もう今まで味わったことのない興奮で一晩中ゾクゾクが止まらなくて翌日寝不足さ」
「岡本……悪いことは言わん、病院行った方がいいぞ」
大地はドン引きしながら相談に乗るんじゃなかったと後悔する、さっさと話題変えようと思いながら大地は訊いた。
「そうだ、あいつは? 鈴木はどうなった?」
「ああ、あいつなら今までやってたいじめがバレてクラスで孤立したよ。おまけにマジでワルなヤバイって噂の先輩に目をつけられて昨日退学した。そっちはどうだ?」
大地は岡本が別の話題に乗ってくれたことに感謝しながら手短に話す。
「まず菊本だが、あいつの家は母子家庭で……母親が既婚の男性を誘惑してはその人の人生や家庭、人間関係を壊すことに快感を覚える人らしい。蛙の子は蛙とはよく言ったものだ。あいつは中学や細高に入ってから弱みを握った人の人生を壊すのを楽しんでたって話しだ……曰く、幸せそうにしてる奴らが憎いから壊すのが俺の使命だとか……母親もモンスターペアレントだったが今回の件で悪事が発覚して精神科行き、菊本の奴も悪事がバレて退学した」
「親子揃ってサイコパスじゃね? あのヤリチンは?」
「笹本だが、夏休みの時点でも複数の子とヤっていたらしい。上は中学一年、下は三〇歳のOLさん、校内では完全に危険人物に認定されて県外にある校則の厳しい全寮制の高校に転校した。もちろんあっちにいる奴らにも転校前から知れ渡ってるらしい」
「あーあ、こりゃあ完全に詰んだなざまぁみろ!」
岡本はニヒヒと意地の悪い笑みを浮かべると大地も同感だと思う。
「同感だ。自分のやったことはいつか……自分に返ってくる。今を楽しむのは大切だが、今が楽しければそれでいいなんてものじゃない……いつか必ず自分に返ってくる、涼の場合が良い意味で返ってきたんだ」
「ああ、そうだな!」
岡本も微笑むと大地も微笑みを返す。ふと夏休み最後の日、涼はすっかり昔のようなガキ大将とまではいかないが、一皮剥けたような顔になってみんなの前で演説する姿を思い出した。
八月三一日の午後、睦美の家でみんなが集まって涼が一緒にみんなの前に立った。
皆さん初めまして、米島涼です。
このたびは僕と葵が大変お世話になりました、貴重な夏休みの二週間を割いて、僕と葵のために行動してくれて本当にありがとうございました!
ある人は危険を冒してまで必死に情報を集め、葵を守り、ある人は僕を説得して立ち直らせてくれた。
僕はこの夏休み、崖っぷちまで追い詰められました。でも葵、木崎さん、花崎さん、大地、岡本君、鬼頭君、沢山の人たちに……中には僕のことを全く知らないという人たちも、僕や葵のために行動してくれました。
僕自身、どうやって皆さん一人一人にお礼をすればいいかわかりません。でも、今回の件で他校の友達と出会い、親睦を深め、絆を育むことができたと思います、この絆を大切にするために細高に受け継がれているある秘密結社の存在を教えます。
涼はあのエーデルワイス団の箱にあった画用紙を広げた。
これを見てください、複数の小さな丸を囲む大きな丸。それがアメーバ状に広がってネットワークのように繋がっています、皆さんは今回、僕と葵のために四〇人もの人が集まってくれました。これは完全に学校の一クラス分です。
皆さんも、今回の件で多くの人と知り合い、気が合って意気投合した人もいるでしょう、しかし中にはお互いに気が合わない、あるいは敬遠するという人もいます。
四〇人で一斉に行動すれば必然的に派閥が生まれるのは確実です。
人間は三人集まれば派閥ができる、せっかく集まった僕たちは意見が分かれたり、時には対立したりすることもあります、その状況を見て見ぬフリをすれば……取り返しのつかないことになるのは確実です。
そこで仲のいい人同士や同じ学校の者同士、お互いに本音を言い合えるという者同士で作ってください。もしも一人取り残されてる人がいたら……手を差し伸べてあげてください。
そしてお互い付かず離れずの距離を置き、意見や情報交換したり、困った時や問題が起きたらみんなで助け合う。
勿論そればかりじゃなくて、楽しかったことや嬉しかったことを自慢し合うのも一興です。そして……それぞれで今しかない今ために、今を一緒に駆け抜けましょう。
それが僕たちの……エーデルワイス団です!
エーデルワイス団という言葉でみんなざわついたが、思い出を切り貼りした写真や、落書きで埋め尽くされているノートを見せら、みんな賛同してくれた。岡本も微笑みながらコーラをすすって言う。
「エーデルワイス団か……まあいいんじゃない? 漫画みたいでさ」
「ああ、そうだ――」
大地のズボンのポケットにスマホが震える、美紀からだとLINEでメッセージが来てそれを見る。内容は睦美が最近、岡本に猛烈アタックされてフってるけど、彼がとても変わっていているから放っておけないという。
「岡本、花崎だが……まんざらではないらしいぞ」
「おおっ! そうか?」
「ああ、だが変わってると心配されてる」
「そうだっけ? 俺普通だと思うぞ」
岡本は首を傾げると大地は苦笑した。明日早速涼と草原にも相談しないといけない、大変な日々がまた始まりそうだが、同時に楽しみでもあった。




