第六章その2
夕暮れになるまで、涼は泣きながら話せるだけ話す。
「焦らなくていい、ゆっくり話せ」
大地は本当に優しい友達だと改めて実感する、その優しさに涙が止まらなかった。
でもこれで大地たちはみんな、あいつらが危険だということを知らせることができたから、よかったのかもしれない。
「そうか、あの二人は危険人物だな……だが涼、もう一人いるぞ」
「もう一人? 誰かいるの?」
涼は誰だろうと、顔を上げながら訊く。
「笹本だ。あいつは……鈴木や菊本と共謀して切り離し、その間に草原を脅してお前から奪おうとしてる! 草原を助けられるのは、お前だけだ!」
「葵が……危ないってこと!?」
「ああ、そういうことだ!」
涼は今すぐにでも駆けつけないと、だけど素直に笹本や菊本、鈴木のことが怖い。布団を握り締める、またあいつらに酷い目に遭わされるかもしれない……でも、大地の言う通り葵を助けられるのは……僕だけだ! 花崎さんは否定するかもしれない。
速まる心臓の鼓動、心が、体が、否応なく震えて怖いと言っている。それでも涼は歯を食いしばる、葵はきっと僕以上に怖い思いをしてるのかもしれない、もしかすると僕を守ろうとしてるのかもしれない。
「大地、僕……今すぐ葵の所へ行きたい、どこに?」
「今日は何の日だ?」
大地に訊かれてカレンダーを見ると思い出す、そうだ。今日は江津湖花火大会の日だ! ついこの前が夏休みの登校日だったのに、あいつらはたった一度しかない夏休みの二週間を奪った。だがまだ完全に奪い切れてない! 涼は立ち上がってすぐに着替える。
打ち上げまでまだ時間はある!? 大丈夫、間に合う!! 電車と市電を使えば大丈夫だ!! 涼はすぐに顔を洗って身嗜みを整えると、大地は玄関で手招きする。
「涼、足は手配済みだ。来い!」
「行ってきます!」
涼は数日振りに蒸し暑い外に出ると二台のバイクが待機していた。ビッグスクーターであるヤマハ・マジェスティに乗った懐かしい友達がヘルメットのバイザーを上げた。
「よおっ涼、久し振りだな! 元気にしてたか?」
「岡本君!? 岡本修也君だよね?」
涼は思わず懐かしい気分になる。小学生の頃、喧嘩番長の悪ガキで恐れられていて、殴られ覚悟で友達になろうと誘い、仲良くなった岡本修也だ!
もう一人はカスタマイズと聞えはいいが、元の車種がわからないほど派手なペイントと改造された暴走族仕様のバイクで、ライダーがヘルメットを脱ぐ。
「涼! お前いじめられてたって? 水臭いぞ涼! 俺たちに言えばいいのによ!」
「お、鬼頭君!? 鬼頭一郎君だよね?」
涼は思わず目を丸くした。小学生の頃、父親の暴走族漫画を読んでから自転車で真似していつも先陣を切り、よく怪我が絶えなかった鬼頭だった。
「おうよ! 時間ねぇだろ、乗りな!」
「涼、お前は岡本のバイクに乗れ!」
大地はヘルメットを取ると、大地のスマホが鳴ってそれを取る。
「もしもし美紀!? なに!? 鈴木を取り逃がした!? わかったすぐ行く!!」
鈴木を取り逃がした? 涼は嫌な予感がすると大地は手短に言った。
「鈴木が逃げたうえにこっちの動きがバレた!!」
「何!? こっちもさっき笹本が逃げたばっかだぜ!!」
岡本も動揺すると向かう先は? 涼は考えながらヘルメットを被る。
「向かう先はもしかして葵の所?」
「かもしれない!! 急げ!!」
鬼頭が急かすと涼はヤマハ・マジェスティの後ろに乗った。
「しっかり捕まれ!! ぶっ飛ばすぞ!!」
岡本は叫びながらマジェスティを急加速させると、国道3号線通称:薩摩・鹿児島街道を北上して会場である水前寺江津湖公園へと急いだ。
その頃、美紀は健軍商店街の路地裏で動けずに悶えていた。のしかかってボコボコにしてやりたいと思ってたら、まさか自分がボコボコにされるとは。
あいつら、非常時のことを考えて悪あがきに笹本が鈴木のスマホに緊急用メッセージを送ったらしい。
『ふざけやがってこのクソアマ!! こうなったら草原を俺と笹本で滅茶苦茶に壊して、廃人にしてやる!!』
突然路地裏に連れて行かれたと思ったら豹変して激怒した鈴木に、美紀も媚びる演技を捨てて本性を現したがまさか腹パンしてくるとは思わなかった。しかも肝臓、腎臓、みぞおちに一発ずつ、遠慮なく叩き込んできやがった。
「あの野郎……岡本の言ってた通り……女の子を平気でいじめるタイプね」
激痛に耐えながら立ち上がると、救援要請を聞きつけて倉内さんと森下さんが駆けつけて、倉内さんが肩を貸す。
「大丈夫木崎さん! もしかして乱暴されたの!?」
「腹に三発食らったわ……肝臓腎臓……みぞおちにね」
美紀が激痛に耐えながら言うと、同じく肩を貸してくれた森下さんも戦慄する。
「酷い……そんなことするなんて」
「あたしより、葵が危ないわ……江津湖にいる子たちに連絡して! 葵は今一人でいるのよ!!」
美紀は腹にしがみつくように残る鈍い激痛に耐えながら言い放った。




