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奴隷だった俺は、世界を壊す“伝説魔人”へ至る  作者: 解放さん
序章 生きる意味

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盗賊の隠れ家

豪華な大広間。

そこには一つの玉座があり、肩肘をついて一人の男を見下ろす王がいた。


片膝をつき、頭を垂れる男は冷や汗を流している。

問題が起きた以上、自分がどうなるかは分からない。


だが、黙っていても状況は変わらない。


男は顔を上げ、王を見上げた。

冷たく鋭い瞳。

まるで興味のないものを見るような目に気圧されながらも、報告を始める。


「恐れながら申し上げます。西方に建設中のグラジオラスへ続くトンネルにて暴動が発生し、多数の死傷者、そして多数の奴隷が脱走いたしました」


ごくり、と唾を飲み込む。


静寂が訪れた。


「そのようなことはすでに知っておるわ。それで?」


「え……その……」


困惑するだけの男に、王は片眉を上げて不快感を強める。


「その対処をどうするのかと聞いておるのだ」


感情を見せぬまま、淡々と続ける。


「王国がそのトンネルに関与していることを、今知られるわけにはいかん。その中で、ごろつき共を集め、奴隷を確保するのにどれほど時間がかかるか、お前が一番知っているだろう」


男の背筋にぞくりと寒気が走る。


目の前の王が、人の命を簡単に切り捨てることを彼はよく知っていた。

返答を誤れば、自分もその運命を辿る。


だからこそ、今できる最善を口にする。


「脱走を図った奴隷たちは五十人ほど捕え、二度と同じことが起きぬよう痛めつけたうえで、早急に作業へ戻します。減った分の奴隷の捜索、並びに補充も速やかに行うよう指示を出します」


言い終え、男は王の返答を待った。


「ふむ」


王は短く呟く。


「それで、トンネルの開通は何年後になる?」


「……五年ほどになるかと」


「そうか」


それだけ言って、王は手を払った。


男は慌てて頭を下げ、そのまま下がる。


「あの男に、このまま続けさせてよろしいのですか?また同じことを繰り返すやもしれません」


王の右後方に控えていた従者が進言する。


王はにやりと笑った。


「あやつも今回の一件で必死になろう。それに、こちらとしても準備の時間が増えると思えば小さきことよ」


冷たく言い放つ。


「あやつも奴隷も、代わりなどいくらでもいる」


だが、と一言添え、従者の耳元で何かを囁く。


その後、王は玉座の間から姿を消した。


一人残された男は、命令を果たすため新たな計画を練り始めるのだった。



どれだけ森の中を歩いただろうか。


短いような、長いような。

どこか浮ついた気持ちのまま、僕はゼルムおじさんたちの後を追っていた。


「ねえおじさん。外に出たのはいいけど、この首輪や足枷はどうするの?もしかして、ずっとこのままで生活するつもり?」


すでに体の一部みたいになっているとはいえ、外で暮らすには目立つし邪魔でしかない。

“僕たちは奴隷です”とアピールしているようなものだ。


「安心しろ。隠れ家に着いたらピッキングできる奴が何人かいる。変な小細工がかかってなきゃ、簡単に開けられる」


「そんなこともできるんだ~。盗賊ってやっぱすごいね!」


何気なく言った一言に、びくりと肩を震わせたのは、この場で唯一のエルフであるフリージアだった。


「み、皆さん……盗賊なんですか?」


震えた声。

怯えた目で、僕たちを見る。


盗賊は悪だとゼルムおじさんは言っていた。

けれど僕にはその実感がなく、どう反応すればいいのか分からなかった。


「嬢ちゃん、俺たちは確かに盗賊さ」


ゼルムおじさんが振り返る。


「けどな、奪う相手は貴族どもだけだ。村の連中に手なんか出さねぇし、むしろ助け合って生きてきたくらいだ」


「お頭はここら一帯じゃ悪いことは絶対しねぇよ。おっかねぇ魔女に殺されちまうからな」


レオがにやにやしながら口を挟む。


それを聞いたおじさんは、苦虫を噛み潰したような顔になった。


「あいつの話をするんじゃねぇ!!おめぇもビビり散らかしてたろうが!」


「お頭ほどじゃないですよ!“命だけは助けてくれ~”って泣いて懇願してたのはどこの誰ですか!」


「なにぃ~!?」


なぜか二人はそのまま取っ組み合いを始めた。


僕とフリージアは、その様子を見て思わず大笑いしてしまう。


そんな僕たちに、テッサがそっと近づいてきた。


「昔はね、あの人たちも本当に悪いことをたくさんしてたの」


静かな声で話し始める。


「でも、この辺りには強い魔女がいてね。その人に殺されそうになって改心したのよ」


その後、普通の生き方ができないと相談した結果、貴族から盗む分には構わないという承諾を得て暮らしていたらしい。


だが結局、捕まってあのトンネルへ奴隷として放り込まれたのだという。


「私たちはあなたに危害を加えないわ」


テッサは真っ直ぐフリージアを見る。


「それだけは、どうか信じてもらえないかしら?」


フリージアは小さく頷いた。


その横顔を見ながら、僕はこれからどうすればいいのか考えていた。


フリージアには帰る場所がある。

他の皆も、きっとどこかに居場所があるのだろう。


でも僕にはない。


ゼルムおじさんとはうまくやれている。

けれど、他の人たちが僕を好いていないことも知っている。


そんな僕が一緒にいたら、おじさんに迷惑がかかるんじゃないか。


そんな考えが頭を離れず、僕は一人、暗い顔で後を追った。


それから三十分ほど歩いた頃、目の前に木のない広場が現れた。


そこにはいくつものテントが張られ、中央には焚き火が置かれている。


先に到着していた者たちは、嬉しそうに話したり、抱き合ったりしていた。


そして僕は、人生で初めて見る生き物に目を奪われた。


首が二つある四足歩行の生き物――ヘルドック。

足が六本ある大きな生き物――ベッジホース。


言葉が出なかった。


僕たちに気づいた男が一人、ゼルムおじさんに駆け寄ってくる。


「お頭!!よかった、お頭たちも無事だったんですね!中にいた仲間は全員たどり着きましたが、数が多いんで動ける奴らは第二拠点へ移しました。……それと、陽動をしてくれた奴らの安否は今のところ不明です。ここに逃げ延びてきたのは五人ほどしか……」


「そうか」


ゼルムおじさんは頷く。


「まだ死んだと決まったわけじゃねぇが……覚悟はしとかなきゃならねぇな」


少しだけ間を置いてから続ける。


「まずは枷を外してもらえるか?この後の話は別の場所でする」


「分かりました!すぐに手配します!」


男が駆け去るのを見送った後、ゼルムおじさんは僕とフリージアの方へ歩いてきた。


「聞いた通りだ。これからの動きを話さなきゃならねぇ。枷が外れたら、しばらくゆっくり休んでろ」


そしてフリージアを見る。


「嬢ちゃんはちゃんと故郷に帰してやる」


次に、僕へ視線を向けた。


「ガルム、お前もしっかり休んどけよ。その嬢ちゃんを送り届けるのは、お前がやるべきことなんだからな!」


豪快に笑ってから、ひときわ大きなテントへ入っていく。

レオもその後に続いた。


テッサは開錠の道具を持ってきて、僕たちの枷を外し始めた。


それを見ていると、服の裾を引っ張られる。


振り返るとフリージアだった。


「あの……ガルム君、本当にありがと」


彼女は少し照れたように笑う。


「あの時、声をかけてくれて、動けない私を運んでくれて。……また外に出られるなんて思わなかった。このご恩は、一生忘れないからね!」


その笑顔を見ていると、さっきまで胸にあった重たい悩みが少しだけ軽くなる気がした。


そうだ。


僕にはまだ、この子を故郷へ送り届ける役目がある。


その後のことは、その時考えればいい。


そう思い直して、僕はしばらくフリージアと話をした。


枷を外してもらい、あてがわれた部屋でフリージアと休んでいると、ゼルムおじさんが入ってきた。


「よぉ。少しは休めたか?これからどうするか話すぞ」


手に持っていた地図を広げ、テーブルの上に置く。


僕とフリージアは顔を見合わせ、同時に頷いた。


「まず、俺とガルム、そして嬢ちゃんの三人でエルフの森へ向かう。出発は明日だ」


急なのは悪いが、と前置きして続ける。


「時間がねぇんだ。幸い、今いる場所はここで、エルフの森は西へ四半刻も行けば着く。そう遠くはない」


そこで少し顔を曇らせる。


「ただ問題は、着いた後だな」


「そのまま入ればいいんじゃないの?」


僕が首を傾げると、フリージアが申し訳なさそうに口を開いた。


「エルフって……他の種族が自分たちの国に入るのを嫌うの」


「それだけなら私一人で入ればいいんだけど……」


言いにくそうに続ける。


「エルフの森は、迷うようになってるんだよ」


「じゃあ、どうするの?」


おじさんも渋い顔になる。

僕もそれを聞いて、どうすればいいのか分からなくなった。


「迷いの森に入って、矢で串刺しにされて見つかったり、餓死して見つかったりすることもあるからなぁ」


そう言って腕を組んだおじさんが、ふと思い出したように聞いた。


「一つ、嬢ちゃんに聞きたいんだが。迷いの森には聖獣がいて、お願いすれば正しい道まで案内してくれる――そんな噂話があるんだが、本当か?」


「聖獣様はいます。……たぶん」


フリージアは小さく頷く。


「お母様はいるって言ってたから……いるとは思うんです。でも、私は見たことがないので、確実とは言えなくて……ごめんなさい」


しょんぼりとうつむくフリージア。


天を仰いでいたゼルムおじさんは、突然パンッと膝を叩いた。


「悩んでても仕方がねぇ!今取れる手がそれしかないなら、突っ込むだけだ!!お前らもいいな!?」


勢いに押され、僕は思わず頷く。

だが、隣のフリージアは頷かなかった。


それに気づいたおじさんが顔を向ける。


「あの……もう一つあって」


フリージアは少し言いづらそうに続ける。


「聖獣様は、無垢な心の持ち主にしか姿を見せないって言われてるんです。だから、その……」


言い切る前に、おじさんが元気よく割り込んだ。


「そうなのか!!なら俺たち三人とも会えるってことだな!!」


満面の笑みで胸を張る。


僕とフリージアは、同時におじさんを指さした。


「無垢じゃないだろ」


「無垢じゃありません」


二人同時に真顔で言うと、おじさんはわかりやすくいじけた。


その後、しばらくの話し合いの末――

僕とフリージアの二人で、迷いの森へ入ることが決まったのだった。








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