人か魔物か⑰
「生き様……ですか?」
青髪の男が険しい顔をしながら前に進み出てくる。
「お言葉を返すようで恐縮ですが、戦ってるのは魔物と獣人ですよ?
しかもあなたの言葉を借りるのであれば、戦闘で命を賭けて戦うのなんて当り前の事ですよね?」
その言葉には侮蔑が含まれているのを感じる。
最後の言葉もそうじゃないだろ。その戦いの中で1対1で戦いたい相手がいる事が分からないのか?
「おい!あんたらは戦ってるあの2人を見て何も感じないのかよ?」
僕のその言葉に肩を竦め顔を見合わせる3人組は子供をあやす様に言葉を投げかけてくる。
「何を言ってるんだお前は?ただ戦ってるだけだろ。なぁ?」
「だな、醜い魔物と動物もどきが戦ってるだけだよ」
「そうそう、人間以外に生き様なんかないだろ」
3人組の冒険者が口々に否定の言葉を繰り出す。
こいつらとは一生分かり合える気がしないな…………。
「ねぇねぇお兄さん達~、それってエルフの私にも言ってる?」
微笑を絶やさないまま後ろを振り向くエルフに慌てて弁解をする3人組。
「い、いえエルフは誇り高い種族ですのでもちろん違いますよ!」
「俺たちが言ってるのは汚い獣人と魔物だけです」
「そうですよ!エアリアルさんの事は冒険者の皆が褒めてるんですから!」
「そっか~ならよかった!皆の事嫌いになるところだったよ~」
なんだコイツら…………。
イラつくな。
人間はこんな奴らばかりなのか?
それにこいつら…………ミオを、馬鹿にしやがって。
白銀の髪の女が初めて僕に目を向けてくる。
だが僕の目線の先にあるのは後ろの4人組だけだ。
前を歩きだした僕の目の前にお爺さんの腕が割り込まれる。
目線を向けるが前を見据えたまま動かない。
「お主は儂に任せると言ったな?ならば手を出さないのが筋であろう?」
その言葉に歯を軋ませる。
飛び掛かりたい衝動を必死に抑え冒険者たちを睨みつける。
ここで冒険者と戦って良い事なんて1つもない事など百も承知だ。
だけどミオを貶されて黙ってられるほど大人でもないんだよ、僕は。
「お主ではせいぜい2人の相手をするのが精一杯じゃ、
力量差が分からんわけではないだろ?」
言われなくても分かってる、だから何なんだよ。
「勝てるとか、負けるとか、そんなの関係ないんだよ……。俺は…自分が正しいと思う道を突き進むだけだ!!」
不自然に周りの風が渦巻き始める。
その瞬間に冒険者3人が後ろに蹴り飛ばされ後方に吹き飛ぶ。
僕じゃない……。エルフの少女が微笑を浮かべたまま僕らに向き直る。
「あいつらには私から言っておくからさ、この場は怒りを収めてくれないかな?
君も冒険者同士で争う事の面倒さは知ってるでしょ?」
知らないとも言えず、呆気に取られ、怒りが霧散する。
「若い衆覚えておけ!お主らのいう事は至極全うじゃ、何も間違っておらん」
その言葉は蹴られた3人組、あるいは全員に向けられた言葉だ。
お腹を擦りながら立ち上がる青髪の男がエルフを見てお爺さんを見る。
「だったら――」
「そして儂とこの小僧のいう事も間違っておらん」
「はい?」
「言葉で分かり合えるのなら諍いなど起こりはせんという事じゃ。
もう一度言うぞ?ここを去って別の場所に行け………」
「はーい!街道の方を手伝ってきます!ほらほら君たちも行くよ!」
「え?」
「いいからいくの!また蹴り飛ばしちゃうぞ?」
その言葉に渋々街道の方向へ走り去る。
残ってるのは白銀の女だけだ。この女からは敵意も殺意も読み取ることが出来ない。
「お主も去ってくれんかの?全力でやり合う事になるぞ?」
その言葉に女の槍が動き、切っ先がお爺さんに向けられる。 何も”感じない"、空気の重さがまるでない事に驚く。目を瞑れば平穏な日常の中にいる、そんな錯覚すら覚える。
「勘違いしておらんか?儂が全力でするのは捌く事じゃ。後ろの戦闘が終わるまでな」
白銀の女が一瞬目を瞑り構えを解く。
「この事は黙っていてあげる」
その言葉を残しその女も街道の方へと走り去る。 お爺さんが刀を鞘に納め街の方向へと歩いて行く。
「お爺さん!ありがとう、助かりました」
「儂が自分の意思でやった事じゃよ。…………のう」
語り掛けられるのと同時に足を止め背中越しに声が届く。
「あまり感情を高ぶらせない方が良いぞ?年長者からのアドバイスじゃ」
その言葉だけ言い残し歩みを再開して離れて行く。
「え?それってどういう意味?」
僕の質問を受けても足を止める事は無く、
離れて行く背中を見つめる事しかできなかった。
◇ ◇ ◇
少年からの質問に答えても良かったのだが。
(今のあの少年には言っても理解など出来ないだろう)
感情のトリガー持ちは厄介じゃからなぁ。
儂と槍の姉ちゃんとはまた別種。
【壊れるなよ、少年】
「いいのう、これからの世の中に希望が持てるというもんだ!!」
あの姉ちゃんが引いてくれて良かった。
「信念の乗らない死闘はつまらんからなぁ」
◇ ◇ ◇




