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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第一部
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15歳・4

 殺意の炎を絶やさずにいられるという点で、明美と同じ学校に進んだのは正解だった。

 高校生活はまあまあ軌道に乗ったし、フィジカルでは百パーセント勝てる能力を得ている。ここらで、明美抹殺計画をさらに押し進めるべきだろう。


 ……が、正直に言うと、私は行き詰まっていた。


 これまで、明美殺害の具体的な方法について入念な検討を重ねてきた。ただ、幾つか案が出てきたものの、どれも完璧ではなく、有力と思えるものはひとつとしてなかったのだ。

 状況を整理する意味も兼ねて、それら却下した案を紹介してみよう。



 方法1、駅のホームから突き落とす。


 ドラマとかでありがちだからすぐ思いついたが、ここらの駅は自殺防止のために柵ができており、そもそも明美は通学以外で電車をほとんど使わない。却下。



 方法2、毒殺。


 私たちの学校は中学、高校ともに給食はなく、生徒各自が弁当を持ってくる方式だった。教室に置いてある弁当に密かに毒を入れられれば、それは十分に完全犯罪足り得る。


 ……が、明美においてその方法を使うのは問題があった。アイツ、一緒に弁当を食べる友達と、しょっちゅうオカズの交換をするのだ。

 明美の弁当に毒を入れて、それを明美でない人間が食べて死んでしまったら、たまったもんじゃない。想像するだけで身震いする。罪のない人間を殺すなんて、あってはならないことなのだ。というわけで却下。



 方法3、通り魔。


 ネットで調べてみたら、通り魔の犯行による殺人は未解決のものが多い。監視カメラが無いような場所でスムーズに殺せれば、私が犯人だと特定されることはないだろう。計画始動時の私が真っ先に肉体強化に手を出したのも、この案が念頭にあったからだ。


 だが、明美の行動パターン把握のために幾度も尾行を繰り返した結果、ヤツが夜道や人気のない場所を明らかに避けていることがわかった。

 暗い時間帯には一人でコンビニにすら行かないし、塾などには必ず親に送り迎えしてもらっている。親の都合で迎えに来れないときはタクシーを使って帰るし、たとえ明るい時間だろうと、遠回りになってでも、人の少ない通りは避けるようにしている。


 ……まったく、学校では散々威張り散らしてるくせに、どれだけ臆病だというのか。

 近くの林に隠れて明美の家を一晩中監視したり、ヤツの沖縄での家族旅行を変装しつつ尾行し続けた私の度胸を見習ってほしい。

 ともあれ、機会がないという理由で通り魔的殺害は却下。



 方法4、推理マンガに出てくるような犯罪トリックを使う。


 完全犯罪という言葉を思い浮かべれば、コナンとか金田一で使われるような犯罪トリックを連想する人は多いだろう。かくいう私もその一人だ。

 が、冷静に考えれば、そういうのって大抵ひとつ崩れれば全部なし崩し的にバレるものだし、本気の殺人には向かないんじゃなかろうか?

 そもそも、外と断絶された別荘とか島とかで殺人事件が起きたら、そんな場所に居合わせるだけで犯人候補になってしまう。けど、私はそれすら嫌だ。殺人を志す者としては、容疑を向けられるだけで怖いし、きつい。

 私が優先するのは自分の身の安全であり、ターゲットを殺すのはその次だ。殺し方はこだわらないし、ド派手なメッセージや演出で盛り上げる気もまったくない。


 だから、理想は誰にもばれずにひっそり殺すことだ。

 そう考えると、まったく人がいない場所か、逆に人が大勢いて個人を特定されない場所で殺すのが現実的だろう。

 ま、つまりマンガはマンガってことだね。非現実的なトリックなんて、参考にするだけ時間の無駄。私はもっと堅実に明美を殺したいのだ。ゆえに却下。



 方法5、爆弾を送り付ける。


 家に明美しかいないタイミングを狙って爆弾を送り付け、盛大に爆死させるという案。

 いけるんじゃないかと爆弾制作に必要な材料を調べたりしたのだが、その最中に似たような犯行をした男が捕まり、却下となった。

 材料の購入時に監視カメラに映ったのが逮捕のきっかけになったとかで、同じような失敗をしない自信が、私にはなかった。



 他にもちょいちょい検討したが、やはり有力なものはなかった。

 まあ、普通の女子である私があっさり完全犯罪の殺人を犯せるようなら、この国はもっとヤバイことになっている。治安の良さが為せる技と考えれば、そこで平和に暮らす一市民としては喜ぶべき事実なのかもしれない。


 というか、やっぱり警察の捜査力はすごい。ちょっとした手がかりから犯罪の証拠を見つけ、犯人を特定してしまう。

 一方、かと思えば適当な調査で事件がお蔵入りしたというケースも多々あるらしく、しょぼい面を見せることもある。

 つまりは、警察のやる気次第で犯人の検挙率は大きく上がったり下がったりするのだ。

 やる気ゼロなら適当な殺人でも犯人は見つからないし、やる気マックスなら超入念に練った計画だろうとあっという間に犯人は捕まる。

 上に挙げた爆弾の事件だと、ターゲットとされたのは偉い政治家が住む議員会館だったもんだから、そりゃあ警察も本腰入れまくっただろう。


 ――さて、その点において、私にとてつもなく不利な点がひとつある。

 それは、明美の祖父が警察官だということだ。それも、上から二番目に偉い、警視監とかいう立場の権力者。孫娘が殺されたとなれば、当然その人は部下たちに捜査をさせまくるだろう。


 この事実を知ったとき、私は頭を抱えた。

 神様は酷い。なぜ私の殺人計画に、こうも高い壁を用意するのか。明美を殺すことは、世界平和に匹敵する正義極まりない行為だというのに!


 ともかく、適当な殺し方だと警察は高確率で私を見つけてしまう。ゆえに、私に残されたルートは二つだ。



 一、警察の本気モードでも捕まらない、完璧な計画殺人を実行する。


 二、そもそも捜査をされないよう、事故死、あるいは自然死を装う。



 一は、犯罪トリックの件でも述べたように、やはり難しい。理由は上で述べた通りだが、それに加えて、最近見た刑事ドラマで主人公がこんなセリフを言っていたことも大きい。


『自分らは年に百回も殺人事件を経験している。それに比べて、大抵の殺人者は初犯。経験の差で負けるわけがない』


 真理だと思った。


 殺人素人の私が、逆の立場とはいえ殺人のプロである警察に勝てるわけがないのだ。

 もちろん、警察の入念な捜査でも捕まらない犯人はいるだろう。だが、それらは多分、様々な幸運が積み重なったおかげだ。偶然監視カメラがなかったり、偶然証拠が風で飛ばされたり、偶然捜査担当者にやる気がなかったり、そんな感じの。

 確実性を取るなら、言うまでもなくそんな運任せの方法は取れない。私は絶対に捕まりたくないから、警察に捜査すらさせてはいけないのだ。


 そんな思考を経て、私はひとつの結論に辿り着いた。

 明美を殺すなら、事故死か自然死を装わなけばならない。


 車で轢かれる、高いところから落ちる、海で溺れる、――事故死と言えば、そんな感じかな? 自然死のほうは……ちょっと思いつかない。少量の毒をちまちま飲ませ、病気にさせて死なせるとか、そのくらいか。


 なんにせよ、今まで自分に言い聞かせてきたように、確実に明美を殺し、かつそれが私の犯行だとバレないようにしなければならない。そしてシチュエーションを用意する必要があることから、これまで以上に明美の行動の把握が重要となるだろう。

 だが、あの女、調べれば調べるほど警戒心が強く、ガードが堅いことが判明してきて、正直嫌になる。

 ここらでひとつ、高所恐怖症とか、実はヤバイ持病があるとか、弱点が判明しないものかね。それがわかれば、喜んで明美殺害に利用するというのに。


 ――ま、文句を言ってもしょうがない。ヤツへの殺意だけは、何があろうとも萎えることはないのだ。

 それをエネルギーとし、ただ粛々と明美抹殺計画を進めていくとしよう。

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