儚く小さな欠片
「なるほど。確かによろしくない状態だな」
ギブソンのボロ家に、マロン達はリリルを寝かせていた。少しだけ、いやかなり安全面で心配があったが、ギブソン曰くわざとこんなデザインにしただけで、問題はないそうだ。
「しかし、珍しいことがあるものだな。確かに調査中、リリルは体調を崩すことはあったが」
「普通は妖精にしか起きない症状だしね。でも、このままじゃあ先生は危ない」
「ふむ。何にしても俺の研究が鍵なのか。だが、自分で言うのもなんだかこれは頼りない希望だぞ?」
ギブソンの言う通りだった。
ラフランカ帝国はどうして滅びたのかハッキリとわかっていない。それに、それがリリルを救う手立てになるとは限らないのだ。だが、それでもマロンは前に進む。
「先生に頼まれた仕事だ。それに、何かの確証がないままあなたの元には来ない」
「ほう、確証とな?」
マロンは隣に座るフィーネに顔を向けた。そして、リリルが一時的に危機を乗り越えた出来事を口にする。
「先生は、フィーネのおかげで助かった。そしてフィーネは、おそらくラフランカ帝国の人間だ」
「末裔ということか?」
「いいや、純粋な。詳しいことは後で話すが、俺はそう確信している」
「では、どうしてそれがリリルを助けられると考える?」
「フィーネが先生を助けてくれた時、不思議な現象が起きていた。言葉にするには難しすぎるが、とにかく俺の理解を超えていた。でも、もしかするとそれが先生を助ける鍵だ。そしてそれはラフランカ帝国が繁栄し、滅びた〈理由〉になるものだと思っている」
ギブソンは頷きながら腕を組んだ。
「なるほど。お前さんは〈青の儀礼〉を生で見たのか」
「青の儀礼?」
「かつての技術、と言っておこう。魔法は普通、妖精にしか使えない。だが、この技術さえあれば人でも魔法が使えるというものだ。ラフランカ帝国はこの技術を使い、大国まで繁栄したという逸話がある。だが、大きな力を求めすぎたために滅びてしまったという言われもある」
あやふやな答え。だが、希望を繋ぎ止めるには十分な情報だ。
「それじゃあ、ラフランカ帝国は先生を助ける技術を持っているのか?」
「確証はない。しかし、可能性はある」
その言葉にマロンは胸を撫で下ろした。
だが、ギブソンは警鐘を鳴らす。
「マロン、と言ったな。一応言っておくが、これは確定ではない。それに、ラフランカ帝国の技術はあまり掘り起こしてはいかんよ」
「どうしてですか?」
「確かにリリルは助かるかもしれん。だが、その代償は大きい可能性もある。もしかすると、望んだ結果にはならないかもしれんぞ?」
何となくだがニュアンスは伝わってくる。
だからこそ、マロンは反発した。
「あなたも、俺達を目の仇にするんですか?」
人に役立つ仕事をしている。そんなプライドがあったからこその反発だった。
ギブソンはただ静かに見つめる。マロンはそれを、睨みつけるだけだ。
「マロン」
静かな緊張感。それを破ったのは、フィーネだった。
何気に振り向くと、突然頬に手が伸びる。気がつけばつねられていて、思いもしない痛みが頭を支配していた。
「な、何をするっ?」
「ケンカするために来たんじゃないんでしょ? このままじゃリリルさんは、死んじゃうかもしれないのよ?」
思いもしない出来事にマロンは戸惑っていた。だが、容赦なくフィーネはマロンの頬をつねる。何度も何度もつねって、マロンにこう言い聞かせた。
「どんなことがあってもリリルさんを助けるんでしょ? なら、安いプライドなんて捨てなさいよ!」
「いだだだだっ! わかった、わかったから!」
フィーネはマロンの頬を思いっきり引っ張ってから離す。そのせいか、マロンの頬っぺたは赤く腫れ上がってしまう。
涙目になりながら頬を抑えるマロン。その姿は先ほどまでのマロンからは想像できない。
「ったく、手をかけさせないでよ」
偉く嫌われたもんだ。
マロンは少し感謝しつつ、再びギブソンへと顔を向けた。
やるべきことはわかっている。だからこそ、大切だが安いプライドは捨てた。
「先ほどはすいません。ですが、俺はどうしても先生を助けたい。だから、お願いします。俺達に――力を貸してください!」
ギブソンは、その言葉にやれやれと頭を振った。
しかし、すぐに優しい目つきとなって微笑む。
「リリルはいい弟子を持ったようだ」
ギブソンは微笑みながら「わかった」と言って立ち上がる。そして、ゆっくりと部屋の奥へと足を啜ました。
「ついてきなさい。君達が求める〈可能性〉の元へ案内しよう」
マロンはその言葉に、嬉しさを覚えた。
それを見た二匹の妖精は、マロンに向かって笑いかける。
「「よかったね」」
ギブソンの後を追いかけるように妖精達は飛んでいった。マロンはその背中に礼を送り、立ち上がる。
「行くぞ」
希望は、微かにだがある。それを確実なものにするために、マロン達は進む。
リリルを救うために掴んだ希望。
それは確かなものなのかどうか確かめるためにマロン達は動き出す。




