記された希望を追って
朝、マロン達はリリアを連れてキャンプ場を出発した。
リリアが乗ってきたバギーに乗って走ること、約二時間。リリルがつけた日記を頼りにギブソンが住んでいるだろう村へと辿り着く。
「うわー」
そこはとてものどかな村だった。人も、動物も、そして珍しいことに妖精も、何もかもが笑っているような場所である。
ゆっくりと進む牛がいて、その牛は荷台を引っ張っている。猫は猫で樽の上に丸まって眠っているし、犬は楽しげに飼い主だと思われる人とボールで戯れていた。
飛び交う妖精達は遊んでいるのか、たくさん笑ったり泣いたり、怒ったりとどこか感情豊かだ。
そんな中をバギーで走るマロン達。だからなのか、村中の視線を集めてしまう。
「なんか見られているわね」
「もともとバギー自体が珍しいアーティファクトだからな。ま、仕方ないさ」
マロンはそう答えながらバギーを走らせていく。ふと、気がつくと子供達が寄ってきて「これ何?」と訊ねてきた。
賑わう中、フィーネが笑顔を向ける。それに子供達はもっと賑やかになっていた。
「ねぇ、マロン。そのギブソンって人は、ここにいるの?」
「手帳を頼りにしてきたから、何ともだ」
そんな中、マロンとティトは真剣なやり取りをしていた。
ここにいるかどうかは、行ってみないとわからない。手探りのような状態に、ティトは何とも言えない感情を抱いてしまう。
しかし、例えハズレでも行くしかない。そうしなれば次への行動も決まらないのだ。
「ひとまず、行くぞ」
村の一番奥にある家。森と勘違いしそうな雑木林を抜けて、マロン達はそこに辿り着く。
広がるのは、今にも崩れそうな家だった。柱はツタに巻きつかれているうえに、壁はよくわからない葉っぱで支配されてしまっている。
よく見ると玄関の扉はボロボロで、何かに襲われたのかと考えてしまうほどだった。
「こんな所にいるの?」
ティトの疑問に、マロンは頷くしかなかった。
正直、いるとは思えないが。
だがそんな不安をかき消して、マロンはバギーを家の近くへと止めた。
「さて、と」
祈るような気持ちで、マロンはバギーから降りる。ティトが続いて、マロンの後ろについていく。
フィーネにはリリルの看病を任せつつ、安全が確認できるまで待機してもらうことにした。
「できればここにいてくれよ」
ボロボロの玄関の扉をマロンは叩いた。しかし、反応はない。
試しにドアノブを回してみると、鍵はかかっていないのかすんなりと開く。
マロンはティトに目配せをした。それに気づいたティトは、静かに頷いてマロンの肩へと身体を下ろした。
ゆっくりと中へ入ってみる。するとそこは、昼間なのにとても暗い。
「なんだか不気味だね」
廃墟かもしれない。そう考えた瞬間だった。
「おい」
何かに呼ばれた気がして、マロンは振り返る。すると目の前に銃口があった。
当然、咄嗟な反応なんてできない。だからマロンは、容赦なく餌食となってしまう。
「――――」
轟音と共に被ったちり紙。まるでクラッカーを間近で受けたような気分になりながら、キンキンと痛む耳を、マロンとティトは抑えていた。
そんなマロン達を眺める老人は、ショットガンを担ぎながら「ダッハッハッ」と笑い声を上げていた。
「引っかかったな、若造共! 鍛錬が足りないぞ?」
メガネをかけた知的な老人。そう思っていたマロンだが、会ってみてそれは幻想だったと感じた。
目の前にいるのは、ピエロの格好をして笑っているひょうきんなジジイだ。いろいろと指摘したいところがあるが、それよりも言いたいことがある。
「なんだこの茶番は……?」
何とも言えない感情をグッと堪えるマロン。ティトはというと、音があまりにも大きかったのか目をグルグルと回していた。
そんな中、第二弾がやってくる。それは妖精達によるイタズラだ。
「それー」
「真っ白にしろー」
マロン達はよくわからない白い液体を被る。もはや怒りしかないが、それを爆発させようにもイタズラが終わらない。
「彩り彩りー」
「ケーキみたいに盛り付けるぞー」
どういう姿になっているのかわからないマロン達。気がつけばイチゴっぽい何かを頭にたくさん置かれ、チョコに似せた板を額に貼られていた。
胸には妖精の自画像といえる絵が描かれており、もう何を意識したのかわからない何かに出来上がっていた。
「「いえーい」」
「いい出来だぞ、ハミィにイール。これは最高傑作だ!」
愉快に笑うジジイとハイタッチする妖精二匹。
これは、殴ってもいいよな?
マロンは気がつけば手を固く握って拳にしていた。
「お、落ち着いてマロン!」
「いいや止めるな、ティト。俺はこいつらを殴ると決めた!」
「ダメだって! リリル先生を助けるために我慢してって!」
懸命に止めるティト。しかし、マロンの怒りが収まらない。
このままではせっかくのヒントが、惨状になって無駄になってしまう。
「リリル?」
だが、そうなる寸前にジジイが反応した。
「お前さん達、なぜその名前を知っている?」
殴りかかろうとするマロンだったが、その言葉で冷静さを取り戻す。
このジジイは、どうやら当たりだ。
「あなたが、ギブソンか?」
「そうだが、お前さんは?」
「俺はマロン。リリル先生の弟子だ」
その言葉に、ギブソンは不思議そうな顔をしていた。
すぐ傍を飛んでいる妖精達も、同じようにしながらマロン達を見つめていた。
手帳に記されていた希望を追いかけてきたマロン達は、考古学者のギブソンと出会う。
希望は本当にあるのか?




