私の名前
重たい荷物を背負って歩くマロン。少ないながらも手伝うティトに、何も持たない青髪の少女を引きつれて進んでいく。
本来ならば移動に一時間ばかりかかる道のり。しかし、バギーがぶっ壊れてしまったこの状況では一時間で辿り着くはずはない。
歩いても歩いても見えてこない目的のキャンプ場。それでもマロンは、足場の悪い中を歩いていく。
「大丈夫?」
ティトが心配げにマロンに声をかける。マロンは正直に「きつい」と言い、歩き続けた。
正直な話、弱音を吐いても現状は変わらない。それに、下手すればさらに状況が悪化するかもしれなかった。それだけにバギーを失ったことが大きい。
「ねぇ、あなた」
そんなマロンを見かねた少女が声をかける。立ち止まり、何気なく振り返るとこんなことを口にする。
「最低限の荷物だけ持てば?」
言いたいことが何となくわかった。しかし、マロンにとってこれは大切な戦利品だ。
「置いていけるか。俺はこいつを殺したんだからな」
「あなたね、状況がわかっているの?」
「わかっている。そのうえで責任を取るんだ」
少女は呆れた顔をした。
マロンが持っているリュックの中身。それは少女にとって大切な存在だった者の残骸だ。
「わかってない。もし、その魔獣だっけ? 襲われちゃったらどうするのよ?」
「戦うだけだ」
「そっちの妖精の負担とか、考えているの?」
マロンは言葉が詰まる。
確かにそこまで考えていなかった。もしティトのことを考えると、ちんたらと移動している場合じゃない。
「だがな」
「ったく、詰めが甘い男ね。バックを下ろしなさい」
そういって少女はマロンの傍に寄った。マロンは言われた通りにバックを下ろす。すると、少女は中に入っていた機械人形の頭だけ手に取り、マロンへと渡した。
「これだけにしなさい」
マロンは手渡された頭部を静かに見つめる。なぜだかわからないが、その背中はどこか寂しげだ。
「なぁ」
「文句なし。さっき許してあげたでしょ?」
「いや、そういうことじゃなくて」
「じゃあ何よ? 何か不満がある?」
詰め寄られたマロンは、何も言い返せなかった。
不満はある。だが現状を考えると、この少女の言い分が正しい。
「ないなら歩く。わかった?」
「わかった……」
荷物の八割を捨てて、マロン達は進み始める。
サンサン、いやギラギラと輝く太陽は、そんな三人を嘲笑っていた。マロンは汗を拭う。ティトも熱さに参っていた。
だがそんな二人よりも大変そうなのが、青髪の少女だった。
「ハァ、ハァ……」
長い間、箱の中で眠っていたせいだろうか。少女は体力がなく、今にも倒れそうな勢いだ。
マロンはそんな姿を見て、つい声をかけてしまう。
「大丈夫か?」
「あたり、前、じゃん」
どこが平気だろうか。
マロンはティトに目配せをし、足を止めた。
「休憩するぞ」
「え?」
「意地張られてぶっ倒れたら困る。それに俺達も限界だ」
本来ならいち早くキャンプ場に辿り着きたい。だが、少女の状態を見ればそんなことを言っている場合じゃない。
マロンはそう判断し、近くに合った大岩の影へと向かい始めた。
「ちょっ、ちょっと、さっきまで魔獣がって――」
「ほら、飲め。ちゃんと水分補給をしろ」
「わーい、休憩だー」
少女が戸惑っていると、大岩の影にマロン達は荷物を置いた。その荷物を椅子代わりにして座るマロン。垂れ流れる汗を拭いながら、一緒に休もうとするティトにこんな指示をした。
「ティト、少しその辺りを見てきてくれ」
「えー?」
「あとでキャンディをやるから」
「約束だよ? マロン」
ティトはどこかへと飛んでいった。マロンはそんなティトを見送った後、周辺を見渡す。
「魔獣の気配はなしと」
油断のならない敵はいない。そう踏んだマロンは、少女に顔を向ける。
少女は少し警戒しながらマロンが待っている日影へと来る。そして、一度マロンを睨んでから渡されていた水筒のフタを開けた。
口へと運び、喉を鳴らして水を飲んでいく。それは見ている側からしても気持ちいい飲みっぷりだ。
「プハァ」
それはまるで、生き返ったかのような顔だった。それを見たマロンは、つい顔を綻ばせてしまう。
「何よ?」
「アンタも俺達を変わらないんだな」
少女はその言葉に、つい目を点にしてしまった。
「何バカなことを言っているのよ? 見た目は、まあ違うけど、同じ人間よ? 大差がある訳ないじゃない」
「ほう、アンタはれっきとした人間だったか」
「あなた、ケンカ売っているの?」
マロンはその言葉に堪らず笑った。
どこか不安だった。この少女は、自分達と違うんじゃないかと。だけどその不安は完全になくなる。
だってこの少女は、自分と同じだ。
「おーい、マローン」
笑っているとティトが帰ってきた。マロンは何気なく振り返り、ティトに目を向ける。
「ねぇ、あなた」
その瞬間だった。少女がマロンを呼んだのは。
「なんだ?」
「私、フィーネって名前だから」
「突然どうした?」
「勘違いしないで。いつまでもアンタって言われるの、嫌なだけだから」
マロンは反応に困った。だけど少しだけ、戸惑いもなくなる。
だから感謝を言葉にして送った。
「わかった。これからはそう呼ぶ。いいだろ? フィーネ」
フィーネはフンと鼻を鳴らし、顔を逸らした。
だが、少しずつマロンに心を開いた様子であった。
マロンに名前を告げたフィーネ。
ちょっとずつだが心を開いていく。
次はマロン達が恐れている師匠が登場だ。




