欲深き王様
『僕は、お姉ちゃんを守れなかった』
その言葉は、後悔に似た言葉だった。
『レイド。あの王は自分の欲のためにお姉ちゃんを道具として使った。それが許せなくて、だから僕は助けるために走ったんだ。だけど、辿り着いた瞬間にお姉ちゃんは――』
言葉が途切れる。しかし、マロンの歩みは止まらない。
『僕は、お姉ちゃんを助けるために身体を失った。そして、気がつけば機械人形の身体になっていたんだ。やっと助けることができた。けど、また守り切れなかった』
悔しそうにカルは、言葉を繋ぐ。マロンはそれを、黙って聞いていた。
『お姉ちゃんは、みんなを助けるために〈門の鍵〉になってしまった。その影響で死なない身体になってしまった。そして、力を使いすぎたお姉ちゃんは眠ってしまったんだ。だから僕はお姉ちゃんを守ることにした。目覚めるまで、目覚めてからもずっと、そうしようと思っていたんだ。そして、その時は訪れた』
それが、マロン達との出会いでもあった。
だが、その眠りはあまりにも長かった。だからこそカルは、こんなことを言う。
『だけど僕は、壊れてしまった。だから、もうダメなんだ』
寂しげな言葉だった。しかし、カルは思いもしないことを言い放つ。
『君が僕を壊してくれた時、正直悔しかった。だけど同時に嬉しくもあったんだ。だって、僕は、お姉ちゃんを守れないのだから』
その寂しい言葉に、マロンは何も返せなかった。しかし、カルは敢えて言葉を言い放つ。
『力は貸す。だから、あいつからお姉ちゃんを救って』
通路が開けた。入ってくる不気味な光は、何を示しているだろうか。
『これはこれは。ようこそ、墓泥棒の諸君』
マロンは静かに顔を上げた。するとそこには、手足を鎖で繋がれているフィーネの姿と、黒く禍々しい少年の姿があった。
『僕はレイド。この墓場に眠る〈ラフランカ帝国〉の王だ』
その薄気味悪い笑顔は、とても挑発的だった。
マロンはそんなレイドを睨みつける。
「死んでなお頂点か。それだといつまで経っても下にいる俺達は上がれないな」
『それが世の理さ。強い者だけが、生き残る。そうできている』
「とんでもない嫌味だ」
マロンはゆっくりと拳銃を抜いた。それを見たティトが、マロンの隣に来る。
『ほう、妖精か。いいものを持っているな、君は』
「こいつは仲間だ」
『仲間?』
その言葉を聞いたレイドは、頭を抑えて笑い出した。まるで堪え切れなかったかのように噴き出したそれは、空間を揺らす。
『道具に、そんな価値などない』
もっとも、と言葉を繋げるレイド。直度にその後ろから大きな白い円陣が出現した。
『それは、僕にとっていらないものだけどな』
放たれる氷の刃。ティトはそれを見て、咄嗟にマロンの前に移動した。
張られる幾重の壁。しかし、氷の刃は簡単にそれに突き刺さる。
「グゥゥ!」
実力差は明白だった。だからマロンは踏ん張っているティトの身体を掴んで、胸に抱きながら刃の雨の中を駆け抜ける。
「マロン!」
「わかってる!」
防御ができないのなら、攻撃するしかない。
マロンは走りながら拳銃のトリガーを引いた。しかし、銃弾は簡単にレイドの身体を貫いてどこかへと行ってしまう。
『無駄なことだ』
レイドは余裕の笑みを浮かべていた。マロンはそれに苛立ちを覚える。
剣士は剣を攻撃すると苦しんでいた。それを考えると、こいつも象徴する何かを攻撃すればダメージを受ける。しかし、その象徴がわからない。
「マロン!」
フィーネが心配げに声を上げた。しかし、絡まっている鎖のせいで助けに行くことも逃げることもできない。
『耳障りな』
レイドはそんなフィーネに怒りを向ける。マロンはそれを見て、妙な違和感を覚えた。
戦っている最中だというのに、なぜ振り返る?
「まさか……」
マロンは、何かに気づく。しかし、その前にレイドが叫んだ。
『僕は、全てを支配する王だ!』
魔法陣が、マロンの行く手に現れる。それは赤く輝き、その一面を一気に燃え上がらせた。
『君のような虫けらに、それを邪魔する権利はない!』
マロンは思わず立ち止まる。その瞬間を狙ったかのように、レイドはマロンの後ろへと立った。
そして、その腕でマロンの胸を貫く。
「――――」
何とも言えない痛みが走った。何が起きたかわからないまま、力が抜ける。
「マロン!」
掴み取られたのは、青白い炎の塊。ティトはそれが何なのかわからなかった。だけど、すぐにマロンが危ないと気づいた。
「ダメだ!」
魔法を発動させる。その手が抜けないように壁を作った。
しかし、それは簡単に破られ砕け散ってしまう。
「うわっ」
前のめりになって倒れるマロン。ティトも一緒に倒れて、そのまま下敷きになってしまう。
それを見下ろしたレイドは、勝ち誇ったかのように高笑いを上げた。
『見たか? これでお前の希望は、潰えたぞ! フィーネ!』
フィーネはあまりの出来事に、言葉を失っていた。
大嫌いな奴が、やられた。
それが、フィーネの心をかき乱す。
『さて、どうする? お前の返答次第では、見逃してもいいが?』
答えは決まっている。でも、だけど、そんなことを言ったらマロンは死ぬ。
わかっているのに、言葉にできない。
『お前がかけた鍵を解除しろ。できるだろ? フィーネ!』
フィーネは、首を横に触れなかった。
悔しさの中、マロンを助けるために頷く。
フィーネを助けるためにマロンはレイドと戦う。
しかし、力及ばず敗れてしまった。
どうなってしまうだろうか?




