蘇る真実
そうだ、私は――
『なぜだ!』
蘇る叫び声。それはフィーネが選択した行動に対してのものだった。
ハッキリとは、覚えていない。いや、覚えているはずがなかった。
『なぜだ。なぜ、この僕を拒絶する!?』
フィーネはあの時、欲深い王様の策略によって、ある儀式の生贄にされていた。懸命に走ってきてくれたカルの助けは間に合わず、目の前で剣を突き刺されてしまう。
『せっかく、呼び出したんだぞ? どうしてなんだ!?』
フィーネの全てを使い、呼び出した〈願望の門〉の前で、欲深き王様は叫んだ。途切れようとする意識の中、開かないそれに欲深き王様は怒り散らしていた。
そんな中、カルがフィーネの身体を起こす。そして、こんなことを言ってくれた。
『死なないで!』
そこで一度、意識は途切れた。そして、もう一度目覚めるとカルは鋼鉄の戦士へと変化していた。フィーネを守るように抱き締めている身体には、温かさは感じなかった。その赤い目にも生気はない。
でも、それはカルそのものだった。
『よかった。よかったよ、フィーネお姉ちゃん』
喜ぶカル。だけどフィーネは素直に笑えなかった。
いろいろなものを、〈願望の門〉によって奪われた。取り返そうにも、取り返せない。だから自然と涙が溢れてしまう。
『おの、れぇ……』
その声に、二人は凍りついた。振り返ると、上半身だけになった欲深い王が睨んでいる。
『許さない、許さないぞ!』
王は〈願望の門〉へ祈りを捧げた。直後に王の身体は黒く解け、一つの鎖へと変化する。
その直後だった。その祈りへ対しての代償を、〈願望の門〉が求めたのは。
『これは――』
たくさんの青が、〈願望の門〉へと吸い込まれていく。始めは何なのかわからなかったが、それが人の命だと気づいた時には、もう国に人は残っていなかった。
『止めなきゃ』
止めなければいけなかった。このままではラフランカ帝国だけの問題じゃなくなる。
立ち向かおうとしたフィーネ。だけどカルがそれを引き止める。
『ダメだ、お姉ちゃん!』
動けない鉄の身体。フィーネを守るために何もかも失ったはずのカル。だがフィーネを守りたいという一心で、心を取り戻していた。
『また、死んじゃ嫌だよ!』
フィーネは笑う。少し悲しそうな顔をしながらも、だけど笑った。
『ありがとう』
カルがしたことが無駄になる。そんなことわかりながらも、フィーネは門の前に立った。
醜い王様のために、これ以上の悲劇は起こさせない。これは自分達の責任でもあって、そして自分に対しての戒めだ。
『お姉ちゃん、お姉ちゃーん!』
フィーネは、門を閉じた。そして二度と開かないように鍵をかける。
そして、そのまま力が抜けて、ゆっくりと崩れ落ちた。
それからは覚えていない。そして、気がつけば変な場所で目を覚ました。
そこでフィーネは、大嫌いになる茶髪の少年と出会った。
◆◆◆◆◆
「……ここは?」
『お目覚めかな? 黄泉の姫君よ』
聞き心地が悪い声が耳を刺激する。フィーネは思わず顔を上げると、そこにはいるはずのない王様がいた。
「あなたは――」
『覚えていてくれて光栄だよ、裏切り者』
寒気を覚える。その黒く染まった身体は、異様な禍々しさを感じてしまう。
薄気味悪く微笑みながらフィーネの顎を上げる王様。そこには愛情と言える温かさはなかった。
『いくら君でも、鎖で繋がれてしまえば動けないだろ?』
「何が目的よ? もしかして生き返りたいの?」
『くくっ、確かに復活はしたいね。そのためにいろいろと細工をしたしな』
「細工?」
『ああ、細工さ。君が目覚めるだろう時期に合わせて、ある一族の魂に細工をした。君が大好きになりそうな人間だったと思うぞ?』
目を大きくしてしまう。まさかと思いながら、フィーネは王様を睨みつけた。
「あなたが、リリルさんを――」
『ほう、やはり気に入ったか。さすがは卑しい身分だった女だ』
この男は、やっぱり嫌いだ。
自分より身分が低い者を、人として扱わない。もし価値があっても、それは道具でしかなかった。
『いいプレゼントだろ? フィーネ』
「レイド! あなたは――」
何かを叫ぼうとしたフィーネ。しかし、その目に思ってもなかったものが入ってくる。
それは、自分が鍵をかけて消したはずの〈願望の門〉だった。
「なんで……」
『ここには、代償となるものがたくさんあってね。だが、どうしても開くことができない。だからフィーネ、これを開いてくれないか?』
フィーネは拒もうとした。しかし、それをする前にレイドの目が鋭くなる。
少しだけ楽しそうに笑ってから、部屋の出入り口に振り返っていた。
『話はここまでのようだな』
広がる闇。そこから出てくる少年は、あの忌々しい機械人形の頭を被っている。
『これはこれは。ようこそ、墓泥棒の諸君』
その皮肉めいた言葉に、マロンはゆっくりと顔を上げる。
レイドはそれを見下ろした後、薄気味悪く笑った。
『僕はレイド。この墓場に眠る〈ラフランカ帝国〉の王だ』
全てを思い出したフィーネ。
それは、ただ悲しい記憶でしかなかった。




