20:エピローグと、プロローグ
後日談として、烏丸局長は局長職を退いた。みずから引責を申し出たらしい。
平職員となった烏丸さんは、今ではよく外に出て働いているという。
そして、烏丸さんの隣には、いつも長袖の服を着た少女がいるらしい。
彼らはたまにダンジョン隔離施設にも出向し、魔石の研究に参加しているらしいが、少女に肩車をせがまれて、仕方無しに背負ってあげる姿が報告されている。
少女―― 【猿の手の手以外】ちゃんは、名前を求めているという。
だが、烏丸職員の付けた名前でないと嫌だそうだ。
私の出した「祈ちゃん」という名前もいい感じだと思ったんだけどねえ。
……正直なところ、千歳ちゃんに対する烏丸元局長の行いに、思うところがないではない。
けれど、私は当時のことを詳しく知らない。
何より、あの人を許すかどうかを決める権利は、私ではなく千歳ちゃんにある。
今、千歳ちゃんが笑えている。
ならば、少なくとも私は、その選択を尊重したいと思う。
千歳ちゃん、暁灯くん、真白さんの三人は、陰陽寮の管理下には戻らないことを決めた。
置き去りになっていた色々な後始末をつけての、正式な離脱だ。
その上で、三人は姫岸財閥と正式に契約を結ぶこととなった。
探索者としての登録だ。
契約している間、三人の身の安全と千歳ちゃんが生きていくために十分なだけのリソースは、姫岸で面倒を見ることになる。
ただし、ソシャゲのガチャ代金は要相談。
ダンジョンについては、未だ分からないことは数多い。
暁灯くんに追加試験を課したダンジョンシステムさんは何だったのか。
暁灯くんが使役したアビス・ストーカーはどんな存在だったのか。
そもそも、ダンジョンとは、何なのか。
その辺りは、今後も研究されていくことだろう。
そして――。
――――――
久々に登校した。
学校の裏庭にダンジョンが生まれた件の事後処理が終わり、休校が解けたのだ。
そして、放課後。
私は自分の席から立ち上がり、教室の窓際、一番後ろの席へと真っ直ぐに歩いていく。
クラスメイトたちがざわつく。
「姫岸さんは、また宵町が目当てか」
「あのふたり、結局なんなの?」
「でも、姫岸さんの隣にいると分かるけど、宵町って意外と背が高いよな」
そんな雑音は聞こえないふりをして。
私は、窓の外をぼんやり眺めて欠伸をしている、その男子生徒の机の前に立った。
「……ん?」
気配に気づいた彼が、けだるそうに顔を上げる。
「……何か用? 姫岸さん」
彼は完全に「ただのクラスメイト」を演じていた。
多分、今もまた、認識そらしの術式とやらを使っているのだろう。
でも、聖騎士たる私がその術に惑わされることはない。当然、それは彼も承知のことだ。
私は彼から目を逸らさず、予めプリントアウトしてあった紙を彼の机に置いた。
『魔法少女式神大戦公式のコミックアンソロジーと公式ファンブック! それに、「転生したら、鳩でした。」の1巻』
『暁灯はライン見てくれないから、咲希ちゃんお願い!』
それを読んだ彼の瞳が、少しだけ揺れる。
ばつが悪そうに、だ。
多分、ラインの通知を無視していたな、こいつ。
「千歳ちゃんの本だけじゃなく、真白さんからも聞いてるんだよ。『暁灯、数学の点数がなかなか愉快な事になってるから、助けてやってくれない?』って。――この後、時間ある?」
「……あります」
私はニヤリと笑ってみせた。
観念したように、彼が小さく肩を落とす。
私が手を差し出すと、暁灯くんはしばらくその手を見ていた。
それから、諦めたように息を吐いて、私の手を取る。
今度は、引きずらなくても立ってくれた。
いつぞやのように、教室中にざわめきが広がるが、そんなことはどうでもいい。
スキル証明書ではなく、漫画本のリストを持って。
ダンジョンではなく、本屋へ向かって。
聖騎士でも、陰陽師でもない、ただのクラスメイトみたいに。
私たちは、放課後の街を並んで歩き出した。
オタクは、こういった序盤の出来事が反転する物語が好き。私も大好きです。
つーわけで一巻終了。読んでくれた方々、ありがとうございました。
今後も色々書いていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。




