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追放された地味なメイドは和菓子職人の記憶に目覚める 〜王子たちの胃袋を『あんこ』で掴んだら、王宮で極甘に溺愛されています〜  作者: あとりえむ


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第7話 隠された真実と、逆転の切り札

王宮の夜は、男爵家で過ごしたどの夜よりも静かだった。


窓の外には銀色の月が浮かび、贅沢な調度品を淡く照らしている。

けれど、ミアの心は千々に乱れていた。


昼間に現れた男爵家の使者。

あの冷酷な役人の言葉が、呪文のように耳の奥で繰り返される。


(……私が、真珠を盗んだなんて)


もちろん身に覚えはない。

けれど、自分がここに留まることで、ミハエル殿下たちの名誉を傷つけてしまうのではないか。

そんな不安が、胸を締め付ける。


ミアは居ても立ってもいられず、ベッドから這い出した。


せめて、いつ追い出されてもいいように荷物をまとめておこう。

そう思って、部屋の隅に置かれたボロボロの麻袋を引き寄せる。


男爵家を追放されたあの日、わずかな着替えと私物だけを詰め込んだ袋だ。


整理のために中身をすべて床にぶちまけた、その時だった。

麻袋の底から、あの重い煤けた手帳が転がり落ちた。


あの日、メイド長へのささやかな意返しとして持ち出した、あの在庫管理ノートだ。


パラパラとページをめくると、そこにはミアの几帳面な筆跡で、日々の備品の在庫数がびっしりと記されていた。


けれど、単なる在庫表ではない。


前世で事務職に就いていたミアは、無意識のうちに自分にしか分からない計算式を余白に書き込んでいた。


市場での適正価格、納品された実数、そして帳簿上の支払い金額。


「……やっぱり、おかしかったんだわ」


当時、メイド長に「数字が合わない」と何度報告しても、そのたびに「お前の計算が間違っている」と怒鳴り散らされた。


だが今、改めて冷静な目で見返せば、その数字のズレはあまりにも巨大だった。


「こんな夜更けに、何を一人で悩んでいる」


低く心地よい声に、ミアは弾かれたように顔を上げた。

いつの間にか、執務服のままのミハエルが部屋の入り口に立っていた。


「殿下……。申し訳ありません、お休みになられていたのでは」


「公務が立て込んでいてな。それより、その袋は何だ。まさか、勝手に出ていくつもりではあるまいな」


ミハエルの碧の瞳が、僅かに険しさを帯びてミアを射抜く。


ミアは俯き、床に広げたノートを指先でなぞった。


「……迷惑を、かけたくなくて。でも、こんなものが見つかったんです」


ミハエルは不審そうに眉を寄せ、ミアの隣に跪いた。

そして、差し出されたノートを手に取り、月明かりの下で数ページをめくった。


最初は怪訝な顔をしていた彼だったが、ミアが余白に記した「独自の算用数字」と「計算の意図」を説明するにつれ、その瞳に鋭い光が宿り始めた。


「……ミア。お前、これが何を意味するか分かっているのか」


「ええと……メイド長が、備品の数を誤魔化していたという記録でしょうか?」


ミハエルは呆れたように短く笑い、ミアの肩を強く掴んだ。


「そんな次元の話ではない。これは男爵家が長年、国への報告を偽り、領民から奪った税金を私的に流用していた完璧な監査資料だ。共謀した業者の名前も、裏金の流れも、すべてお前のこの奇妙な数字が裏付けている」


ミハエルはノートを握り締め、信じられないものを見るような目でミアを見つめた。


「お前は、菓子作りの天才なだけではないらしいな。……私の最高のパートナーだ、ミア」


パートナー。

その言葉の響きに、ミアの心臓が跳ね上がる。


「これがあれば、あの日、お前を泥水の中に放り出した者たちを、今度こそ完全に葬り去ることができる。……ミア、私を信じてついてきてくれるか」


ミハエルの大きな手が、ミアの震える手を包み込む。

それは、今まで感じたどの暖炉の火よりも、熱く、力強い温もりだった。


「はい。殿下と一緒に、すべてを正したいです」


二人の影が、月明かりの中で重なる。

窓の外では夜が明け始め、東の空が白んでいた。


それは、かつての自分を苦しめた悪意への、反撃の幕開けを告げる光だった。

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愛など不要ですから。お気をつけて 愛など不要ですから。お気をつけて

あとりえむ 作品紹介
愛など不要ですから。お気をつけて 追放された地味なメイドは和菓子職人の記憶に目覚める 忘却の対価は最果ての愛 死に戻り妻は、推しの確定ファンサをお断りしたい。 自分の娘に転生したので息子を当主にするべく暗躍します。
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