第20話 団子3兄弟と、至高の専属メイドの春爛漫
王室特注の豪奢な絨毯の上で、前代未聞の無礼講が始まっていた。
「おおっ!なんだこの肉の厚みは!パンに収まりきっておらんではないか!」
アルベルト国王が目を丸くして掴み上げたのは、カイルとシャルロッテが監修した特製サンドイッチだ。
分厚く切り出された飛竜のロースト肉から溢れる熱い肉汁を、丸ごと挟まれた黄金トリュフの芳醇な香りが包み込んでいる。
「ふふっ、野外ではこれくらい豪快な方が美味しいのですわよ、お父様」
「全くだ。遠慮せずに大口を開けて食ってくれ」
王族たちが威厳も作法も投げ捨てて、巨大なサンドイッチに大きな口を開けてかぶりつく。
滴る肉汁と濃厚なソースの味わいに、幻桜の丘に歓声が響き渡った。
そして、嵐のような肉の宴が一段落した頃。
ミアが、重箱の蓋を静かに開けた。
「食後の甘いものは、こちらの『三色団子』と『桜ホイップ』です」
重箱の中には、若草色、純白、そして薄紅色の三つの丸い玉が串に刺さり、行儀よく並んでいる。
一晩じっくりと水を吸わせ、お湯で力強く練り上げ、氷水で一気に引き締めたお団子は、春の陽光を反射して宝石のように艶やかに光っていた。
その横には、ピエールが精魂込めて泡立てた、淡いピンク色の至高のホイップクリームが添えられている。
「お団子に、このクリームをたっぷりと絡めて召し上がってください」
真っ先に手を伸ばしたのは、徹夜明けのミハエルだった。
彼は三色団子を手に取ると、ピエールのホイップをこれでもかと掬い上げ、一番上の薄紅色の団子を口に含んだ。
「……っ」
咀嚼した瞬間、ミハエルの端正な顔からスッと力が抜け、恍惚とした吐息が漏れた。
歯を押し返すような力強い弾力。なのに、砂糖を練り込んだ生地は赤ちゃんの頬のようにどこまでも柔らかい。
噛み締めるたびに、自家製粉したうるち米の爆発的な甘みと、幻桜の柔らかな香りが鼻腔を抜けていく。
そこへ、ピエールのホイップに隠された練乳のミルキーなコクが、和の素朴な味わいを優しく、そして暴力的に包み込んだ。
「……なんだ、これは。米の甘みと乳のコクが、口の中で完全に溶け合っていく。春の陽だまりそのものを食べているようだ」
ミハエルの言葉に、国王夫妻やカイルたちも次々とお団子を口に運ぶ。
「本当だわ!翠風草の爽やかな香りが、クリームの甘さをすっきりと引き締めてくれますのね!」
「うまい!肉の後にこのモチモチ感と甘さは、反則級に胃袋に染み渡るぜ……!」
「素晴らしい!私のクリームが、団子という未知の素材とここまで完璧に調和するとは!」
全員が三色団子の虜になり、幸せな咀嚼音が丘に響き渡る。
その輪の少し外側で、ミアはホッと胸を撫で下ろし、自分もお団子を一口かじった。
「……美味しい。お米を挽くところから頑張って、本当によかった」
ふと、隣に気配を感じて顔を上げると、いつの間にかミハエルが移動してきていた。
彼は無言のまま、ミアが手に持っている食べかけの串に顔を寄せ、残っていた純白の団子をパクリと咥え取った。
「ひゃっ!?で、殿下!そっちにまだたくさん残って……」
「これがいい。……お前が一生懸命作って、お前が触れたものが、世界で一番甘くて美味い」
ミハエルの冷たい唇が、団子を咥え取るついでに、ミアの指先にわざと触れていく。
徹夜明けで少し気怠げな碧の瞳が、甘い熱を帯びてミアを真っ直ぐに射抜いていた。
その圧倒的な色気と囁きに、ミアの顔は幻桜の花びらよりも赤く染まり、ポンッと湯気を上げる。
「あーっ!兄上!またそうやってミアにちょっかいを出して!ミア、俺にもあーんしろ!」
「ミハエルお兄様、ズルいですわ!わたくしのミアから離れなさい!」
騒ぎ立てるカイルとシャルロッテを他所に、ミハエルはミアの肩を抱き寄せ、その頭に降ってきた花びらをそっと払い落とした。
「春の特等席は、ここだな」
耳元で囁かれた低く甘い声。
ミアは赤くなった顔を誤魔化すように、空になった自分の串と、賑やかに笑い合う三兄妹の姿を交互に見つめた。
ふと、ミアの心の中に温かい気づきが降り積もる。
爽やかな春の風のように皆に活力を与える、若草色のカイル殿下。
華やかで愛らしく、周囲をパッと明るくする薄紅色のシャルロッテ様。
そして、氷のように真っ白で冷たそうに見えて、誰よりも深く優しい甘さで包み込んでくれるミハエル殿下。
(……まるで、この三色団子みたい)
それぞれ全く違う色と個性を持っているのに、一緒にいると信じられないくらい完璧な調和を生み出して、見る人を幸せにしてくれる。
少し前までは、男爵家で地獄のような暮らしを強いられていた自分が、今はこんなにも温かく、賑やかな人たちと一緒に春を味わっている。
その事実が、どんな極上の甘みよりもミアの胸をじんわりと満たしていった。
「……本当に、このお団子みたい」
幸せを噛み締めるあまり、無意識のうちにぽつりと声が漏れていた。
それを聞き逃さなかったミハエルが、ふっと目を細め、さらにミアへと身を寄せる。
「……ならば、お前はこの桜ホイップだな。我が強すぎる私たち三人を、その優しい甘さで一つに結びつけている」
「えっ……私、声に出てましたか!?」
顔を真っ赤にして慌てるミアを見て、ミハエルは喉の奥でくすくすと笑った。
ひらひらと舞い散る幻桜の下。
異世界初のお花見の宴は、最高のお菓子と最高に過保護な王族たちの愛に包まれながら、いつまでも賑やかに続いていくのだった。











