第19話 王様乱入!?国を挙げての春の宴
城下町のはずれ、幻桜が一面に咲き誇るなだらかな丘。
ミアが想像していた「お花見」は、野原に質素な布切れを敷いて、みんなで肩を寄せ合って座るような、素朴でこぢんまりとしたものだった。
しかし、そこはさすが王族である。
「もっと右ですわ!その絨毯の柄が、幻桜の薄紅色と見事に調和するように敷きなさい!」
「クッションが足りないぞ!ミアが座る場所には、一番ふかふかの羽毛クッションを三枚重ねろ!」
ミアたちが到着した時にはすでに、先回りしていた王宮の侍女と近衛兵たちによって、丘の一角が豪華絢爛な野外サロンへと変貌を遂げていた。
最高級の絹が織り込まれた絨毯が敷き詰められ、金糸で刺繍されたクッションが無造作に転がっている。
「……あ、あの。これじゃあお花見というより、王宮の謁見の間の延長みたいな……」
「何を言っているのミア!野外で土埃に塗れるなんて、わたくしたちの肌が許しませんわ!」
シャルロッテが扇子をパタパタと扇ぎながら、当然のように言い放つ。
そこへ、王宮の方角から一頭の早馬が土煙を上げて駆けつけてきた。
馬から軽やかに飛び降りたのは、第一王子ミハエルだ。
「待たせたな。……数日分の公務、すべて完璧に終わらせてきたぞ」
徹夜明けだというのに、彼の顔には疲労の色など微塵もない。むしろ、これから始まる未知の「お花見」と、ミアの新作お菓子に対する執念で、瞳がギラギラと異様な輝きを放っていた。
「ミハエル殿下、お疲れ様です!お菓子もサンドイッチも、完璧に準備できていますよ」
ミアが重箱を抱えて微笑むと、ミハエルの氷の仮面がふわりと溶け、独占欲に満ちた熱い視線を向ける。
「ああ。早く私に、その甘い……」
ドドドドドドッ……!!
ミハエルの甘い言葉を遮るように、地鳴りのような重低音が丘を揺らした。
見れば、王室の紋章を掲げた巨大な四頭立ての馬車が、数十人の近衛騎士を従えてこちらへ向かってくるではないか。
「……おい。なんだあの物々しい行列は」
カイルが剣の柄に手をかけ、眉間にシワを寄せる。
馬車が絨毯のすぐ手前で止まると、立派な装飾が施された扉が開き、重厚なマントを羽織った国王アルベルトと、優雅なドレス姿の王妃エレオノーラが姿を現した。
「父上、母上!?なぜここに……」
ミハエルが驚愕の声を上げると、アルベルト国王は豪快に笑い飛ばした。
「はっはっは!ミハエルよ、余を甘く見るな。お前たちが厨房で怪しげな粉を挽き、一晩もかけて何かを仕込んでいるという噂、王宮中に知れ渡っておるわ!」
「そうよ。一晩も猶予をくれれば、わたくしたちの耳に入らないわけがないじゃない。ミアがまた面白いお菓子を作るんですって?しかも『お花見』という新しい遊びまで」
王妃エレオノーラが、鈴を転がすような声で楽しげに目を細める。
彼らの背後には、おこぼれに与ろうとぞろぞろとついてきた高位の文官や、見物気分のメイドたちまで控えていた。
「そんな……。俺たちだけの、秘密の宴だったはずなのに……!」
カイルが頭を抱え、ミハエルはあからさまに不機嫌な冷気を放ち始める。
しかし、国王の乱入を止めることなど誰にもできない。
「さあ、余も混ぜてくれ!その『お花見』とやら、国を挙げて楽しもうではないか!」
春の風が吹き抜け、幻桜の花吹雪が王族たちの頭上に降り注ぐ。
こぢんまりとしたお花見の予定は、一晩の仕込み時間を置いたがゆえに国王夫妻の知るところとなり、結果的に「国を挙げての春の一大公式イベント」へと大発展を遂げてしまったのだった。











