第18話 三等分の魔法と、至高の桜ホイップ
大きなボウルにたっぷりと入った純白の粉。
ミアはそこへ、最高級の純白の砂糖を適量加えた。
「ミア、お団子の生地にも砂糖を入れるのか?あんまり甘すぎると、肉と一緒に食えなくなるぞ」
横で見ていたカイルが不思議そうに尋ねる。
「大丈夫です、甘すぎない絶妙な分量にしてあります。お湯で練る前に砂糖を混ぜておくのは、甘みをつけるだけじゃないんです。お砂糖の保水効果で、生地の水分が逃げなくなり、外で冷めてもカチカチに固くならないんですよ。お外で食べるお花見には必須の魔法なんです!」
ミアは太い菜箸を握りしめ、グラグラと煮え滾る熱湯を少しずつ注ぎ入れながら、猛烈な速度でかき混ぜていく。
「お湯を入れることでお米のデンプンが糊化して、もっちりとした弾力と、お砂糖のしっとり感が合わさるんです。これを湯捏ねと言います!」
湯気を上げながら、サラサラだった粉がポロポロとしたそぼろ状に変わっていく。
粗熱が取れ、手で触れる熱さになった瞬間、ミアはボウルの中に両手を突っ込んだ。
「ここからは時間勝負です!体重をかけて、一気にこね上げます!」
力強く、けれどリズミカルに。
ミアの手の中で、生地は次第に一つにまとまり、赤ちゃんの頬のように滑らかで、耳たぶほどの柔らかさへと変化していった。
「ふぅ……完璧です。これを、きっちり三等分にします」
ミアは包丁で生地を三つに切り分けた。
一つ目は、自家製粉だからこそ際立つ、うるち米本来の風味を活かした純白の生地。
二つ目の生地には、昨日拾い集めた幻桜の花びらをすり鉢で擦り潰し、少量の湯で煮出した桜色の濃縮エキスを揉み込む。ほんのりと春の匂いがする、薄紅色の生地だ。
そして三つ目。市場で買ってきた爽やかな香りのハーブ、翠風草の葉をサッと塩茹でして色止めし、滑らかなペースト状になるまで擦り潰したものを練り込む。真っ白な生地が、鮮やかな若草色に染まっていった。
三色の生地を、それぞれ同じ大きさの一口大にくるくると丸める。
「カイル殿下、そっちの大きなお鍋、お湯は沸いていますか?」
「ああ、いつでもいけるぞ」
沸騰したたっぷりのお湯の中に、三色の丸い生地をそっと落としていく。鍋底にくっつかないよう木べらで優しく湯をかき混ぜると、数分後、団子たちがぷかぷかと水面に浮き上がってきた。
「浮き上がってから、さらに二分。中心までしっかり火を通します」
ミアは砂時計を睨みつけ、時間が来た瞬間に網杓子で一気に団子をすくい上げた。
そして、隣に用意しておいたキンキンに冷えた氷水の中へ、迷わず放り込む。
「ここで一気に引き締めることで、表面に宝石のようなツヤが出て、強い弾力が生まれるんです!」
氷水から引き上げられた団子は、水滴を弾き、まるで濡れた硝子玉のようにキラキラと輝いていた。
下から緑、白、ピンクの順に竹串に刺していくと、可愛らしい三色団子が山のように出来上がった。
「……素晴らしい。これが和洋折衷の新たなる地平か」
背後から、感動に震える声が聞こえた。
振り返ると、洋菓子職人長のピエールが、銀色のボウルを抱えて立っていた。
「ピエールさん!お願いしていたものはできましたか?」
「ああ。極上の生クリームに、じっくりと煮詰めた甘い濃縮乳……練乳を隠し味に加えて八分立てにした。砂糖の直接的な甘さとは違う、ミルク特有の深いコクを出してある。そこに、君が抽出した幻桜の濃縮エキスを数滴垂らした、至高の桜ホイップだ」
「練乳のコクですね!お砂糖を練り込んだもっちりとしたお団子との相性は、絶対に最高です。ありがとうございます、ピエールさん!」
「ふふ、任せておけ。君の専属生クリーム供給担当として、これ以上の名誉はない」
ミアとピエールが職人としての熱い握手を交わしている横で、とんでもない喧騒が巻き起こっていた。
「料理長!この飛竜のロースト肉、もっと分厚く切ってくださいまし!ケチケチするのは王族の恥ですわよ!」
「シャルロッテ様、それではパンに挟みきれません!カイル殿下も、その黄金トリュフを丸ごと突っ込むのはおやめください!」
「いいから挟め!野外で食う飯は、具がはみ出してるくらいが美味いんだよ!」
お花見用のお弁当作りに参加したシャルロッテとカイルが、王宮お抱えの料理長を半泣きにさせながら、見たこともないほど分厚く、暴力的に豪華なサンドイッチを完成させようとしていた。
「……なんだか、すごいお花見になりそうですね」
ミアは完成した三色団子の山と、淡いピンク色のホイップを見つめながら、これから始まる春の宴に胸を弾ませるのだった。











