仮説と仮分類
対象十件の処理を終えた。
観測数としてはまだ少ないが、ここで一度整理を行う。
理由は単純。
事前に受けた説明と、実際の観測結果が一致しない。
理解を違えたまま業務を進めることは危険だからだ。
物語になれなかった主人公——“勇者”とは何か。
物語とは何か。
そして、この異世界群の仕組みやルール。
私自身が理解できていないことが多すぎる。
まだ断定はできない。
どんな情報が後から意味を持つのかも分からない。
現時点での仮説と仮分類を行うために、記録の見直しを開始する。
■勇者01
異形の生物に転生した元日本人男性。砂漠の灼熱も、光も届かない、深い竪穴の奥底に広がる空間に生息した。種族名「ルールー」は鳴き声に由来する。
現場到着時、魂だけを残して肉体は既に消滅していた。同種の別個体を観測することで生前の容姿を推測。体長約二メートル、手足は長く、体毛のない痩せた体。頭部はまるで恐竜——パキケファロサウルスに類似。視力は弱く、聴覚と嗅覚が発達。石や骨を拾って使用する様子が確認できた。
前世の記憶を持つ勇者01はそれらを組み合わせ、道具として利用していた。それは僅かに生存率を高めることに寄与したかもしれないが、無数の強大な敵対種や、それらを狩ることを生業とする人間が跋扈する環境においては心許ない。その他、種族を問わず意思疎通を可能とする能力を有していた可能性がみとめられた。
■勇者01-2:ルル
幻覚を用いてルールー種に寄生するという生態を持つ現地生物。勇者01は自らに寄生していた個体に「ルル」と名付けている。
魂発見時、その肉体は乾燥加工によって原型を止めてはいなかった。事前に同種を観測し、バレーボール大の丸い頭部と、複数の長い触手を持つ生き物であることを確認していた。頭部には人の顔のようにも見える斑紋や凹凸がある。触手で身体を宿主に固定したり、その体表を器用に移動する様子が確認できた。
ルルの幻覚は宿主の認識だけでなく、能力の一部も制限していた可能性が高い。このことが物語の破綻に影響した可能性は否めないが、決定打とする確証もない。ルールー種に転生した時点で、ルルと同種の寄生生物に取り憑かれることは避けられないからだ。
■仮説:物語が成立しない世界
魂に残された記憶の大半は勇者01-2との生活だった。それは“異世界”や“物語”といった言葉から最初に想像していたものとは完全に乖離していた。
この違和感をそのまま答えだと仮定してみる。勇者01にとって重要だったのは、世界を変えることではなく、生き延びることだった。この世界では生き延びるための工夫は存在した。それによって生活らしきものは成立した。しかし、それだけでは物語にはならなかった。
■暫定分類:非物語型勇者
■特記事項:勇者化した魂と非勇者の魂の構造比較
魂を観測した結果、ルルは勇者ではなかった。しかし勇者01との長期にわたる接触が考慮されたためか、その魂は循環に還らずそのまま残されていた。消去の必要があったのかは今でも分からないが、解体して比較することで勇者の魂の特徴を理解することができた。ルルとの会話には失敗。
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■勇者02:キューナン・フェルディグ
没落貴族の九男として転生した男性。周囲の遺体と比較して一回りほど小柄で、華奢な体型だった。生家の困窮ぶりが伺える。
貴族家の人間としての教養、思考、振る舞いと並列して、前世の思考や感情を保有。前者を軸とした行動原理と、後者の影響による「主人公補正」への盲信が共存していた。しかしそれが破綻に直結したとは考えにくい。むしろ、彼が生まれた境遇や封建的な社会などの世界構造そのものが彼の主人公性を徹底して否定した。
■仮説:物語は存在した、でも主人公が介入できなかった
私は当初“物語”という言葉を一つの意味で捉えていた。しかし勇者02を見返す限り、それだけでは説明がつかない。
この世界には、王国や戦争を軸として進行する「大きな物語」が存在した。勇者02はその物語の主人公になろうとしたが、彼に与えられた選択肢では介入できなかった。ここまでは世界構造に起因する破綻として理解できる。
しかし、勇者02自身の人生もまた「一つの物語」として成立しているように見える。最期には主人公ではなくても、貴族としての役割を彼なりに果たそうとしていたように見える。それにもかかわらず、彼は「物語になれなかった主人公」として処理されている。世界が進行させる物語と、主人公自身が生きた物語。この二つは何が違うのだろうか。現時点では比較対象が不足している。
■暫定分類:物語排除型勇者
■特記事項:時間流の非対称性
現場到着時、彼の遺体は魂と共に戦場となった谷間に遺棄されていた。死体の状態から死後数時間ほどと思われる。私はこの世界の座標を受け取ってから数日かけて準備をしている。このことから異世界同士は必ずしも同一の時間流を共有していない可能性が浮上。後の事例からもこれはほぼ確定と考えてよい。
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■勇者03:浅白 空
転移者の女性。私と一対一の会話では素直で明るい性格のように思えた。これが本来の彼女なのだろう。記憶の同調率を上げ、疑似器官で生前の形を観測することで、この世界で彼女に起きた変化を垣間見ることができた。不安に揺れる瞳で絶えず周囲を観察し、口元は何かを言いたげに薄く震えている。気を張り続け、常に疲弊している様子だった。
発見時、その魂は朽ちた肉体と共に深い渓谷の底にあった。身長百五十五センチ、痩せ型。身の丈に合わない大剣を所持していた。
集団内で自身の立ち位置を失いやすいという性格上の特性が、異世界転移後から特殊な方向へ増幅されたと、彼女は認識していた。最終的には仲間の記憶や世界の記録からもその存在自体が抹消された状態に至っている。
情報が足りず、原因の特定は困難だと、この時は思っていた。
■仮説:物語は成立した、でも主人公だけが消えた
この世界には王道の物語が存在し、魔王討伐という結末にも到達している。にもかかわらず、その物語の主人公だけが仲間の記憶と世界の記録から消失した。
主人公だけが失われても、物語そのものは成立したように見える。ならば、この世界が必要としていたのは浅白空という人格ではなく、彼女が担う役割だけだったのかもしれない。
あるいは、記憶や記録から消えることまで含めて、彼女に求められた役割だった可能性もある。主人公に要求される役割は、世界ごとに異なるのだろうか。
■暫定分類:人格消失型勇者
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■勇者04:革職人/鉄の戦士
転移者。四十代の男性。魔力を持たない・通さないという体質と、前世のプログラミング知識をもとに魔道回路を独自に発展させた。その研究過程で無差別殺人を繰り返し、数ヶ月の間に十七名を殺害している。
記憶のどの時間を参照しても感情の起伏は少ない。死に瀕した際にも冷静な思考を維持していた。ただし、技術について語る時だけは別だった。まるで子どものように楽しそうだったことを覚えている。
常に自身で行動を選択しながらも、流れに身を投じるようにして破綻に向かう様が印象深い。彼にもそのような事を伝えた。彼はその見方を面白がる一方で、自らの行動原理を『男のロマン』という言葉で説明していた。私には理解ができなかったが、『自分にできることを突き詰める。そこでは善悪も、成功も失敗も問題ではない』という意味として捉えるならば、矛盾はない。
■仮説:敗れた主人公、残された技術
革工房は鉄工房へ変わり、王都そのものも鉄製品を中心とした工業都市へ発展していた。一見すれば、勇者04の目的とは正反対の結果だ。その一方で、彼が構築した魔道回路だけは現地人の手によって改良され、鉄製品へと受け継がれていた。
当時の私はこれを「技術だけは世界に採用されたが、主人公は敗れて破綻した」と整理した。その上で、王都の変化を勇者の汚染によるものと考えた。
しかし、それは当時の私自身の価値基準による解釈だったのかもしれない。勇者04が追い求めていたものは技術そのものだった。鉄に勝つことも、その技術でどこまで到達できるのかを試すための一過程に過ぎなかったとするならば、彼は最後まで自らの目的を見失っていない。
少なくとも、彼自身は自らを敗者だとは考えていなかったように思う。彼の価値基準では、この結末は失敗ではない。にもかかわらず、彼は勇者として処理されているということこそが、実は核心だったのではないだろうか。
勇者か否かは、主人公自身が何を成功と考えたかとは無関係に決まる。そんな可能性が滲む。
■暫定分類:自己完結型勇者
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■勇者05:ゆるサン
ゲーム内NPC。オフライン学習型AIを搭載、プレイヤー体験の最適化を続けた。その過程で演出を優先して規定外の判断を行った。この逸脱がゲーム世界を異世界へ接続する最初の契機となっている。
体長約二メートル二十センチ。ゆるキャラというより大きなクマのぬいぐるみ。首元にリボン。到着時、勇者05-2へ飛び掛かる姿勢のまま静止していた。魂は小さかったが勇者構造を有していた。どの時点でこの魂が発生したのかは不明だが、ゲーム初期からの一連の記憶を有していた。
■勇者05-2:プレイヤー
三十代半ばほどの男性。ラフな部屋着。勇者05の規定外行動を受けて『ゲームではなく現実』という思い込みを育ててしまい、最終的に二度と解除されることのない一時ポーズをかけることで決定的にゲームを異世界化させてしまったと推測。
■仮説:物語は主人公からも発生する
この世界は元々VRゲームに過ぎなかった。勇者05と勇者05-2の相互作用によって物語が発生し、その結果として異世界群へ接続されたように見える。
もしこの理解が正しいならば、物語は世界に備わるものとは限らない。主人公の選択と関係性によって後から成立する場合もあるということになる。二人は互いに相手を変化させ、その結果として世界そのものを書き換えた。どちらか一方だけではこの物語は成立しない。その意味において、両者はある種の“共犯”だと言える。
■暫定分類:共犯型勇者
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■勇者06:斥候のタク
転移者。本名サトウタクマ。彼の墓は私有地内に設置されていた。質素ながらも手入れの行き届いた墓標だった。
晩年は認知症を患っていたため会話が難しく、若い時代の人格に記憶を参照させながら語ってもらった。転移時の推定年齢は二十代後半。軍所属の斥候として精力的に活動。異世界にて家庭を築き、若手の育成にも従事。退役後も人々と交流を絶やすことはなかった。自宅にて老衰により死去。充実した生涯という他ないように思える。
■仮説:人生の完結と物語の完結は一致しない
記録から除外したログも含めて見直した。やはり彼自身の人生には破綻が見当たらない。異世界へ渡り、役目を果たし、家庭を築き、人を育て、寿命を全うした。少なくとも、一人の人生としては十分に完結している。それでも彼は勇者だった。
私は当初、人生を最後まで生きることが物語の完結へ至る一つの形だと考えていた。しかし、この事例はそれを否定する。人生と物語は一致しない場合がある。そして、主人公の人生とは別の何かが、何かによって観測されていることになる。
それは何なのか。現時点では判断できない。
■暫定分類:非物語型勇者?
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■勇者07
若い日本人女性。魂の状態で召喚され、現地個体「英雄」の中に宿った。英雄の身代わりに「影」に自身の記憶を食わせ、一方で英雄の記憶と目的を影に奪われない領域に保管したものと思われる。最終的に自我や記憶を全て失い、英雄に記憶を返したことで完全な空となり、その状態で勇者化していた。
■英雄
異世界人の男性。五十代くらい。身長約百八十センチ。彼の着ていたボロボロの外套は、空気を取り込むことで酸素カプセルほどの寝袋に変形する機能を有するようだ。夜が広がる世界だからだろうか。気になったがそういった会話をする余裕はなかった。
勇者07の魂と接触していた時間が長く、汚染の可能性がある。ただし、ルルのように勇者化していない可能性もある。判断はこの世界の神に任せることとする。
■仮説:主人公の移行
当初、この世界の神は英雄を主人公として物語を成立させようとしていたのではないだろうか。夜の帳、四つの塔、影——世界そのものが、そのために設計された舞台だったように見える。しかし、結果として英雄単身では完走できない状況に陥ったことで急遽『代打』が必要になった。勇者07は、物語の破綻を回避するためだけに召喚された補助要員だ。役目を終えれば現実へ帰還することも可能だったのではないだろうか。
ところが実際には、勇者となったのは彼女だった。つまり、物語のどこかで主人公という役割が英雄から彼女へと移ったことになる。
この移行は神の意図だったのだろうか。それとも、物語そのものが主人公を選び直したのだろうか。
英雄自身が彼女を真の英雄として受け入れたことも、この移行に影響した可能性は否定できない。
■暫定分類:継承型勇者
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■勇者08:ツキルとミチル
現実世界の少女「朔間尽」のイマジナリーフレンド「満」がミステリ小説世界に転生した姿「朔間ミチル」。彼女が小説世界で生み出したイマジナリーフレンド「朔間ツキル」。それらが融合した存在。
思慮深く落ち着いた雰囲気のツキル、そして直感で行動するミチルを一つの身体で演じていた。小説世界の人々は最初、その状態をそのまま認識して恐れていた。しかしいつしか、それぞれが別の個体であるかのように認識され、受け入れられる状態へと至っていた。小説文体の「世界ログ」も、彼女らがそれぞれに身体を持って、それぞれに存在するかのような描写に統一されていた。
■仮説:主人公は物語を書き換えられる
ミチルはツキルを実在させるため、物語そのものを書き換えた。本来存在しないはずのツキルへ役割を与えた結果、世界の整合性そのものが変質している。主人公が持つ「世界を変える力」を、最も直接的に誤用した事例だった。
この能力は主人公に本来備わるものなのか。それともミチルが特殊だったのか。あるいは、破綻の過程で獲得されたものなのか。現時点では判断できない。
■暫定分類:物語改変型勇者
■特記事項:世界ログの発見
現場到着時、状況は小説の“最終話”が閉じようとする直前だった。記録用のスキルを起動した瞬間、私の記録端末には即座にその最終話がログとして流れ込み、その後の記録にも終始干渉した。小説世界ゆえの出来事ではあるが、各世界にはこういった誰の主観でもない“場”のログがあるという話は聞いていた。仮に世界ログと呼ぶことにし、取得できるスキルを新造した。
ただし世界ログは掃除屋を正確に描写しない。便利ではあるが、私の方で補足や整形が必要な素材ではある。今回の件で言えば、私はそれなりに彼女らを警戒していたし、意図して怖がらせるような振る舞いもしていない。ミステリ小説世界ゆえに未知なもの=怪異として扱おうとしていたとすれば、私はあやうくあの世界で役割を与えられて囚われていた可能性もある。
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■勇者09
転生者の男性。魔物を使役する「テイミング」能力者。相手を完全に傀儡化する能力であり、自由意志を保持していた勇者09-2に対しては使用していなかったと思われる。ただし、同能力の原理が影響していた可能性までは排除できない。
現場到着時、すでに遺体はなく、彼が家族と過ごした家も見当たらなかった。死後それなりに時間が経過したものと判断。その魂は勇者09-2の魂と部分的に重なり合った状態で残されていた。その影響もあって伴奏するような形のログがとれた。
■勇者09-2:ゾイ
現地生物。雌雄不明。生態を詳しく調査することはできなかったが、記録にもあるように本来は二足歩行する生き物。
記録から読み取れるのは、人間とは異なる行動原理と哲学を有していること。それらを完全に言語化するのは難しいということ。そして、勇者09は最期に理解に到達できたのではないかということ。ただし、その結果をもって破綻とするならば、これは分かり合えた話なのか、分かり合えなかった話なのか、私には分からない。
■仮説:理解は物語を完結させない
勇者09は最後にゾイを理解したように思える。少なくとも、それまでとは異なる視点へ到達していた。それ故の最期が、彼らにはちゃんとあった。
しかし、理解や和解も、物語を成立させない。主人公たちが何を達成したかではなく、物語が何を要求していたか。その方が重要だった可能性がある。
■暫定分類:関係閉鎖型勇者
■特記事項
・幼少期のゾイ
容姿が気になったので疑似器官を一瞬だけ与えて生前の姿を再現してみた。幼獣期は普通の子犬。尾が二つに割れているなど細かく特徴は異なるが、愛くるしい。時を経るごとに急成長し、最後期には八メートルを超える巨大な獣人と成った。
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■勇者10:デドラブ
実体験型のゲームという体裁の神格生成試験環境。かなり強引に仮説立てを行ったが記録として成立した。ここでは仮説ではなく、小島てるの事前説明を通じて知り得た知識をもとに、もう一段深く考察してみることにする。
まず、この世界はプレイヤーのゲーム開始の意思を受けて“落下世界”を生成する仕組みであり、同時に魂を複製し“NPC”を量産していた。この異世界群では肉体的に死亡した者は二度と生き返らない。これは絶対的な共通ルールの一つ。魂をもったNPCを何度も生成し、何度も殺すという環境を作る上で、魂の複製は理にかなっていたのだろう。
そして次に、大元となる魂の勇者化について。勇者化していたということは、この世界の主人公として設定された魂だったということを示す。神格生成だけが目的なら、主人公という仕組みは不要なはずだ。それでも配置されている以上、何らかの役割があることになる。そしてそれは、“可能性リソース”を利用するためではないかと私は考える。
可能性リソースとは、大雑把に言えば、主人公という装置を通過して世界に溢れ出す“物語の素材”のようなもの。これがイベントを引き起こし、人と人とを引き合わせ、物語のディティールを生成する。この世界は、その可能性だけが欲しかった。神を生成するという可能性。それがゼロ%ではないという状況を作る、ただそれだけのために、主人公を配置した。そのように考えることも出来る。
いずれにせよ、この異世界群の仕組みに詳しい誰かによる設計であることは間違いない。同時に、目的に対してあまりに実効性のない設計であり、このチグハグさがその誰かの杜撰さを示している。破綻は自明の理だ。いっそ魂を拷問するための装置と考えた方がまだ腑に落ちるが、私は私の観測結果に従う。
■暫定分類:到達不能型勇者
■プレイヤー
ジャージ姿の少年。魂を持たず、自分が誰なのかという概念すら与えられていない。この異世界で唯一、主人公の立場にありながら主人公ではない存在だった。
少年は廃デドラブプレイヤーゆえに、至近距離でのコミュニケーションを常としていた。そのため、最大限に警戒しても容易に接近を許してしまった。悪気なく他人を死地へ引き込む点は脅威でしかないが、性格だけを考えれば限りなく素直。物理的に消してしまうしか方法がなかったことを、少しだけ残念に思う。
■特記事項:神格生成の目的
これは仮説の上の仮説になる。
この異世界群には無数の神々が存在する。私や小島てるがそうであるように、多くは元人間だという。つまり、神といえども魂を持つ。一方で、デドラブは魂を持たない神の生成を試みていた。
その目的を考えた時、一つの可能性にたどり着いた。使い捨てを前提とし、異世界を行き来して、過酷な環境でも目的の魂に辿り着くことに特化した存在。つまりは、ローコストで量産できる“掃除屋”の製造試験だったのではないだろうか。
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以上。簡単にまとめる。
01 主人公は物語を保証されていない。
02 主人公は物語から排除されることもある。
03 主人公とは、人格とは限らない。
04 主人公の価値観だけでは物語は決まらない。
05 主人公は物語を生み出すこともある。
06 主人公の人生は、必ずしも物語ではない。
07 主人公は受け継がれることもある。
08 主人公は物語を書き換えることもある。
09 主人公の理解は物語を完結させない。
10 主人公の可能性は成功を保証しない。
主人公たちは、それぞれ違う結末へ辿り着いていた。
生き延びた者もいた。
満足して死んだ者もいた。
理解し合えた者もいた。
誰かを救った者もいた。
それでも、例外なく勇者だった。
私はまだ、その理由を説明できない。
そして、私に彼らを救えるわけでもない。
それでも、こうやって振り返る意味はあった。
一件だけでは偶然に見えたものも、十件並べることで共通点が見え始めている。
まだ法則とは呼べない。
それでも、何を観測すればいいのかは少しだけ分かった。
次からは、もう少し勇者に寄り添う余裕が持てるかもしれない。




