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番外編1 リリアナとヴァン

「ヴァンさん、どうしてあんな計画に付き合ってくださったのですか?貴方が元第一王子とバラされなくないからですか?」


 全てが終わった後、学園から去ろうとするオレに君はそう聞いてきた。


「君が……君が好きだから。君がそうしたいと望むならそうする。ただ、それだけだ」


 彼女は一瞬目を見開き、口元に笑みを浮かべた。


「……知ってますよ。本当にバカですね、貴方は。私なんかに捕まって。言っときますけど、私に付き合うのは大変ですからね」


 彼女はそう微笑んで言った。





 ***



 放課後、リリアナはいつものようにカフェにお茶をしにきた。彼女はここの常連である。

 夏休みには一緒にフレデリカ様の別荘にお邪魔し、他の生徒より距離の近い存在になっていた。

 いつも明るく眩しい彼女。オレはいつの日か、彼女がカフェに立ち寄るのを心待ちにするようになっていた。

 彼女が来ない日は、少し落ち込んだ。


 別荘でアルフレッドに彼女に好意を寄せていることを指摘され、狼狽した。

 そして意識した。ーー彼女が好きだと。


 だが、オレは元第一王子、アーバン。

 一国民として暮らしているが、万が一身分が露見すれば彼女を危険に晒してしまうかもしれない。

 だから言えずにいた、この気持ちを。


 そんなある日、オレは彼女に呼び出された。


「ごめんなさい。人がいるところでは話辛くて」


「いや、良いよ。ーーで、話って?」


「ヴァンさん。……いえ、アーバン王子。貴方に頼みたいことがあります」


 そう言い彼女は微笑んだ。

 内容はフレデリカ様の誘拐。

 これは別にフレデリカ様に敵意があるわけではなく、寧ろ好意があるから行うこと。

 彼女曰く、フレデリカ様はアルフレッドを昔から思っていたが、立場上殿下の婚約を断れなくて今に至る。

 彼女はフレデリカ様に幸せになってほしい。その為に誘拐して殿下とアルフレッドに揺さぶりをかけるというものだ。

 そしてフレデリカ様を返して欲しくば、婚約破棄しろと要求する。

 それが彼女の筋書きだった。


 その話に信憑性を持たせる為に誘拐をオレにやらせる。

 元第一王子なら、殿下に恨みを持っていてもおかしくはない。フレデリカ様と婚約し、未来の王妃を得て地位は盤石。第一王子が面白くないと思っても不思議ではない。

 そんな筋書きのようだ。


 オレは彼女の計画を手伝うことにした。アルフレッドとフレデリカ様が両想いと分かった今、殿下には申し訳ないが二人には幸せになってもらいたい。オレはそう願った。

 フレデリカ様が殿下を好きならこんなことはしなかった。だが、好きでもない男と結婚なんて、フレデリカ様にとっても殿下にとっても良くない。そんなんじゃ幸せにはなれない。だから協力することにした。


 オレと同じように不遇の幼少期を迎えたあいつには、ちゃんと幸せになってほしい。

 彼が幸せを掴むことで、自分も幸せになれたような錯覚を味わいたかった。


 それに、好きな人の頼みを叶えてあげたかった。彼女は本当にフレデリカ様を大切に思っている。

 そんな彼女の力に、オレはなりたかった。


 計画は……上手くいったか微妙な感じだが、結果的には殿下は婚約解消し、二人はめでたく結ばれることとなった。

 まだ、結ばれるには超えねばならない山はあるが、二人なら大丈夫だろう。





 オレはアルフレッドが騎士として旅立った後、学園を去ることにした。ここにいれば殿下に迷惑がかかる。それに……。


「ヴァンさん。どこに行くんですか?」


 学園の門をくぐろうとした時、目の前にリリアナがいた。


「何故君がここに……」


「なんとなく、ヴァンさんに会えなくなっちゃう気がして。……どこか、遠くの地に行くのですか?」


「ああ」


「嫌です」


「へっ?」


 何を言い出すんだ、いきなり。


「行かないでください」


「だが、殿下達にオレの正体がバレた今、ここでは……」


「大丈夫ですよ。皆言わないですし、誰かが勘付いても黙らせます」


「そんな無茶な」


 本当に君はいつも突拍子のないことを言う。


「私には神聖魔法があります。それがバレれば、私は現在婚約者のいない殿下と婚約させられるかもしれません。その前に私と婚約しませんか?」


「はっ⁈えっ⁈」


 こっ、婚約⁈


「神聖魔法の使い手を手に入れた男が、殿下に忠誠を誓う。それはこの国が神聖魔法を手に入れたと同じ。貴方は既に王位を剥奪されているわけですから、私を娶っても次期王にと担ぎ上げられる心配はないかと」


 王位の剥奪とか……一体彼女はどこまで知っているのだ?


「貴方の後ろ盾はヴァリアーヌ家が担ってくれます。なのでなんの心配もありませんよ。私と結婚して、貴方の大好きな殿下の役に立ちましょう」


「……君がどこで情報を仕入れたかは分からないが、何故私が殿下が好きだと思うんだ?普通は恨んでるとか思うんじゃないのか?」


「そうですね。確かに殿下を恨めしいと思う気持ちはあるかとは思います。でも、カフェで仕事をしていて殿下と再び出会い、彼のことを大切にしていたことを思い出したんですよね?」


(殿下ルートでは確かに殿下から愛する人を奪おうと動いていた。でも、私は知っている。根気よく彼の元に通い続けていた私は知っている。本当は殿下が大好きなのを。多少恨めしい気持ちはあった。でもそれ以上に殿下には幸せになってほしいと願っていた。それをある人物に魔法で操られてあんな事件を……。)


「全く君は……」


 彼女には敵わないな。

 彼女がそういうのなら、そうした方が良いと思えてしまう。

 しかし神聖魔法を使える者だとは、どこまでオレを驚かせるのだろうか。


「いいよ」


「へっ?」


「君のその案に、乗ってあげるよ。君といると飽きない。君といるその先に何があるのか見てみたいんだ。君の隣で」


「ヴァンさん……」


 オレはリリアナを抱きしめた。

 そして彼女はオレを見上げてこう言った。


「そう言えば……ヴァンさん、どうしてあんな計画に付き合ってくださったのですか?貴方が元第一王子とバラされなくないからですか?」


 彼女の口角は上がっている。この顔は答えがわかっている顔だ。オレの反応を楽しんでいるのだ。


「君が……君が好きだから。君がそうしたいと望むならそうする。ただ、それだけだ」


 オレは素直な気持ちを言った。彼女は一瞬目を見開いた。いつも君のペースになってしまう。たまにはオレに主導権を握らせてくれ。


 彼女は暫くして、口元に笑みを浮かべた。


「……知ってますよ。本当にバカですね、貴方は。私なんかに捕まって。言っときますけど、私に付き合うのは大変ですからね」


 彼女はそう微笑んで言った。とても嬉しそうに。

 愛おしい。この笑顔の隣に居られるのなら、喜んでどこへでも行くよ。


「ああ、覚悟の上だよ」




 オレはその後すぐにアルフレッドと同じく騎士団に入団することとなった。

 今のオレには身分がない。神聖魔法を使える彼女の隣を歩くには、それなりの地位が必要だ。

 入団試験は難なくパスし、オレはアルフレッドと同じ場所に配属になった。

 色々支援してくださったヴァリアーヌ侯爵には感謝だな。

 彼はオレが王位継承権を剥奪された時も心配してくれていた。




「では、行ってくるよ」


「アルフレッド様と同じ場所に配属だなんて、良かったですね」


「あいつとは本当に縁があるな」


「あの……アルフレッド様ってもしかして……」


 彼女はオレを手招きし、耳元で話した。


「……その通りだが、よく分かったな」


「ヴァンさんや殿下の態度とか色々総合的に判断して、その可能性があるかなと」


「全く、君の洞察力には脱帽だよ」


(いえいえ、ヴァンさんの事は前世の知識ですから。アルフレッド様のことは知らなかったけど、まさか予測が当たっちゃうとはね。フレデリカたん大丈夫かな……)


「どうした?」


「いえ、そうなるとフレデリカ様大丈夫かなと」


「あいつは過去を棄てた。だから今は只のアルフレッドだ。何も問題はないよ」


(そうは言ってもね……。大概そう言う人って、ゲームだと過去イベあったりするよね)


 リリアナは酷く心配そうな様子だった。彼女はフレデリカ様を本当に慕っている。だから心配なのだろう。


「大丈夫だよ。何かあったら必ず力になる。あの2人には本当に幸せになってほしいと思っているんだ」


「ヴァンさん……」




「……じゃあ、行くよ」


「……はい」


 するといきなり彼女はオレに抱きついた。


「待ってます。……でもなるべく早く迎えに来てくださいね」


 そう言い、彼女は悪戯っぽく微笑んだ。


「ああ」


 そしてオレは彼女を強く抱きしめた。






 ***



【奇跡の使い手リリアナ】と【炎の騎士ヴァン】

 2人はこの国エメラルディア王国の最盛期を支えた功労者として、後の歴史書に名を刻む。

 賢王と呼ばれ、王国最盛期に在位したシルヴァント国王は、生涯独身を貫いた。


 有能で、その美しさから我こそ妃に‼︎と名乗りあげる者が後を絶たなかったが、国王は誰一人も受けいる事はしなかった。

 噂では生涯只一人の女性を想っていたのだという。


 跡継ぎがいない国王は、二人の間に生まれた子を養子とし、後を継がせた。

 その際、炎の騎士ヴァンが元王族である事が明かされ、時期国王も王家の血筋が流れていることを皆に示した。

 炎の騎士ヴァンは死ぬその時まで、国王に絶対的な忠誠を誓い、国の誰もが認める国王の騎士として72歳でその生涯を閉じた。


 奇跡の使い手リリアナは、ヴァン没後国王が亡くなるその時まで、国を、国王を支え続けた。これは先に亡くなったヴァンの意思を継いでのことだと言う。

 その後彼女は引退し余生を過ごす予定だったが、今まで張り詰めていたのが解け、そのまま眠るように倒れた。

 ベッドで最後に「私はこの世界に骨を埋める予定だったんだけどな」と言う意味深な言葉を残し……消えた。

 文字通り体が消えたのだ。


 その後の消息は誰にも分からない。






 ***



「……ここは……ああ、そっか。戻るのか」


 リリアナは誰もいない空間で呟いた。

 前世のことを彼女は思い出していた。学校に登校したら憧れの先輩が、意識不明の重体だと知らされた。

 ショックが大き過ぎて、悲しみに暮れながら下校していたら赤信号に気づかずに……。

 その後目が覚めたらリリアナになっていたから、てっきり……。


 でもリリアナとして生を全うした今なら分かる。向こうの私は生きている。死と生の狭間を漂っている。

 私がリリアナとして頑張っている間、向こうの私も生きようと頑張っていたのだ。


「……楽しかったな。確かに元の世界の家族とかも気になるけど、私はあの世界で人生を終えると思っていたし、全うしたから悔いはないんだけどな」


 暗い空間に一筋の光が見えた。


「……正直彼以上に好きになれる人なんて居ないだろうし。私戻っても恋愛しないで終えるのかな」


 だが、私は歩く。光の方へ。


「ーーでも、元の私の体も生きようと頑張っていたのだもの。戻って精一杯生きないとね」


 こうして私は戻って行った。

 ーー元の世界へ。






 ***



「んっ……」


 眩しい。ああ、誰かが私の名前を呼んでいる。視界がぼやけてよく見えないが、泣いているように聞こえる。


「莉奈ちゃん‼︎」


「……お母さん」


 お母さんだ。後ろにはお父さんとお姉ちゃんもいる。

 ああ、私は戻ってきたんだ。


「……っ」


 痛い。

 そりゃそうだよね。生死を彷徨う程の怪我をしたのだから。


「ただいま」


 私は笑顔でそう家族に言った。



 それから数ヶ月が経ち、私は退院した。

 学校にも通い始めた。

 家族がいる。

 友達がいる。

 とても幸せなはずなのに、心にぽっかり穴が空いている。


 私は人生何が起きるか分からないことを学んだ。

 だからめい一杯遊んで、一生懸命勉強した。

 後悔しないように。


 充実した毎日を過ごしていた。

 でも、やっぱり寂しかった。

 ここには彼はいない。



「はあ……。自分がこんなに恋愛脳だとは思わなかったわ」


 遊びに勉強、全てに全力投球。没頭している間はそのことでいっぱいで考えなくて済むけど、そうじゃない時は考えてしまう。彼のことを。

 今日も気分転換に、駅前に出来た新しいカフェに来たのに、頭の中は彼でいっぱいで……。


「あっ……」


 考え事をしていたら、手元が狂い紅茶を零してしまった。何やってるんだろう、私。


「お客様、大丈夫ですか⁈」


「すみません。カップを倒してしまいまして」


「お怪我はありませんでしたか?濡れたところをこのタオルでお拭きください」


「ありがとうございます」


 そう言い店員は、紅茶が零れた床やテーブルを手際よく片付ける。私は手渡されたタオルで手やスカートを拭いた。


「お待たせいたしました」


「えっ⁈私追加で何も頼んでは……」


「サービスです。先程の紅茶、殆ど飲まれていませんでしたよね?」


「ありがとうございます……⁈」


 私はこの時、店員の顔をマジマジと見た。

 彼だ。

 姿は違うが、私には分かる。

 この人はヴァンさんだ。


「ヴァンさん……」


「……?」


 店員は首を傾げている。彼にはヴァンとしての記憶はないようだ。

 でもそんなものは構わない。


「紅茶、ありがとうございます。ふふっ、とっても感じのいいお店なので通っちゃいそうです」


「それはありがとうございます。是非ご贔屓にしてください」


 私のーー来栖莉奈としての人生はまだまだこれからだ。

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