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閑話休題

「兄上!」

バンッと大きな音を立ててナルセフが執務室のドアを開けた。

他の者なら許されない不遜な態度だが、セルフィは軽く眉をあげただけだ。サッと手で合図し宰相と護衛官を下がらせる。

兄弟仲の不穏が囁かれる第1王子と第2王子だが、噂に反して気安い。


ナルセフは勢いに任せてナルセフの机を叩いた。

「よくもリリアナに妙なモノを渡してくれましたね!」

「おやおや。リリアナ姫はもう実践したのですか」セルフィがニヤリと笑う。

「喜ばれこそすれ、怒られる意味が分かりませんね」

セルフィは椅子の背もたれにもたれながら腕を組んだ。

いかにも心外だ、という顔をしているが、目がからかったように光るのでナルセフはますます大声を出した。

「実践なんかしてません!!修練終えて着替えに戻ったらリリアナが固まっていましたよ!どうしてくれるんですか、また怯えられたら!!!」



時は数日前にさかのぼる。

たまたまナルセフが外している時にセルフィが春の宮を訪ねてきた。ナルセフはすぐ戻るはずだったので、待たせてもらおうと、セルフィはリリアナとしばし雑談していた。その折に、必要なものがあれば何なりと、とリリアナに声をかけると、リリアナが所望したものがあった。

聞いた時はセルフィ自身も固まってしまったが、そこは海千山千。にこやかに了承した。

「すぐにご用意しましょう」


そうしてリリアナの手元に一冊の本がやってきたのだ。

リリアナは恥を忍んでセルフィに頼んだのだ。

「閨の指南書をいただけませんか」と。

何事も勉強熱心なリリアナは、ナルセフとの婚姻までに予習すべきだ、と思い立ったのだ。


即刻セルフィに用意してもらった指南書を嬉々として読み出したリリアナは、親切にも図解説明された指南書に言葉もなく固まり、思考停止状態をナルセフに発見された、というわけだ。


「やっと少し警戒心が解けてきたというのに!」

ナルセフは恨みがましくセルフィをにらんだ。


「まあまあ。どちらにしろ婚姻までには知らねばならないことですから。リリアナ姫は度胸のある方ですし、しばらく距離を置かれたからとて婚姻までに覚悟を決めるでしょう」

それに。セルフィはにこやかに笑った。

「私はうれしいんですよ。白い結婚にするつもりかと思っていましたが、ナルセフもリリアナ姫も結婚自体の成功をあきらめてないのですね」

セルフィは立ち上がってナルセフの肩を軽くたたいた。

「確かに、国の、民の幸せを第一に考えねばなりません。でも私は貴方に犠牲になってほしくないのです。幸せになってほしいのです」

いくばくか筋肉質になってきたとはいえ、まだ少年らしい体系のナルセフが「国の為に政略結婚をする」と言い出した時には、15の弟にまでその責任の一端を背負わせるのかと自分の不甲斐なさを思い悩んだものだ。

父が患ってから国は不安定で、現王派、第一王子派、第二王子派に分かれつつある。現王が臥せってから最も力のある宰相が第一王子を真っ先に支持したことで、表向きは第一王子セルフィ派が主流となっているが、線が細く花のないセルフィに比べて、快活で見目麗しい第二王子ナルセフは支持が根強い。


だからこそセルフィの側近にして乳兄弟のラクレス・クラウドはナルセフに対して警戒心を解かない。

ただ、セルフィには分かっていた。ナルセフにはそういった野心はまったくなく、ただ自分を支えよう、民を幸せにしようと思っていてくれるだけなのだと。

そんなナルセフだから、幸せになってほしいとセルフィは思っていた。

が、時々かわいすぎてからかいたくなるのだ。こんなことで嫌われたら目も当てられないが。

「ナルセフが読みながら実践して教えたらいかがですか」

ついついからかってしまう。


「兄上!!」

怒ったらしばらく警戒して近寄って来ないところは猫のようなナルセフだった。



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