その2 物好き美人
「世界一くさい缶詰が好きでたまらなーい」
「B級映画がなによりおもしろーい」
「太ったオタクしか愛せなーい」
『物好き』ってのはどの分野においてもいるわけで。
で、その物好き達のおかげでおれとみゆきは食っていけるわけで。
*
「この壷はなあに?」
長い黒髪をゆらゆらさせて、高そうなコートとバッグを持って、
お化粧もばっちり、ピアスがキラリと光る金持ちそうな美人。
こんなボロっちい骨董品店におよそ似つかわしくないお客様。
「『水が半分以上入ると割れてしまう壷』です。
原型をとどめた形で残っている数少ないひとつなんですよ。」
ショートヘアーといえなくもない、微妙な長さの茶色い髪をゆらゆらさせて、
『よろず屋』って印刷された安いエプロンにジーパン姿で、
こんなボロっちい骨董品店がすっかり板についているみゆきが相手をする。
「まあ!なんて下らないのかしら!いいわ、買います。」
「ありがとうございます!」
そして、みゆきのことを言ってられないぐらい『よろず屋』が板についているおれが
そんな2人をレジの横で眺めている。
で、おそらく、おれとみゆきは今、同じことを考えている。
(変な趣味の美人だなぁ・・・)
そのお客はもう6品ぐらい「買うわ。」って言ってくれている。
そしてその前には必ず「なんて下らないのかしら」とか「下らなさがいいわ」とかが付く。
おれたちからすれば非常にイイお客だし、実際にもう10万円分ぐらいは買ってくれている。
ただ、その違和感ばりばりのそのお客に、なんとなく哀れみに近い感情も抱いてしまう。
(・・・なんか辛いことでもあったのかなぁ・・・)
*
結局その美人は12万とんで320円お買い上げになった。
特に、『ダイエットに成功しないと絶対に脱げない靴下』がお気に召したようで、
3足も買っていかれました。
・・・どんだけダイエットしたいんだ?
「なんだったんだろうね、あの女の人」
「うーん・・・。みててなんとなく哀れみ感じさせるんだよなぁ・・・」
「あ、やっぱりそう思った?」
お客様に向かってなんて失礼な店員なんだ、おれ達・・・。
「ま、いっぱい買ってくれたからなんの文句もないけどな。」
「そうだね。感謝しないとね。」
うむ。感謝感謝。
<翌日>
「『書いた文字が踊りだすノート』ですが。」
「まあ、なんて無意味なの!?買うわ!!」
「毎度ありー。」
<翌々日>
「『スイカしか切れない日本刀』なんですよ。」
「まあ、すっごく意味不明だわ!?買います!!」
「ありがとうございますー」
<翌々々日>
「『一万円を入れると千円相当のダイヤが出てくる自販機』ですよ?」
「まあ、九千円はどこに行っちゃうのかしら!?買うわよ!!」
「まいどー。」
「・・・なに考えてんだろな?」
「ね。もう全部で30万円は買ってると思うよ?」
「・・・金持ちだなぁ・・・。」
「なにがいいんだろうね?仕入れたあたしが言うのもなんだけど。」
「下らなさ、じゃないの?」
「・・・物好きだね。」
「まったくな。」
おれとみゆきは店先で呆然としながら帰っていくベンツを見送った。
自力では持って帰れないほど買うので、とうとうベンツでよろず屋にやってきたのだ。
不釣合いこの上ない。いや、うれしいけどね?
*
今日もまた、そのお客は『勝手に増えていくティッシュ』を買ってベンツで帰っていった。
日も暮れ、そろそろ店を閉めようかという頃。
「なんか、商品が減ったな。」
「そうだねー。また仕入れに行かなきゃかなー・・・。」
「がんばれよ・・・ん?」
店の入り口になにか光るものが落ちている。
「・・・ピアス、か。こんな商品あったっけ?」
「あ、それ、あのお客さんがしてたヤツだよ。」
「なんだ。じゃあ、次にきたとき返さなくっちゃな。」
・・・ん?でもなんか、見覚えがあるような、このピアス。
「なあ、これ、どっかで見たことないか?」
「だから、あのお客さんが・・・」
「そうじゃなくてさー。・・・まあ、いいか。店閉めるぞ。」
「うん。」
*
それからあのお客が来ることはもうなかった。
あとでわかったのだが、あのピアスは『つけると物好きになるピアス』だったのだ。
ただ、そんなピアスを持っていたのだから、あのお客は初めから物好きだったのでは?
当店では、ほどほどの物好きを歓迎します。
なんかしょうもないオチですみません(全部そうですけど)。
評価をくれるとうれしいです。




