好奇心は止まらないっ!
私の脳内にその音が響き始めたのは、昨日『爆裂魔法』の威力をちょっとだけ自慢しようと、王都の広場で更地を作った直後のことだった。
——ピンポン。
【おめでとうございます! あなたの行動が『世界線:404』のトレンド一位になりました】
「……は? なにこれ」
頭の中に、見たこともない透明な板が浮かび上がっている。
そこには私の顔のホログラムと、知らない言語。
そして驚くべきスピードで流れる大量の文字が表示されていた。
どうやらアナウンスによると、私の脳が次元の壁を越えて地球とかいう世界の『SNS』と同期してしまったらしい。
「あ、なんか言葉が分かるようになった」
最初の方はまだ面白かった。
『うわ、この魔導士の女の子、詠唱ポーズ可愛すぎ』
「えへへ、そうかなあ?」
『実質核兵器で草』
「核兵器……?核撃魔法みたいなものかな?」
『俺史上最高の嫁現る』
「何でこの人、私の旦那を公言してるの?」
一部意味不明な単語もあるが、私を絶賛する文字が秒間で何千件も流れてくるのだ。
承認欲求がハチミツのように満たされていった。
だが、それに調子に乗って
「じゃあ、明日は王宮の結界を小突いてみまーす!」
そう軽い気持ちで言ったのが、すべての終わりだった。
——ピピピピピピピピピピピピピピピピンポン!
耳の奥で、鼓膜が破裂しそうなほどの通知音が爆発した。
【炎上中】
脳内の画面が、真っ赤な警告色に染まる。
どうやらこの映像は、私の世界の住人も見ていたらしい。
『おいおい不法侵入予告かよ』
『国家転覆罪で近衛兵に通報した』
『テロリストじゃん。あ、テロって知らないか』
『これだから最近の魔導士は』
『実家特定した、王都東区のパン屋の隣』
「——いや、ちょっと待って! 冗談だって!」
私は頭を抱えて家まで逃げ帰った。
声に出しても意味はないのに、叫ばずにはいられない。
文字の濁流が、脳みそを直接殴りつけてくる。
他人の悪意って、上位古代魔法の精神攻撃よりキツい。
——ピンポン。
【悲報:爆裂魔導士ちゃん、過去の配給所での割り込み疑惑が発覚】
「——そんなの五年前のことだし、あれは並ぶ場所を間違えただけだよぉぉぉ!」
——ピンポン。
【検証:あの爆裂魔法、実はただの幻影魔法)では?】
「今となってはそうであって欲しいよ!!」
脳内の通知は一秒に一万件のペースで増え続け、私の思考力を奪っていく。
頭が熱い、処理落ちしそうだ。
このままだと、文字の重さで脳が物理的に爆発する。
「……あ、もう無理。消えて。お願いだから消えてぇぇぇ!」
私が涙目で神に祈ったその瞬間。
画面の隅に、小さな文字が見えた。
【通知設定:オフにしますか?】
「オフにする!!! よく分かんないけど今すぐにする!!!」
薄れゆく意識の中で、そのボタンを親の仇ばりの力で押し込んだ。
「止まっ、た……?」
しん、と静まり返る脳内。
全部消えた。
赤い画面も、流れる文字も、鳴り止まなかった不快な電子音も——すべてが嘘のように消え去った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
私はベッドの上で、ぐったりと横たわった。
世界は静かだ。
やっぱり、静寂が一番のごちそうである。
もう二度と、あんな醜態晒してやるものか。
私は深くため息をつき、心を落ち着かせるためにお気に入りの杖を優しく撫でた。
その時、かすかな違和感を覚える。
「ん?……ちょっと待って」
通知とやらをオフにした事で小さくなった画面。
その画面の中で流れ続ける文字が薄ぼんやりと見えた。
「え、これ……私の悪口で盛り上がり続けてるってこと……?」
不安はどんどん募っていく。
「私が弁明しないのをいいことに、嘘の設定とか勝手に作られてるんじゃ……?」
気になりだしたら、急に手汗が止まらなくなった。
見たくない。
でも、見ないと不安で死にそう。
「……ちょっとだけ。ちょっとだけ見るだけだから」
私は震える指先で、再び脳内の「通知:オン」のボタンに手を伸ばしてしまった。
「ぎゃああ!もうやめて!私をいじめないで!!」
「……ふう」
「……」
「ぎゃああ!!——」
一度火が付いた好奇心には、そう簡単に抗えないらしい。
私は繰り返される罵倒と静寂の中で、そう考えたと思う。




