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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第6章 満月は照らす獣を選んでる

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第十二話:霊峰の試練と、世界を砕く秘術

バマーの街で刻まれた「百年の争い」の火種を背に、一行は次なる目的地へと足を進めていた。

 目指すは、雲海を遥か下に見下ろす峻険な霊山。その山頂に鎮座するという、魔法の原典を守護する古き寺院である。


「ムフー……! 見て、ユウサク。陽光に反射して、私の『勇者の証』がこんなに輝いているわ!」


 ヴァレリアは、胸元に誇らしげにぶら下げた金色のメダルを指で弾き、意気揚々と岩場を登っていた。

 バマー王から正式に「英雄」として認められたことで、彼女のモチベーションは最高潮に達している。


ヴァレリア「勇者ともなれば、これくらいの登山なんて準備運動のようなものね。さあ、二人とも! 遅れているわよ!」


ユウサク「……いや、無理。ヴァレリアさん……あんた、体力ありすぎでしょ……」


ネネ「……もう、足が動かないわ。ヴァレリア, あんたのそのメダルを重りにして崖から突き落としてやりたい……」


秘術の正体? 筋肉と悲鳴の寺院


 寺院の奥へと足を踏み入れた一行を待っていたのは、想像していた「優雅な魔導の探求」とは似ても似つかぬ光景だった。


 寺院の奥からは、修行中の僧侶が苦悶に悶える呻き声が絶えず聞こえてくる。

 不思議な呪文のような言葉を唱えながら、頭頂部を視点にして倒立するもの。鋭い針の上で座禅を組むもの。そして、巨大な岩を魔法ではなく、ただの拳で粉々に砕き続けるもの……。そこは、一行が思い描いていた場所ではなく、魔法とはかけ離れた「精神修養」の場であった。


 呆然とする一行の中、勇者のメダルを首からぶら下げたヴァレリアに目を向けた高僧が、音もなく現れた。高僧はヴァレリアの太い腕を「むんず」と力強く掴む。


高僧「……勇者の認定を受けた魂、確かに見届けた。奥へ来い。お前にふさわしい修行が待っている」


ヴァレリア「え!え? ちょっと待って、説明は!? えええっ!?」


 戸惑い、抵抗する間もなく、ヴァレリアは高僧の圧倒的な力によって寺院の奥へと連れ込まれていった。

 その背中を、ユウサクとネネはこれまでにないほど爽やかな笑顔で見送っていた。


ユウサク「頑張ってくださいねー、ヴァレリアさーん」

ネネ「しばらくあそこに放っておいても死なないでしょ」


最後の試練、激突の回想


 それから、時の感覚が麻痺するほどの日々が過ぎた。

 現在、ヴァレリアは寺院の演武場で、人生最大の窮地に立たされていた。


 対峙する高僧は、同じく『神雷しんらい』の称号を持つ拳の達人だ。分厚い筋肉の鎧を纏い、四角い顔面すらも盛り上がった筋肉で構成されている。この実技戦に勝利すれば、彼女はついに免許皆伝となるのだ。


 観戦するユウサクとネネは、もはや幽霊のような有様だった。この数ヶ月、口にしたのは薄いおかゆと山菜のみで、体はヘロヘロだ。

 さらに「ついでだ」と、何の役に立つのかも怪しい修行を『初心者枠』として、入門者コースを半強制的に受けさせられていた二人は、もはや立っているのがやっとだった。


ユウサク「(世界観が……世界観がズレていく……。ヴァレリアさん、あんた何を目指してるんだ。不憫すぎて涙が出てくるよ……)」


 高僧の放つ圧倒的なプレッシャーのなか、ヴァレリアは震える拳を握り込み、これまでの凄まじい修行を思い返していた。涙があふれそうになるほど、それは地獄のような日々だった。


 道具も使わず、生身の手だけで硬い岩盤の洞窟を何日も掘り進めたこと。

 鉄で熱せられた砂の中に、生身の手刀しゅとうを何度も何度も突き刺したこと。

 剥き出しの剣の刃の上を渡り歩き、細いロープの上で均衡を保ちながら、一滴の水を運ぶために心血を注いだこと……。


 その絶え間ない孤独と苦痛を、ただ横で癒し、静かに支え続けてくれたのは、腰に帯びたままの聖剣デュランダルであった。

『大丈夫だ、ヴァレリア。お前はよくやってるぜ。……泣くなよ、俺様がずっとついててやるからな』

 聖剣のそんな優しく、温かな慰めがなければ、彼女の心はとっくに折れていただろう。


拳の語り合い


 手を合わせ、礼を交わして相対する。

 刹那、ヴァレリアは一気に距離を詰め、鋭い肘を叩き込む! さらに首相撲に持ち込み、強烈な圧力で相手の膝を折らせようとするが、鋼のような脚がそれを耐える。ヴァレリアは間髪入れず、腹部へ膝蹴りを連打で叩き込んだ。


「ぐふっ……」

 相手から短い息が漏れる。だが、相手は膝に溜めた力を一気に解放し、ヴァレリアのボディへ重い連打を撃ち返した。


ヴァレリア「……っ!?」

 あまりの衝撃に距離をとる。遅れてやってくる「芯に来る」衝撃。それは肉体の内側から組織を破壊する、寺院の秘術であった。


 血をはくヴァレリアは不敵に笑う。

「……そんなものか!」


「はああああああっ!!!」

 ヴァレリアの全身から、凄まじい気のオーラが立ち昇る。秘儀『神雷』の発動だ。


ヴァレリア「おい、くり坊主。私の全力を受け入れられるかな?」

 極限状態の中、心の中で呼んでいたあだ名が口から漏れ出したが、今の彼女には気にする余裕もなかった。


「死ねぇっ! 母の敵ーーーッ!!!」

 唐突に飛び出した謎の叫びと共に、ヴァレリアは恐ろしいスピードで飛び込み、くり坊主の金的(男性の股間)へ向けて全力のパンチを放った!


 だが、金力への一撃をものともしない「くり坊主」は、ニヤリと笑みを浮かべ、振り下ろした肘内ちゅうないでヴァレリアを叩き潰した。

 ガキィィィン! という衝撃で、ヴァレリアはゴムまりのように弾き飛ばされた。


くり坊主「ふふふ、やるな。……安心しろ、急所の鍛錬も当然済ませてある」


 不敵に言い放ち、くり坊主が一気に間合いを詰める。放たれたのは豪快な「頭突き」!

 ヴァレリアは下からアッパーで迎撃するが、金属音が響き、拳が弾かれる。そのままはらに頭突きを受ける。そのさま、掴まれる。振り回され、床にどーんと地響きがなるが、目を狙っての手刀をすぐさまとばすヴァレリア。


 グサリ、とくり坊主の目に深く埋め込まれる手刀。しかし、くり坊主は平然と笑っていた。

「無駄だ。全身のあらゆる場所は鍛錬済みだと言っただろう」


深淵の解放と山頂の終焉


 くり坊主は静かに構え直すと、地鳴りのような声で宣告した。


くり坊主「……よかろう。神雷秘儀――『蟷螂かまきり』」


 次の瞬間、くり坊主の肉体が異様に変質した。筋組織が緑色の甲殻へと変わり、その背は節くれ立ち、顔面は複眼を思わせる無機質な光を帯びる。目の前に現れたのは、巨大なカマキリそのものと化した異形であった。


ユウサク・ネネ「「なっ……!?」」

 観戦していた二人が驚愕に目を見開く中、ヴァレリアだけは動じなかった。彼女はふらつきながらも立ち上がり、不敵に笑ってくり坊主を指差した。


ヴァレリア「……秘術『神雷』の深淵を、まだお前は知らないようね。教えてあげるわ。その神雷の本質というものを!」


 肉体的な劣勢にありながら、ヴァレリアの精神は高僧……いや、くり坊主を完全に圧倒していた。その異様な自信に、カマキリと化したくり坊主がわずかにうろたえる。


ユウサク「(……いや、なんで!? なんでそうなる!? どう見ても今のヴァレリアさん、ボコボコにされて負けそうだっただろ!?)」


 構図の理解できないユウサクの困惑を置き去りにして、ヴァレリアは吼えた。


「はあああああああああ――――!! 神雷解放ッ!!!」


 ヴァレリアの肉体が爆発的に膨れ上がった。

 その白磁の肌の下から竜の鱗が突き抜け、端正な顔立ちは見る影もなく変質していく。目は白濁し、上天じょうてんする。

 演武場にいたのはもはや勇者ではなく、理性を完全に失った「巨大な竜」そのものだった。


「グオオオオオオオオオオオン!!!」


 咆哮と共に、竜の足がくり坊主を塵のごとく踏み潰した。

 もはやそれは修行などではない。ただの天災、純粋な破壊。寺院は竜の尾の一振りでなぎ倒され、山頂は深々とえぐれ、夜を徹して凄まじい地響きが霊山を揺らし続けた。


荒野の再会


 一昼夜に及ぶ破壊の限りを尽くした末。

 命からがら避難していたネネとユウサクは、変わり果てた山頂の瓦礫の山へと戻ってきた。


 そこで二人が発見したのは、力を使い果たし、一糸まとわぬ裸体のまま地面に伏して眠るヴァレリアの姿だった。


ネネ「……ねぇユウサク。どうするの、この人」

ユウサク「……俺に聞かないでくださいよ。っていうか、神雷ってなんなんですか? ただの『人型核兵器』じゃないですか……」


 山を削り、寺院を消し去り、裸で爆睡する自称勇者。

 二人はただ呆然と、朝日を浴びるヴァレリアの背中を見つめるしかなかった。


(第十二話 終了)

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