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誰かが強く体を揺すってくる。気持ちよく寝てるのに邪魔しないで欲しい。
「佐藤さん!如月さん!」
ハッとして目を開けると目の前には川村が居て、雄真は鈴木に体を揺すられていた。
「あれ?」
「次の駅に着きすけど、、」
「駅ってどこの?」
咄嗟に車内の電子案内を確認するといつもの利用駅に着く所だった。周りの乗客も何も無かったかの様にスマホを見たりと人間らしい動きが戻っていた。帰って来れたんだと思って心の底から安堵する。握られた手の力が弱まるのは雄真も無事の帰還にホッとしたのだろう。
ん?手を繋いでる、、。
私は咄嗟に離れようとしたがそれよりも素早く再び強く握られて離れられなかった。車内のアナウンスが駅への到着を告げると手を引かれて立ち上がらせられる。
「とりあえず降りましょう」
雄真が鈴木達にそう告げると、停車した電車からドアを潜ってホームへと抜け出した。
「良かったー、帰って来れたんだな」
「…そうね」
それなのに手を離してくれないから全然心臓が落ち着かない。後から降りた鈴木と川村が追いついてもそのままだから少し恥ずかしい。
「電車に乗ったら急に眠くなって、気づいたら晴翔が居なくなってて」
「お二人は晴翔や小野さんが居なくなる瞬間は気付かれましたか?」
「ああ、はい。俺達は眠らなかったんで」
「晴翔君、お二人にもう泣かないでって、頑張ってって言ってました」
そう言うと鈴木と川村は目を潤ませながら互いに笑顔を交わした。
「夢かと思ったけど、やっぱり晴翔君の声だったんだ」
「私も晴翔君の声を聞いた気がしたんだけど間違いじゃなかったんだね」
「泣くなよ」
「泣かないわよ。晴翔君に怒られちゃうもの。晴翔にも」
鈴木がやった事は決して許される事じゃないが、これで二人はちゃんと晴翔君とお別れが出来て、そして亡くなった晴翔君に向き合う決心も出来たようだ。
「この度は本当にご迷惑をお掛けしました」
「また改めてお詫びに伺わせて下さい」
「お詫びなんて、ねえ?」
「ああ。俺たちは小野さんと交流出来てむしろ良かったわけだし。だから、良かったらただ珈琲でも飲みに来て下さい」
こうして近々「珈琲屋」に改めて挨拶に来てくれる事になった。二人は始発駅に車を置いてきたそうでこのまま次の電車で戻ると言う。私はこのまま次の電車で仕事に向かっても良かったのだが雄真が手を離してくれなかった。
「俺達はここで失礼します」
雄真が二人にそう告げると足早に改札へと歩き出す。
「ねえ、私このまま仕事行くってば」
「まだ時間早いだろ!珈琲くらい飲んでけよ淹れてやるから!」
「その後出勤のためにまたここまで来なきゃないのよ?」
「車で送ってやるから、それなら良いだろ」
私は手を引かれたまま、有無を言わさず「珈琲屋」まで連れ帰られた。店に入ると雄真はカウンターの椅子に小野から受け取ったコートを掛けるとやっと手を離してカウンターの中に入って行く。私は仕方なくカウンターの椅子に腰掛けた。
「昨日のミートソース余ってるからトーストと一緒に食うか?」
「歩いてお腹空いたから食べる」
朝から余計に歩いたのだ。珈琲だけでは割りに合わないから遠慮なくトーストとミートソースの提供を希望する。私の返事に満足すると雄真は手際良くモーニングプレートを仕上げて、要領良く珈琲を落とす。たちまち珈琲の良い香りが店内に満ち、落ちる珈琲液の音は耳に心地良い。
「雄真の珈琲、久しぶり」
「この一週間小野さんが朝は淹れてくれてたもんな」
「昨日はすっかり雄真の味を再現出来てたわね」
雄真は珈琲が落ち切る前にドリッパーを外すとサーバーを回して液の濃度を整える。温めたカップにそれを注ぐとモーニングプレートと共に私の前に並べられた。珈琲はいつもは食後派だが久々の雄真の珈琲、まず一口味わった。
「うん、美味しい」
私の好きな味だ。コクがあって、酸味よりは苦味が強い雄真の珈琲。
「ずっと淹れてやるよ。毎朝、読書の時、それ以外でも、千歳が飲みたい時は俺が珈琲淹れてやるから」
私は珈琲カップから視線をカウンターの向こうの雄真に向ける。知らない人なら怒ってるって思いそうな目つきは、いつも真剣な話をする時の雄真の癖だ。
「千歳はこれからも自由にやりたい事に挑戦していけば良い。俺はそれを一番側で見て居たい。千歳の語る色んな話をこれからも聞かせて欲しい」
「雄真、、」
「いつでも言えるって、千歳が落ち着いたら言おう、今度二人で出掛けたら言おう、そんな風に考えて来たけどそれじゃダメだって思ったから」
雄真はカウンターの椅子に掛けたコートに目を向けた。日常は決して当たり前じゃない。明日がある、それは絶対に約束された事じゃないのだとこの数日で思い知った。
「ずっと、千歳が好きだった」
ずっと子供の頃から側にいた。読んだ本の話や、あるかも分からない異世界の話をいつも楽しそうに聞いてくれる奴。私の挑戦を笑わずにいつも「凄ぇじゃん」って肯定してくれて、誰にも言えない仕事の辛さをただ黙って聞いてくれる。側に居てくれたのがそんな雄真だったから私はいつも前進して来れたと思ってる。もう、自分の気持ちを誤魔化したりしない。皆んなも応援してくれたから。
「私も雄真がずっと、好きだったわ」




