3
いつも利用する駅のホームで電車の到着を待つ。隣には小野が当然いるわけで、しっかり例の端末を使ってここまで入場出来ていた。
「社畜さんは居ない?」
小野が辺りをキョロキョロと見渡す。
「ええ。朝会うことがあれば先の駅で既に乗って来てて電車内で見かけるんです。それももっと早い時間だから今日も乗ってるかどうか」
「車両はいつもここ?」
「はい。一番空いてるんでいつもここです」
そこに始発駅から発車した電車が到着した。乗り込むと私達は空いてる座席に並んで座る。
「居ない?」
「はい」
「座るのはいつもこの辺り?」
「そうですね。でも空いてる所に適当に座るので必ずってわけじゃないです。別の車両も見に行ってみますか?」
「いや、時間的に言ってもこの電車に乗ってる可能性は低いだろうから。それに人は基本同じ行動を続けるからね、別の車両は取り敢えずスルーで。今後の状況次第で始発駅を張ってみたりはしても良いかもね」
本物の刑事みたいだと、目を輝かせて素直に格好いいと伝えると小野は少し困ったと言うか呆れるような顔をする。
「千歳ちゃん、気をつけた方がいいよ?」
「何がですか?」
「君は職業柄人を褒めるのが自然に出来るんだろうけど、それが思わぬ感情を人に生む事もあるんだから。まるで自分にだけ向けられた君の特別な想いだとか勘違いされたら困るでしょう?」
「この仕事ももう長いんですよ?その辺は弁えてますからご心配なく」
接客業だと客との距離を誤ってしまいトラブルに繋がることもある。私は大丈夫だが、これまでに危険な目に遭いそうになった後輩や実際に遭遇した先輩の話も聞いたことがある。それゆえにその辺は常に気を付けているのだ。接客は気安い雰囲気を心掛けてはいるが、あくまで店員とお客様というスタンスは崩さないし顧客とはしっかりと信頼関係が築けていると自負してる。それでも現役の刑事としては注意しないではいられないのだろう。
「これまで大丈夫だったからって油断しないようにね!あまり過信しないように」
「大丈夫ですよ、ちゃんと気を付けてますから」
そう言っても小野からの小言は続いた。柔らかい雰囲気の小野が見せた刑事らしい様子にうっかり褒めたりしなきゃ良かった。
「聞いてる?千歳ちゃん!」
「聞いてますよー。もう、分かりましたって。小野さんが刑事さんなんだってことも十分に」
「まるで刑事っぽくなかったみたいに言うね」
「だって、昨日からずっとニコニコしてて小野さん全然怖くないんですもん」
刑事だからって四六時中眉間に皺を寄せているわけじゃないだろうが、刑事というとどうしてもドラマなんかの強面のイメージが強い。小野はそのイメージからは遠く、柔らかい話し方から刑事であるとは益々認識し辛くなっていた。どちらかと言うと雄真の方が迫力はある気がする。
「ああ、それは僕がそっち担当だから仕方ないね」
「そっち?担当?」
こっちの世界はどうか分からないけどと前置きをして小野は話を続けた。
「刑事って二人一組で行動するんだけど、だいたい強面で迫力のある人と僕みたいな物腰の柔らかいので組まされるんだよ。一般の人に情報提供を求めたり、まず話しかけるのは僕みたいのが担当する事になってる。緊張感を持たせないようにとか、なるべく自然に話してもらうためにね」
「へえ!そうだったんですね」
確かにドラマでも二人で行動したり気の弱そうな刑事も描かれる。いつも睨みを効かせたり怒鳴ったりする刑事の印象が強くそちらばかり記憶に残ってしまっているが。刑事のトリビアを楽しんでいると下車駅への到着がアナウンスされ私達は降りる体制を整えた。
ホームに降り立つと念の為周囲を見渡して社畜さんが居ないかを確認してみるがその姿は見られなかった。小野は荷物を離してくれなかったからそのまま共に店の前に向かう。帰りの大体の時間を確認するとその頃にまたここでと言って小野は街へ姿を消していった。別れ際、目立たないが妙に耳に残る音が小野の方から聞こえていた。あれが迷い転移者の情報を受信した音だったのかもしれない。




