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翌日出勤の準備を整えて「珈琲屋」に向かうと既に小野はそこに居た。カウンターの中で雄真と並んで立っている。
「あ、おはよー千歳ちゃん!」
「おお、おはよー」
「おはようございます。早いですね小野さん」
「うん、年甲斐もなくなんか楽しみでね」
私達との食事や行動を共にする事を楽しみにしてくれてるのは素直に嬉しい。
「それに雄真君の珈琲の淹れ方を覚えたくて特訓してもらおうと思ってね」
「晴翔君が見つかったら小野さん帰っちまうだろ?自分の世界で俺の珈琲が飲めなくなるのが残念って言ってくれるもんだからさ、それならレシピ教えますよって提案したんだ」
「へえ」
雄真ってば本当に嬉しそう。たとえ流行るような店じゃなくても、自分の珈琲を美味しいって思ってくれる人が来てくれれば良いんだっていつも言ってるから、小野の言葉は嬉しいに違いない。
「それで、雄真君の珈琲をずっと飲んでる千歳ちゃんに毎朝ジャッジしてもらおうかなって」
「えー、小野さんが美味しいって思えればそれでいいんじゃないですか?」
「そうなんだけど、帰ったら誰かに淹れてあげるなんて出来ないし」
「是非、毎朝淹れて頂きたいです!」
私は帰還した小野が一人で珈琲を淹れる日々を思うとせめて共にいられる間だけでもと、彼の珈琲の味見役を喜んで引き受けていた。間髪入れずに答える私に小野は破顔した。昨日もよく笑っていたけど笑顔がよく似合う人だなって思う。
「珈琲も入ったことだし、飯にしましょう」
「オッケー、こっち運ぶね」
「私も手伝います」
三人で雄真の用意したモーニングプレートや小野の淹れた珈琲やカトラリーなどを手分けしてテーブルへ運びだした。
「「「いただきます」」」
声を合わせるとこれまでの転移者の事が思い出された。皆このいただきますの挨拶を最初は疑問に思っていたものだ。
「どうしたの千歳ちゃん、なんか楽しそう」
「ふふ、すみません。これまでの転移者達はみんなこのいただきますの挨拶を最初は不思議がってたんです。大抵ここでの初めての朝食で雄真が説明してあげてたんですけど、小野さんはそうじゃないんだなって思ったらなんか不思議で。いただきますが分かる世界の人なんだなあって」
「へえ、そうだったんだ」
「ユエって子供の姿した爺さんが居たんですけど、あいつ、形だけ真似して心がこもってなかったんだよな」
「そうそう!自称神様なんですけどお酒がとにかく大好きで。適当にするならもうお酒は抜きって言ったら姿勢正してちゃんとやってくれたのよね。なんか可愛かったな」
これまでは雄真とだけ共有してきた事を人に話せるのがなんだか嬉しかった。私達以外にも彼らを知ってくれる人がいるのは今は会えなくなってしまった彼らの存在をより確かに出来るような気がする。
「子供なのにお酒?それは職業柄聞き捨てならないね」
「そうっすよね。でも中身は爺さんなんで」
「お酒はリオンも好きだったわよね」
「だな。毎晩俺の晩酌に付き合ってくれたな」
「君たちが初めて遭遇した転移者だっけ?転移者とそんなに楽しそうな思い出があるの羨ましいな」
小野の言葉は私の好奇心をくすぐった。
「小野さんもたくさんの異世界人に会ってるんですよね?楽しい思い出はないんですか?印象に残ってる異世界人とか!」
「うーん、あまり楽しいって記憶はないかな。早ければ一瞬でさよならなんてのもザラだし。あ、でも子供とかはちょっと面白いかも。気を引こうとして好きなキャラクターの話をしたりするんだけど大抵噛み合わないんだよね」
「噛み合わない?」
「うん。それぞれの世界で流行ってるものが違うんだろうね。内容が一緒でもキャラが違ったり、悪役がヒーローだったり。その違いとか聞いてると面白くて、何それ本当にそんなのが流行ってるの?みたいな」
「例えば、ポケ○ンに似たゲームあったり、同じでも知らないポケ○ンが登場してたりとかっすか?」
「そうそう。まあこの年でゲームなんてやらなくなって久しいからね、そもそもポケ○ンなんて初期の181匹しか知らないんだけど」
「やだ小野さん、初期は151匹ですよ」
三十匹も増えてる。そもそもポケ○ンを知らないのかもしれない。それなのに小野は知ってるみたく語るからつい笑ってしまった。
「えー、間違ってないよー。ね?雄真君」
「いや、151匹っすね。俺歌って覚えましたもん」
「嘘だあ!って、世界線が違うんだった。僕の世界だと赤、緑、青、ピンクが初期なんだけどこっちは違う?」
「ピンク!?」
「ピンクは無かったっすね。こっちの初期は赤、緑、青っす」
これまでの転移者と違って文明文化が近いからかつい小野が転移者である事を忘れそうになる。だが確かに微妙な違いの発見は面白いかも。そこからはどのモンスターを相棒に選んだかとか同年代トークで盛り上がった。やはり小野の話には私や雄真の知ってる物とは違うモンスターも登場したりして楽しかった。




