5-2
それから小野は「珈琲屋」を出てからの話をし始めた。
「店を出るとまた着信があって、転移者の居場所と連行先が指示された。居場所に着くと独特の匂いがしてその発生源に居るのが転移者だったよ。いつもの要領で転移者を指定の場所に連行するとその転移者は姿を消した。いつもならそこで僕も元の世界に戻るけど当然そんな事はなくて、どうしたもんかなって思ってるとまた着信が鳴る」
それから同じ感じで数件の転移者の帰還をこなしたそうだ。電車などにも乗ったらしいがやはりガラケーのような端末で何処にでも問題なく入り込めたらしい。
「夕方近くなって、僕の世界よりも薄い夕焼け空が珍しくて眺めてたらまた着信がなって。指示された場所に行くと宿泊施設だった。受付に行くと機械でチェックインしろって言うからまたこの端末をそこの機械にかざすと部屋のカードキーが出て来たんだ」
そんな感じで日中は転移者の案内を、夜には指定された宿で休むと言う生活を続けていると言う。衣服も何故か朝にはクリーニングサービスを終えた体で部屋に届けられるのだとか。
「結局、帰れなくなっても転移者を帰す役目は与えられ続けてる。この店に来てた時にうっかり転移者を逃しちゃいそうになって、取っ捕まえてるのを雄真君に見られたから適当な理由つけて刑事だって白状したんだよね。四六時中拘束されるわけじゃないからたまにここで珈琲も飲めるし、さっき言ったみたいに帰る理由もこれまでは無かったからもうずっとこのままでも僕は良かったんだ」
そこでまた小野はカップを口に運ぶ。香りを楽しみながら美味しそうに飲む様子は本当に珈琲が好きなんだなと思わせた。
「でも一ヶ月前、これまでと違う指示が来て帰還を考えるようになった」
そう言うとそれまで二つ折りのままだった端末を初めて開いて見せてきた。時空のおっさんの必須アイテムの中をまさか見る事が出来るなんてと胸が高鳴ったが、見た目はよく知るガラケーそのものだった。その画面に当たる所には子供の画像と何か記号のようなものの羅列が一定間隔で交互に表示されている。
「達成されない指示はこうしていつまでも表示され続けるんだけど、君たちにも見えるのかな?人に見せるの初めてなんだけど」
「子供の写真はわかるっすけど」
「記号、と言うか文字かしら?そっちは分からないです」
「そっか。記号に見える方は指示文章だね。写真の子が帰還途中で何者かに誘拐されたから探し出して担当に引き渡せって」
「誘拐!?」
私の驚く声に小野は頷いて更に驚く事を口にした。
「そして、その子を指定の場所に連れて行ければついでに僕も元の世界に帰してやるって」
なんと、小野が帰還する方法はもうすでに分かっていたのだ。




