プロローグ
シリーズ4作目もよろしくお願い致しますm(_ _)m
メインキャラの時空のおっさんに注目すれば、前作を読まれてなくてもストーリー上問題なくお読み頂けるかと思います
もう何もかもがどうでも良かった。皺になるのも気にせずに無造作に丸まった膝上の背広からは線香の匂いがする。僅か四才でこの世を去った息子の葬儀終わり、その会場から会社の呼び出しに応じるとか俺は一体何をやっているのか。念の為に替えのネクタイまで持って参列してたんだから染みついた社畜根性が恐ろしい。
なんて事はない業務をこなし帰りの電車に揺られながら、ただ疲れた体を座席に沈み込ませ休日を楽しんだだろう連中が乗り降りするのをぼんやりと眺める。大荷物を提げているにも関わらず、いつも姿勢の良い女性も颯爽と下車して行った。その姿に仕事出来そうっていつも思う。
そこでほとんどの乗客が降りるので、後は残る数名を電車は終点へと運ぶだけだ。カップ麺が出来上がる程度の数分で着くはずの終点駅。もし降りずにいたらどうなるんだろう。鉄道関係者に迷惑だろうがこのまま乗っててみようかなんて、しょうもない事が頭に浮かぶ。どうせ立派な姿を見せたい息子はもうこの世にはいないんだし。
そんな思考に耽っていたのはほんの一瞬のはずだった。それなのに電車の窓には見覚えのない風景が流れていた。
(地下鉄なのに外の風景が見える、、いやそんなはずない)
そう思った瞬間、電車は再びトンネルへ突入した。一体今のは何だったんだと不思議に思っていると電車はアナウンスもなく停車した。
開いたドアの向こうに広がるホームは明らかにいつも利用している終点駅のものではなかった。降車口の辺りにしか照明は灯されておらず全体的に暗すぎる。どう考えてもおかしな状況だが自分以外の起きている残りの乗客達は次々に降りていく。こんな異様な駅に絶対に降りてはいけない、直感でそう思った。
(夢でも見てるだけだ、早く起きろ俺)
頬をつねってみたりしていると降りて行く者の中に見覚えのある小さな背中があった。そんなはずないと思うのに体は勝手に走り出す。ドアを超える時は一瞬躊躇われたが思い切って外へと飛び出すと、その勢いのまま小さな背中に手を伸ばした。
「は、晴翔!」
俺の呼び掛けに振り向いたその顔は間違えなく息子のものだった。死んだはずじゃなかったのか、もしかして俺も死んで黄泉の国ってのに連れていかれるところなのか。一瞬のうちにあらゆる思考が巡るが、もう会えないと思った息子に会えてとにかく嬉しくて気づけば晴翔を強く抱きしめていた。
そうしていると背後で電車の出発を告げるアナウンスが響く。晴翔は作業服の男に手を引かれていたが俺は構わず引き剥がすと咄嗟に電車に向かって走り出した。
(連れて帰らなきゃ、、!)
なぜかそう思って、怒鳴りながら追ってくる作業服の男から俺は必死に逃げた。電車のドアが閉まる寸前、体を滑り込ませる事に成功すると『バン!』という音が背中に響く。恐る恐る振り向いてみると作業服の男がガラケーを耳に当てながら、窓に拳を当てて俺を睨みつけていた。ゆっくりと電車は走り出し男の姿を小さくしていく。距離がだいぶ出来てやっと詰めていた息を吐き出した。
「ふえぇーん」
「ああごめんな、怖かったよな」
腕の中の晴翔が訳もわからず泣き出してしまった。そういえば良いものを持っていた事を思い出し床に落ちていた背広を拾い上げながら座席に腰を降ろした。背広の内ポケットから国民的人気キャラクターがパッケージに描かれたお菓子の小袋を取り出す。晴翔の墓前に供えようと思っていたのだがその暇もなく仕事場へと向かったのだった。
「ほら、大好きなアンパ○マンだよ」
これを見ればいつだってすぐ上機嫌になる。
「あんまんマンじゃないー!いやー!」
「ええ!?」
今なんて言った?あんまんマン?そう聞こえたがきっと泣きじゃくって舌が回らなかったのだろう。しかし困ったな。どんどんと鳴き声は勢いを増していく。
「ほら、チョコだぞ。好きだろ?」
俺は慌てて袋を開けて一粒摘むと晴翔の口に近づける。大泣きしててもお菓子は食べたいらしい。あー、と言って口を開けてくれた。チョコを口に含んでもまた鳴き声が大きくなりそうで咄嗟に頭に浮かんだ話題を振る。
「ああ、そうだ!約束したの覚えてる?いつにしよっか?」
「約束?」
晴翔は俺の振った話題に興味をもってくれたのか少しだけ落ち着いた。するとその時いつもの終点駅への到着を告げるアナウンスが車内に響く。ハッとして周りを見渡すと電車の窓の向こうに見慣れた明るいホームが迫っていた。帰って来れたと知った俺は心の底から安堵した。
今作はいささかシリアス多めの切ないストーリー展開になりそうです。。
完結まで七万字程度です。
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