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エピローグ

「はー。終わった終わった」

 両腕を掲げて体を伸ばすのは、令嬢としてどうかと思うけど、馬車の中には私ともう一人しかいないからいいだろう。


「それにしても、犯人が桜の精だったなんて。私、ちっともわかりませんでした! 今も信じられないぐらいです! ・・・つまみ食いとかしてたのも怒られますかね?」

 そのもう一人が、緊張状態の解放からか、自分の罪を自白しだした。


 ・・・たまに、なんか料理の盛りが少ない気がしてたのよね。

 

「大丈夫でしょ。あれ全部、ウソだし」

 自白には自白で応えよう。


 私だけずっと、後ろめたいのも、ねえ?


「ああ、な~んだ、それなら────??!!」


 あっさりと言い放った私の一言に、アンの声が上ずり、目がまん丸になって、下顎が床につきそうなぐらい開かれた。

 

「う、う、ウソ?! ウソって言いました。い、いいまいま、いまいー?」


 ガコン! とアゴを戻してアンが叫んだ。

 驚くのはいいけど、唾は飛ばさないで頂戴。


 ・・・公爵家の馬車といえども、そんなに広くないんだから。

 

 ◎ー ◎ー ◎ー (少し前)


「どちらへ?」

 一仕事終えた私達に、案内人が問いかけた。

 お城の中にある公爵家の部屋と、外にある屋敷。

 これから向かうのは? という問いかけだ。


「屋敷へ。後、伝言も」

「かしこまりました」

 これで、私がお城を去るのが部屋にいる母にも伝わるだろう。


 そう、去る。私は今日この城を去るのだ。

 

 お城に部屋がもらえるのは、地位相応の特権でもあるが、屋敷にいては果たせない───要は、頻繁に必要とされる───役目を仰せつかっている証明でもある。


 つまりは。


 もう、お城の公爵家に与えられた部屋は、王子の婚約者では無くなる私の居場所ではない。


 そう思えば、何もかもが名残惜しく──


──清々しい。


 ・・・ええ、わかってるわよ。全く逆の意味だって。


 建物の(おもむ)きは好きなんだけど、いかんせん住人がねー。


 もう来なくていいってなると、スキップしてもいいぐらい。


 ・・・やらないけど。


 ◎ー ◎ー ◎ー (なんて事が過ぎて、現在)


「ど、どこからどこまでが、う、ウソなんですか?」

 あれだけ叫んでおいて、今さら声を潜めても。

 まあ、馬で並走している護衛の騎士が、何かあったかと確認しにこないから、外にはもれてないのだろう。


 職人魂のこもった(会話のもれない)馬車、万歳。

 ・・・まさか、私達の奇行に慣れてるわけじゃ無いわよね?



「ど、動機は?」

「どっき、どき」

「と、トリックは?」

「さぁ」

「は、犯人は?」

「桜の精のせいにしました。なんちゃって」


「お・じょ・う・さ・ま?」

 近い、近い、近い!

 アンとチューするつもりもないので、私は、お預けを止めて、おねだりに応えることにした。


 ◎ー ◎ー ◎ー


「最初、なぜ私が事件を調べようとしたか覚えてる?」

 んー、と。私の問いかけにアンの視線がさ迷う。

 いいわよ。たくさん考えて。


 これから時間はいくらでもあるんだし。


「たくさん人がいたのに王子が攻撃されたから?」

「そうね」

 別に王子が、ってわけじゃないけど、警備されてたパーティー会場で重要人物に危害を加えられたのが問題だったわ。

 未知の攻撃手段があるように思えたのよね。


 ・・・今になってみれば、何で気づかなかった? ってぐらい簡単な事だったんだけど。


「どんなにまわりを固めていても、警備対象に危害を加えられる人物はいるのよ」

「・・・警備の人ですか?」

 それもありだけど。


「部屋に入らない警護方法もあるわよ」

「あ」

 そう、本人だ。

 まあ、薬なり、なんなり。

 自分で自分を傷つけられないようにする方法はあるけど、怖いからそれは考えないようにして。


「え、王子? 王子が犯人なんですか?」

「でしょうねー」

 タヌキ寝入りしてたようだし、間違いないだろう。


「え、えっ? なんで自分に魔法を?」

「さぁ」

 こればっかりはわからない。

 大方、人違いをごまかそうとして失敗したんだろう。

 私がいつも、軽ーく彼の魔法を防ぐので、そのノリで深く考えず、詠唱を始めたあたりで、相手が別人だったと思い至ったのかもしれない。

 いづれにせよ、本人は怪我一つしていないのだから、知りたければ聞けばいいのだ。


 ・・・私は興味無いけどね。


「トリック、ってなんもないですね」

 うん。自分の魔法圏の中で魔法を発動させただけだ。

 至近距離での発動なんだから、飛ばすも何も無い。

 飛ばして無い魔法を飛んできたと考えてしまったからややこしくなったのだ。


 無属性だったのは、・・・ヘタレたんだろう。

 本気の攻撃でもないのに、そこまでして威力を底上げする必要はないし。

 結果だけみれば、そう悪くない選択だった。


 ちょうど気を失って、寝たふりに繋がったし。




「なんでそれをあの場で、言わな・・・」

 アンが不自然に言葉を止めた。


「・・・桜の精のせいにしたのは、卒業パーティーにいかなかったのと一緒の理由ですね?」

 どうやら自分で答えにたどり着いたらしい。


「そう」

 あの場で真実を指摘しても誰も得をしない。

 いない王子はともかく、王様の面目は潰れてしまうから。


 それがわかったから宮廷魔術師長も協力してくれたんだろう。


 歴史のある国だ。

 会議中に倒れた王様は過去に何人もいただろうが、きちんと今回の状況に合わせて天罰が下りそうな人を選んでくれた。

 もちろん彼らが倒れたのは、別の理由で、だろうけど。


 ・・・自身の魔法で自爆したのは──


──さすがに、いないわよね?


「最初からわかってた様子の王様には、ちゃんと釘を刺したし」

「さしたのは指でしたけど。びっくりするから止めてくださいよ」


 王様の面目を潰してしまえば、私も家の立場も悪くなる。

もしかしたら、この件で、申し込まれる予定の婚約解消をどうにか、とか考えていたのかもしれないが。

 王子を犯人にしなかったので、それは無効になり、かえってこちらが貸しを作った形になった。


「私のやれることはやったと思う」

「そうですね」


 あとは城に残ったお父様とお母様と、王様の話し合いが望んだように進むのを祈るだけだ。



 ◎ー ◎ー ◎ー

 

 かくして。


 咲き誇る桜の巨木は、その下を走る公爵家の馬車を今日も優しく見守るのでありました。


――Fin――










 おまけ


「「たっだいまー」帰りました!」

「「お帰りなさい」ませ」

 くるうり。

 アンとシャーロットは百八十度、(きびす)を返した!

 そう、公爵令嬢に「お帰りなさい」と言える人物はこの世に二人しかいないのだ!


 バタン!

 非情にも扉は閉じられた!

 もう、逃げ場はないぞシャーロット!


「お、お帰りなさいませ、お母様」

「た・だ・い・ま」

 そう、彼女を出迎えたのは母親の公爵夫人であった。


「アンも、ご苦労だったわね」

「・・・はい」

 そのとなりにはアンナが。

 アンの母親、その人である。


「どうしたの? いきなり引き返したりして」

 にこやかな笑み。

 そう、逃げる理由などどこにもない。


「どうしたの? こんなの干したりして」

 にこやかな笑み(目を除く)。

 そう、逃げる理由などどこにでもある。


 例えば、紳士用の帽子が干されていたり。

 例えば、紳士用の上着が干されていたり。

 例えば、紳士用のズボンが・・・。


「「あー!」洗ったまま、干しっぱなしでした!」

 公爵家の屋敷は、広大──


──つまり、走り回っても、あまりある広さを誇っている・・・。


 まあ、最後には捕まるんですけどね。




 おまけ2


「最近、お疲れね。アン」

「そうなんですよ。庭に降ってくる桜の花びらが、掃いても掃いても掃いても掃いても・・・」


「「・・・(アレ?)」」


 この国でハラハラと散る桜の花びらは魔法仕様。

 風に舞う姿は見せるが、途中で消えて掃除がいらないのが、地味にありがたいはず。


 で、あったのだが・・・?

 

これにて完結となります。

最後まで、お読み頂き、誠にありがとうございました。


もし可能であれば、評価のほども、よろしくお願できれば、と。はい。


では、また、どこかで。

他の作品にも、触れて頂けたら幸いです。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 終盤までは転生ヒロイン?による陰謀だと思ってました。
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