悪役令嬢、領地を満喫する③
「失礼致します」
私が入室を許可すると執務室の扉が開き、使用人の服を着た黒髪の青年が入ってきた。
「リリーベル様、この度は学院ご卒業おめでとうございます。直接お出迎えが出来ず、申し訳ありません」
「ありがとう、ルーカス。良いのよ、出迎えぐらい。貴方、防壁の進捗状況を見に行ってくれてたのでしょう?そちらの方が最優先よ」
ルーカスは私に祝いの言葉と出迎えに来れなかった事を詫びると深くお辞儀をした。
ルーカスは四年前に路地でボロボロの状態で倒れている所を見つけ、隣国から連れて帰って来た。
どうも訳ありみたいで隣国には帰れないと言うので、家で面倒を見る事にした。それなりにきちんと教養を受けているみたいで、家に来てからはよく働き、いつしか私の仕事の補佐までしてくる様になった。
今では私の優秀な専属執事として働いてくれている。
「帰って来られて早々お仕事ですか。長旅でお疲れでしょう。少しはお休みになられてはどうでしょう」
ルーカスは私の事を気遣いながら、用意してくれていた紅茶を入れて私に差し出した。
丁度、喉が渇いていたので有難い。流石、優秀な執事だわ。
事前にルーカスが防壁の進捗状況を確認しに行く為、邸を留守にする事は知っていた。
「大丈夫よ。それより、報告する事があるんじゃない」
私は紅茶を一口飲むと、ルーカスに防壁の進捗状況を聞いた。
「では、ご報告させて頂きます。防壁工事ですが、壁は完成しました。あとは、侵入防止網の設置と魔石設置工事が終われば、最終確認をして完成となります。あと、一ヶ月程で防壁工事は終了するかと思われます」
「最終確認には私も立ち会うわ」
「承知致しました。それと、以前提案されていた工場増築の件ですが、新しく開発した生活魔具と、香り付き洗髪剤の売れ行きが好調でして、そのお陰で思っていたよりも早く資金の目処がつきましたので、そのまま進めてもよろしいでしょうか?」
ルーカスは新たな書類を私に差し出した。
一枚目には隣国にある私の商会での販売利益が書かれていた。
「ロイズから売れ行きについては聞いていたわ。でも、工場増築の人員は足りているの?」
二枚目の書類に目を通しながら、ルーカスに確認をする。
「はい。領地内全ての民家建て直しが先日完了しましたので、手の空いた技術部門と土木部門の作業員をそちらにまわすつもりです。技術部門と土木部門の責任者にも既に通達済みです。あとはこちらの書類にサインを頂ければ、明日からにでも作業に取り掛かれます」
私は書類に不備がないか確認すると机の上に置いてあったペンを取り、サインをしてルーカスに渡した。
「そうそう、ルーカス。明日は久しぶりに領地をまわりたいのだけど、予定の方はどうなってる?」
私が予定の確認をすると、ルーカスはすぐに自分の上着の内ポケットから、手帳を取り出すと予定の確認をしてくれた。
「明日は夕刻に全体会議がございますが、それ以外は特に来客予定もございませんので大丈夫です」
「夕刻までは時間があるという事ね。なら、朝から領地をまわるわ。テオを連れて行くから言っておいて」
「承知致しました」
ルーカスが執務室を出てた後、私は残っている仕事を終わらせて、そのまま読書をしていると、執務室の扉を叩く音が聞こえ、扉の方へと目をやると、叔父様が部屋へ入って来た。
「仕事中だったかな?」
「いえ、大体終わりましたので、読書をしていた所です」
私は読んでいた本を閉じると、机の前にあるソファーへと移動をした。叔父も私に続き、私の正面にあるソファーへと腰を掛ける。
「オルガから聞いたよ。気を遣わせてしまったみたいだね。ありがとう、リリー」
無事、オルガとは会えたみたいで照れ臭そうに笑う叔父がなんとも可愛らしかった。これで、三十には見えない。下手したらオルガの方が年上に見えるわ。
「お礼を言うのは此方の方ですわ。お父様の代わりに卒業式典に来て下さいましたもの」
「兄さんが隣国まで行くのは流石に難しいからね。それに可愛い姪の為だ。僕は喜んで行くよ」
そう言って、叔父は優しく微笑む。
可愛いのは叔父様の方よ!と、つい言ってしまいそうになり、私はにやけそうになるのを必死で堪えた。私の口、堪えて!
「き、今日一日ぐらいゆっくりしてらしたら良かったのに!」
オルガと一緒に。
「充分休めたよ。ところで、さっきルーカスから聞いたんだけど、明日は領地を回るんだってね」
「ええ、久しぶりにゆっくり見て回ろうと思って、何か改善点が見つかるかもしれないし」
ローランド領地は隣国と隣接しているから、今は良くても、戦争が起こった時にはローランド領地は狙われやすい。その為に領地を囲む巨大な防壁を作ったのだ。
「仕事熱心なのは良いことだけど、休むことも大事だからね」
「ええ、分かっていますわ」
「この分なら、リリーが成人した時に安心して領地を任せられるね」
叔父様は嬉しそうに話してくれた。
そう言ってもらえて、私も嬉しく思った。なので、成人になる前に領主にしてくれないかなぁ。なんて思ったのは黙っておこう。
暫く叔父と会話をした後、執事のカタールが夕食の時間だと呼びに来てくれた。
叔父と夕食を共にした後、私はやっぱり疲れていたのか、そのままベッドに倒れるように眠りに就いてしまった。