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逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
終章 追い求め、追い求め
59/62

58.ナンパ

『ほう?』


 後ろでレイさんが面白そうに笑っている気配がするが、僕にはそれどころじゃない。


 見えてるってことは見えてるってことだよね!?

 レイさんが見えちゃってるってことだよね!?

 レイさんが透明になり忘れてたとか!?


 僕は勢いよく背後を振り返って見たが、レイさんの気配は察知できても姿は目視はできなかった。……そりゃそうだ。レイさんが透明になり忘れてて普通の人に見える状態でいたなら、街の中になど入れてもらえるはずがない。門番の意味がなくなるだろう。


 では彼女が普通ではないということだ。きっと、霊能力者というやつなのだ。

 やばい。

 何がやばいってこのままじゃ僕がやばい。


「違うんですよ!?僕は憑依されてるわけでもなければ、邪神教徒というわけでもありませんよ!これには深いわけがありまして!」


 僕はこのままでは近い未来に確実に迫るであろう恐ろしい未来を回避するため、全力で言い訳をし始めた。

 モンスターを街に招き入れて人間を滅ぼそうと考える邪神教徒などと勘違いされてはたまらない。


「は……はい……?」


 僕のあまりの剣幕にか、彼女は目を白黒させている。そして青ざめた顔のまま、後ずさっている。恐怖に染まったその表情はまるで殺人犯を目の前にした人間のよう……って、客観的に見たらこれ僕が凶悪犯役ですよね!?

 お、落ち着け僕。慌ててもいいことないぞ。

 深呼吸をして気分を落ち着ける。


「あ、あの……このままじゃアレなのでどうかせめて場所を移しませんか?」


 僕は僕の様子を伺っていたらしい彼女の眼の前に手を差し出した。

 どうやら僕の顔は害がなさそうらしいので、それを意識してつとめて人の良さそうな笑顔を浮かべる。

 僕の顔に害がなさそうというのは、別に僕が弱そうというわけではないと思う……。


 ここでこれ以上問答をやっていて、注目されちゃいけない。僕がお縄につくことになってしまう。婦女に暴行を図ろうとした凶悪犯になってしまう。違うんだ冤罪なんだ!


 ……それに、本当に彼女にレイさんが見えているのなら、もし注目された僕らが警察に連れて行かれることになった時、レイさんが除霊されちゃったりするかもしれないのだ。

 それではいけない。


 彼女は僕の慌てたような言葉を聞いて、青ざめた顔のままポカンとしていたが、ややもして起動したのか僕の手をとって立ち上がった。


 訝しげな表情をしながらも、幾分か落ち着いた様子で僕らに向き直るとゆっくりと頷いた。


 いいんですか!?


 自分で言っといて僕は驚いた。気弱そうな女性だけど、見知らぬゴーストに憑かれた男性にナンパされてどこかに行くだなんて、ちょっとお兄さんびっくりだよ。


「じゃあ、そこの、喫茶店でいいですか?」


 しかし彼女の躊躇いがちな誘いに僕はぶんぶんと首を振って了承した。彼女の気が変わらないうちに、せめてこの人の往来から離れて落ち着いてもらわねば。

 まずはここから引き離すのが責務なのである。

 焦る僕とは対照的に立川さんは非常に落ち着いているようなのだが……。

 ちょっと彼はこの状況を理解できているのだろうかと不安になる。お馬鹿なのだろうか。

 溜息を吐きそうになりながらも僕はニコニコと人好きしそうな無害な笑顔を浮かべて彼女が指差して歩き始める。彼女も歩き始めた僕の後をついてきてくれているようだった。


 よし、これでひとまずは安心……。


 と、思ったんだけどな。僕の化け物レベルの気配察知に感謝しないといけないのか何なのか。

 気配が教えてくれた。

 歩き始めた女性は一瞬俯くと、気弱そうに悲鳴をあげた彼女の様子とは別物の、ニヤリと企みが叶ったような不敵な笑みを浮かべたのだ。


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