表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃げ足最速、新聞記者  作者: ヘッドホン侍
終章 追い求め、追い求め
52/62

51.自己紹介

 地下墓地カタコンベの調査に行ったら、リッチが仲間になった。


 さて、それでどうしようとなったのがギルドへの報告である。馬鹿正直に報告したところで信じてもらえなさそうだし、そして何より信じてもらえたとしても研究だとか手続きとかだとか色々とやっかいなことになりそうなのは目に見えてる。

 ではどうするかというと。


「どうやらカタコンベの上の地面が陥没して、内部にいた《マミー》が大量に放出されたようです。カタコンベ内部も調査いたしましたが、危険な(・・・)モンスターは発見されませんでした。昨日地上部に放出された分で《マミー》()最後だったようです」


 《マミー》の群れが街までやってくればそれはもう災害だった。そんな一大事であったので、僕たちはギルドから受けた調査依頼の報告を、ギルドの受付の奥に配置されている応接室的なところで行っていた。

 僕は胸をはって自信満々で答える。


 嘘はいってない。

 しゃべるゴーストさんはモンスターだけど危険ではないし、カタコンベ内部から《マミー》は出てこなかったのも事実だ。ゴーストは出てきたけどね!


 確信に満ちたハッキリとした報告に、報告を受けていたギルド職員の皆さんが――ひとりでもいいだろうにギルド長のほかに三名もこの部屋にやってきていた――ほっと息をついたのがわかった。

 近くに《マミー》の群れが噴出するらしいとか聞いては、気が気じゃなかったのだろう。張り詰めていた表情が一転、心底安堵した様子になった。

 それに、ギルド職員の皆さんは僕のスキルを知っているから、僕がモンスターはいないと言い切ってしまったのにも不思議に思わない。


「なるほど。ありがとうございました。《マミー》のポップ地点が出来たわけではないということを聞いただけでも安心しましたが、カタコンベ内部の調査まで行っていただけたとは。感謝します」


 髭面のスキンヘッドのいかついおっちゃんが頭を下げた。

 なんだか居心地が悪い。このガラの悪さでギルド長なんだって。調査依頼を受けることになって午前中イケメンの受付さんにつれられて、ギルド長と対面した僕は驚いたよ。

 だって、ギルドっていうのはもはや世界規模の公共機関のようなものだからね。

 ギルド職員というのは基本、公務員の事務方みたいなもんで、つまり『前時代』のファンタジー小説で記されたようないかついおっちゃんがギルド長なんてのは本当に稀なのだ。そりゃそれなりにできるひとや強面のひとが、冒険者へのけん制の為におかれたりするが、事務処理のトップだよ?

 総理大臣がムキムキマッチョみたいな違和感がある。

 僕の驚きに、イケメン受付さんは気が付いていたようで、応接室を出たあと『ギルド長は筋トレマニアですが実は絶望的に運動神経がなくて、ギルド職員になったそうです』と耳打ちをしてくれた。


 すっげーマッチョなのに、気を抜くと何もないところでこけるレベルのドジっ子なのだとか。


 マッチョのいかついスキンヘッドのおっさんがドジっ子ってナンなんだろう。これをギャップ萌えというの? いや萌えない! まったく萌えないよ! って、ギルド長の話はどうでもいいんだ。なぜ僕はギルド長の属性なんてものについて考察している。誰得だ。誰も得しないよ!

 それに、もうこの町は去ることになるのだし、今後このギルド長と関わることもない。


「では、これでクエストを完了とします」


 ギルド長の一言で、僕たちの調査クエストの報告会は終了した。






 ギルドから出た僕たちは、人ごみを通り抜け、ミシェルさんの実家でもある宿に向かう。

 ちなみに仲間になったゴーストさんは、僕の背中に張り付いて気配を消している。なんでも背後霊として守護霊のように振舞おうという気があれば人に認識されずに、そこに憑依できるらしい。ようは敵意がある場合は、いわゆる霊感のようなものがなくても見られるアンデッドモンスターに分類されるのだけど、無害な存在として認められれば認識されないのだとか。

 なんだその摩訶不思議現象。

 僕たちは驚くほかなかった。まあモンスターであるゴースト自体、姿を透明にすることはできるからね。気配はばりばりするんだけど。しかしいずれにせよ立川さんにとっては天敵だ。なにしろスキルの影響で気配が一切感じられないから。本当、彼が敵じゃなくてよかったと改めて思う次第。

 といっても、僕ほどの《気配察知》のレベルをもってすると、普通に存在を感知できてしまう。

 僕はいやな事実を知ってしまった。《気配察知》先輩ってば、幽霊まで守備範囲に入れちゃっているらしい。

 いや、きっと守護霊になったというよりは、僕の《気配察知》で察知できるようになるのだから、彼のその特技も僕の《隠密》のスキルのようなものかもしれない。そう、べ、別に超自然的な怪談の幽霊的なアレじゃないのだ。絶対違う。彼はモンスター。

 僕は自分に言い聞かせた。


 立川さんの部屋は大剣の整備中とかで汚いので、僕のほうの部屋についたところで、僕は口を開いた。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね。僕は清水洋といいます」


 ベッドに座ったら、目の前にゴーストさんが立っていた。きっと僕の背中に張り付いていたが、部屋に入ったときに離れることにしたんだろう。しかし部屋が狭いので目の前に。

 仕方がないのでしまらないが、頭をひょこりと下げて挨拶する。

 これから、モンスターを凶暴化させた張本人であり、もしかしたらモンスターを発生させたかもしれない、声の主を探しに旅に出る予定の仲間なんだ。自己紹介はちゃんとしとかないとね。


「俺は立川龍司だ」


 ベッドの脇に置かれた椅子にもたれた立川さんが偉そうなポーズで自己紹介した。

 悪役っぽく決まってるけど、態度悪いよ。

 しかしゴーストさんは特に気にしていないようだった。生前は貴族か王族かやってたみたいな口ぶりだったけど、心が広いのかな。それともそれはただの冗談だったか。

 いや、でもあれだけのカタコンベに丁重に埋葬されていたのだから、身分ある人であったことは間違いないだろう。

 ということは心の広い人……ゴーストなんだな。

 《鋼の精神》とかいうスキルを持っているくらいだし、信憑性も高い。


 ゴーストさんもいま気が付いたというように、拳と手のひらをポンと打つと、宙に浮きながら優雅にお辞儀してきた。


「わしは、レイ=レクスという」


 レイ……!? 霊なんですか!?

 僕は思わずぴくりと動いてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ