52.旅の準備は楽しいですね
さて自己紹介も終わったところで僕たちがしなくてはいけないのが、さっそく旅立ちの準備である。
といっても、河内さんのご厚意で車は持ってきてもらっているし、僕たちがこの街についてまだ二日目だ。
つまりまだ荷ほどきもしていないので、荷づくりの準備をする必要もない。
それで必要なものといえば、食糧なくらいなもんである。
というわけで、ミシェルさんとトニーさんとの別れの挨拶を済ませた僕たちはただいま市場にやってきていた。昔は『メルカート』や『マルシェ』という言い方をしていたらしいが、復活点の際の混乱を機にヨーロッパの国と言葉は統一され、マーケットと呼ばれる。
いま世界でつかわれている言語と言えば四種類くらいしかない。
それだけモンスターの脅威というのは人類を一致させるに至るくらい大きかったのだ。
「保存食……これでいいか」
僕はつたないながらも頑張ってヨーロッパ語の表記を読んで商品を手に取った。ちらりと視線を向けると立川さんもうなずいていた。
前時代からある某カロリーのお友達に似た栄養たっぷりなスティックタイプの保存食だ。日本にいたときはカロリーのお友達にたいへん世話になっていたので類似品とはいえこういった保存食がここでも見つけられたのは僥倖だった。
と手に取った商品を会計してもらおうと店主のもとに持って行こうとしたときだった。
黙って陳列棚の向こうから僕たちを見ていた髭も髪の毛もくるくるとしたナイスミドルなおっさん店主が口を開いた。
「冒険者さんたちは保存食を買うのかい?」
おお、冒険者に見られた!
僕はひとりで感動した。成り立ての頃は保存食の買い物をしに行っても冒険者だと思われたことなかったもんなー。挙句の果て、防具を買いに行っても冒険者だと思われないなんて。
ちなみにそのときは防具オタクだと思われた模様。
防具屋のTHE偏屈親父って感じの店主に『身につけない防具なんて売れねえ』なんていちゃもんをつけられたことで、僕が冒険者だと思われていなかったことが判明した。知ってます。僕みたいなひょろひょろした冒険者なんていないことも! いても魔法職だから防具なんて買わないってことも!
いや、新人ならまだひょろっとしているはずだ。
僕の文屋らしさがにじみ出ていたのだろうか。そのときは結局、ギルドカードを見せて何とか信用を得たのだが。
僕もちょっとは冒険者らしい貫禄が出てきたのだろうか。
僕は自分の成長に喜んでいたのだが、冷静になって店主の視線を辿ってみると、立川さんの大剣に向かっていた。
……ああ、そっちを見て判断したのね。
一気に肩を落とす僕であった。
今日は珍しく買い物に立川さんがつきあってくれているもんね。まあ買い物を済ましたらこのまま街をでるつもりだからね。うん。
と、ひとり内心で勝手に一喜一憂する僕は放っておいて、店主は話を続けていた。
「パスタがいいよ! ここらで保存食といったらパスタだよ! むしろそれ以外はありえない」
すごい否定をされた。
「え、でも、この保存食ってかいてあるやつはなんなんですか?」
思わず尋ねる。
わざわざカロリーのお友達を棚に陳列している意味はなんだい! 冒険者相手に保存食として売っているんじゃないの!?
「旅のひとが欲しがるから仕方なくおいてやってるんだ」
ぶっちゃけたよおい。
客商売としてどうなんだ。
引き気味の僕に、押せ押せの店主。
あれよあれよという間に、気がつけばいつの間にやら僕はパスタと寸胴鍋、そしてパスタにかけるソースを買わされていた。
「おい」
立川さんのジト目が心に痛い。
僕は顔を立川さんのいる方とは逆方向に捻じ曲げて必死に視線を合わせまいとする。
だって、ひげもじゃの店主のセールストークうまかったんだもん!
今ならセットで鍋がお安く買える上に、パスタは旅のお供として最適だと、前時代の戦争の際にも兵士に配られていたなんて聞かされたら心が刺激されちゃうじゃない! なんか、ロマン、的な!
でも、買ってしまってから気が付くのだ。
載せられた、と。
「ほ、ほら、あれですよ。カロリーのお友達も日本の純正じゃありませんし、まずかったかもしれませんよ!?」
『言い訳は見苦しいぞ』
耳元で声が聞こえた。その声色は立川さんに怒られている僕を見て完全に楽しんでいた。くそ……おぼえてろよ!
というか守護霊って耳元で囁けるのが普通な訳?
前時代の、虫の知らせは守護霊や背後霊のおかげ、とかいう説は本当だったりするの!?
脱線する僕の思考は立川さんの鋭い視線で現実に引き戻された。
「はい……僕がのせられました。すみません」
「料理担当はお前決定な」
素直に謝ったというのに、立川さんは容赦なかった。
『くっくっく……』
おい、レイさんよ。忍び笑い聞こえてるぞ。




