1.
今日は王宮のパーティー。その控室で伯爵令嬢バラバ・バツーバは溜息を吐き、少しの間だけ目を瞑った。これから彼女の婚約者であり国の王太子が始めようとしている茶番劇を思うと、胸が痛み気分が憂鬱になる。
「もう……何もかも遅かったわ……」
歳の割に女性らしく成熟した身体と栗色の髪、少しつり気味の大きな赤い瞳、紅の塗られた唇、そして真紅のドレスを身につけたバラバはとても美しく見えるが、今のバラバ自身には気の強い悪企みをしている女に見えてしまっていた。
「ふふふ……、彼には都合のいいのかもね……」
そう思ってしまうと、自身が映る鏡に向かって自嘲の笑みを浮かべた。
「どうしてこんなことになったのかしら……?」
バラバはこの茶番劇を止めるために、貴族令嬢としても王太子の婚約者としてもあらゆる手を尽くしてきた。バラバの今出来ることを考えて力の限りを尽くしたが、結局どうすることもできないまま、この日を迎えてしまった。豹変してしまった婚約者に婚約破棄される日が。
◇
バラバは七歳の時に、第一王子で八歳のダグバ・ガルメレの婚約者となる。その婚約は政略結婚であり、バラバが強く望んだことではないが、父ザジオ・バツーバと国王ジャラジダが決めたことで拒否することはできず、厳しい教育を受けていた。
王太子妃の教育は厳しく挫けそうになったこともあったが、兄と侍女と両親に励まされて頑張ってきた。
母親譲りの銀髪碧眼で父親譲りの優しく整った顔立ちのダグバは、真っ直ぐで正義感の強い好感の持てる少年だった。バラバはそんなダグバと結婚することを嫌だと思ったことはなく、夫婦になるからには愛を育みたいと思っていた。また、婚約者としてその努力も惜しまず、互いに手紙を送り誕生日や行事にプレゼントも送りあった。
バラバとダグバは婚約者同士としてとても仲良くなれていた。二人とも社交性が高く、隣国の王子や姫たちも交えて城の中庭を走り回ったり、騎士の真似事をして遊んだりと楽しい日々だった。
そんな二人の関係が、バラバが学園に入学した頃に変わってしまうとは思ってもいなかった。




