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第二巻 第二章 (恩知らずは悪人)(良き父親と良妻賢母)

 第二巻 第二章 (恩知らずは悪人)(良き父親と良妻賢母)


 さて、ある時、ソクラテスは、ソクラテスの長男ランプロクレスが母クサンティッペに対して短気さを見せたのに気づいて、次のように、その少年ランプロクレスに話しかけた。

「答えてください。我が子ランプロクレスよ、あなたランプロクレスは今まで、ある人々が『恩知らず』と呼ばれているのを聞いた事がありますか?」

 (次のように若者ランプロクレスは答えた。)

「聞いた事が有ります」

 次のようにソクラテスは話した。

「では、その人々が、この『恩知らず』という悪名を得てしまっているのは、どんな(悪い)事をしているからか、あなたランプロクレスは理解していますか?」

 次のようにランプロクレスは話した。

「はい。理解しています」

「誰かが親切にされて、親切へ報いる力が有るのにもかかわらず、親切にし返す事を怠ると、人々は、その人を『恩知らず』と呼びます」

 次のようにソクラテスは話した。

「では、人々が、恩知らずを、悪事を行う者ども、悪人どもに含める、と、あなたランプロクレスは認めますね?」

 次のようにランプロクレスは話した。

「はい」

 次のようにソクラテスは話した。

「では、恩知らずが善いか悪いかについて、『友人を奴隷にしたり、言ってみれば、捕虜にしたりするような行動は悪いと思われるし、敵を奴隷にしたり捕虜にしたりするような行動は善いと思われる』事とは、もしかしたら似ておらず、『友人に対しても敵に対しても恩知らずな行動は悪いと思われる』か否かを尋ねるべきである、という思いに襲われた事が、あなたランプロクレスには今まで有りますか?」

 次のようにランプロクレスは話した。

「はい。自問自答した事が有ります」

「私ランプロクレスの意見では、誰が親切にしてくれたかは無関係で、友人か敵の、どちらが親切にしてくれたかは無関係で、親切にされた人は親切へ報いようと努力するべきで、親切へ報いる事を怠る人は、悪事を行う者ども、悪人どもです」

 次のようにソクラテスは話した。

「では、その(ランプロクレスが言った)状況の場合、恩知らずは完全な悪行の一例に成りますね?」

 ランプロクレスはソクラテスの考えに同意した。

 次のようにソクラテスは話した。

「では、親切にされた行為の偉大さに比例して、親切へ報いる事を怠っている人の悪行は大きく成りますね?」

 ランプロクレスは再び同意した。

 次のようにソクラテスは話を続けた。

「では、子が両親から得ている親切にされた行為よりも大きな親切にされた行為を我々、人は、どこから発見する事を期待できますか?」

「父と母は子(の肉体)を無から生み出してくれて、これらの全ての美しい光景を見る力をもたらしてくれています」

「そして、神々が人にもたらしてくれている、これらの全ての天からの恵み、諸物に(父と母と)共にあずかれる事は、我々、人から見ると価格をつけられないほど貴重なので、我々、人は一人残らず、全ての天からの恵み、諸物から離れる事を考えると身震いするほどなのである」

「そのため、諸国家は(殺人といった)最大の重罪への罰を死刑としてきている」

「なぜなら、殺人といった悪行は、死への恐怖によって悪行に留まらせないようにするべきである最大の重罪だからである」

「さて、『人は肉体の快楽だけのために子作りする(、性交する)』と思うなかれ」

「仮に、これ(、肉体の快楽だけ)が(性交の)動機であれば、(娼婦が客を待って立っている)路上や娼館には、この(肉体の快楽の)奴隷を(一時的に、)やめる手段(である娼婦)で満ちあふれている」

「一方、最も立派な子を夫に生んでくれる(立派な貞淑な)妻を探し出すのに労苦する事は最も明らかなのである」

「最も立派な子を夫に生んでくれる(立派な貞淑な)女性と、我々、(正しい)男性は結婚して、人生を営む(べきな)のである」

「男性には果たすべき二重の義務が有る」

「男性の果たすべき二重の義務のうち一方は、自分と共に子を育て上げる妻を大事にする事である」

「そして、男性の果たすべき二重の義務のうち他方は、未だ生まれていない子の幸福に貢献するであろうと自分が考える諸々のものを、可能な限り大量に蓄えて、未だ生まれていない子にもたらせる事ができるようにしておく事である」

「妊娠している女性は、苦痛と共に(子という)貴重な重荷を負い、女性自身を養う栄養を胎内の子と分け合って命自体を危険にさらす」

「そして、女性は、生み終わるまで大いに労苦して、子を生むと、子を養って、思いやり深く子の世話をする」

「(母が子を思いやり深く世話するのは、)事前に何か良いものを受け取った事に対する返礼ではない」

「なぜなら、実際、幼児自体は恩人(である母)に、ほとんど気づいておらず、(幼児)自身の欲求を(他人に)伝える事すらできない」

「母だけが、幼児にとって良いものは何か推測して、また、幼児を満足させる事ができそうなものは何か推測して、幼児を満足させる事を試みる」

「そうして、母としての全ての労苦の代価として、どんな報いを受け取れるか意に介さず、何か月間も、昼も夜も労苦して、母は子を養うのである」

「また、両親の気づかいや思いやりは養育だけではない」

「実に、子が学ぶべき年であるように思われると、人生の指針として、両親は自らが所有している抜け目無いものは何でも子に教えるし、また、両親は『自身よりも有能である』と感じる人がいると、両親のお金で、その人の所に教えてもらえるように子を行かせる」

「このように、両親は子が可能な限り善人へ成長できるように全力を尽くして子を世話する」

 (次のように、若者ランプロクレスは答えた。)

「それなら仕方ありませんが」

「しかし、たとえ母クサンティッペが、その全てを(おこな)ったとしても、また、その二十倍の事を(おこな)ったとしても、地上には母クサンティッペの()()がった気性を忍耐できる人はいません」

 すると、次のように、ソクラテスは話した。

「あなたランプロクレスは、野獣の粗野と、母の粗野のうち、どちらが、より、耐え難い、と思いますか?」

 次のようにランプロクレスは話した。

「私ランプロクレスが思うに、野獣の粗野よりも母の粗野は耐え難いと思います。少なくとも、その母が私ランプロクレスの母クサンティッペのようであれば」

 次のようにソクラテスは話した。

「やれやれ!」

「では、このランプロクレスの母クサンティッペは今まで、あなたランプロクレスに対して、人々が頻繁に獣から噛まれたり蹴られたりして受けるような怪我をさせた事が有りますか?」

 次のようにランプロクレスは話した。

「母クサンティッペが、そのような事を全くしていなくても、誰もが聞くよりも、速やかに死にたく成る言葉を使います」

 次のようにソクラテスは話した。

「では、あなたランプロクレスは、幼児であった時から、昼も夜も、言葉と行動による短気さで、どれほどの迷惑を母クサンティッペにかけてきた、と思いますか?」

「あなたランプロクレスが病気であった時、どれほどの悲しみと苦しみを母クサンティッペにもたらした、と思いますか?」

 次のようにランプロクレスは話した。

「ええと、私ランプロクレスは母クサンティッペが(恥であるとして)赤面するような言動を決して何もしていません」

 次のようにソクラテスは話した。

「いや、やれやれ!」

「悪口のはけ口が開かれる時、役者が悲劇の舞台上の役者の(悪口の)話を聞くよりも、あなたランプロクレスが母クサンティッペの話を聞くのは、より難しい、と思うのですか?」

 次のようにランプロクレスは話した。

「ええ」

「なぜなら、簡単な理由からなのです。芝居として(悪口は)全て話されていると役者は知っているからです」

「尋問者には反対尋問して良いし、それで、尋問者は罰金を課したりしません」

「脅迫者は脅迫を浴びせるかもしれないが、怪我をさせるつもりはありません」

「このように、役者は全て(の悪口を)、とても気楽に受け取るのです」

 次のようにソクラテスは話した。

「では、『他の全ての人達よりも、母クサンティッペは、神の加護が、あなたランプロクレスに降りるように本当に願っているほど、あなたを傷つけるつもりは決して無い』と十分に良く知っている、あなたは、母クサンティッペが何を言うとしても、突然、怒るべきですか?」

「それとも、『母クサンティッペは実際は、あなたランプロクレスに悪意を抱いている』と、あなたは思い込んでいるのですか?」

 次のようにランプロクレスは話した。

「いいえ。そんな事は思ってもいません」

 次のようにソクラテスは話した。

「そうです。母クサンティッペは、あなたランプロクレスへの思いやりを抱いているし、あなたが病気に成ると、再び健康に成るように思いやり深く世話をするし、あなたが何の助けも必要としないように世話してくれます」

「そして、何よりも、母クサンティッペは、あなたランプロクレスのために、常に神の加護を懇願して、誓いを立てて天の神に捧げている」

「『母クサンティッペは()()がっていて無慈悲である』と、あなたランプロクレスは言う事ができるのですか?」

「私ソクラテスの考えでは、もし、あなたランプロクレスが、そのような母クサンティッペから離れる事ができないのだとしたら、そのような母による神の加護からも離れる事はできないのです」

 (次のように彼ソクラテスは話を続けました。)

「ところで、教えてください。あなたランプロクレスは、『生きている人の誰かに仕える義務を負う』と思いますか?」

「それとも、あなたランプロクレスは独立する覚悟が有りますか?」

「あなたランプロクレスは、独立している人として喜びを求めない覚悟が有りますか? それとも、喜びを求めようと試みる覚悟が有りますか?」

「あなたランプロクレスは誰にも従わない覚悟が有りますか?」

「あなたランプロクレスは、どのような将軍にも統治者にも従わない覚悟が有りますか?」

「このような物が、あなたランプロクレスの態度でしょうか?」

「それとも、あなたランプロクレスは、誰かに忠誠を誓う、と認めますか?」

 次のようにランプロクレスは話した。

「ええ」

「確かに、私ランプロクレスは(誰かに)忠誠を誓う事に成ります」

 次のようにソクラテスは話した。

「あなたランプロクレスが困っていたら、あなたのために、隣人が火を起こしてくれるように、幸運である隣人が助けてくれる覚悟を示してくれるように、あなたが不運な目に遭って、つまずいたら、隣人が助けるために味方して親切な態度を取ってくれるように、いずれにしても、あなたランプロクレスには隣人を喜ばせるつもりは有る、と私ソクラテスは理解してもよろしいですか?」

 次のようにランプロクレスは話した。

「はい。私ランプロクレスには、そのつもりが有ります」

 次のようにソクラテスは話した。

「ええと、では、他の偶然の道連れ、あなたランプロクレスの陸上や海上の船上の道連れは、どうでしょうか?」

「他の誰かは、どうでしょうか? あなたランプロクレスは気づけますか?」

「隣人が友人であるか否かは、どうでも良いですか?」

「または、あなたランプロクレスは『労苦してでも隣人からの親切は確保する価値が有る』と認めますか?」

 次のようにランプロクレスは話した。

「はい。認めます」

 次のようにソクラテスは話した。

「それでは、次のように成ります」

「あなたランプロクレスは色々な(知人である)隣人や見知らぬ人には注意を払う覚悟が有りますが、他の全ての人よりも愛してくれている母クサンティッペには、あなたは仕えたり忠誠を誓ったりして報いる義務は無いというのですか?」

「次の事をあなたランプロクレスは知らないのですか?」

「国家自体は(両親に対する恩知らず以外の)普通の恩知らずには関わらないし、判決文を下す事はありませんが」

「国家は(両親に対する恩知らずといった)親切な待遇へ報いる事を怠る者どもの恩知らずを見過ごしますか? 国家は(両親に対する恩知らずといった)特別な場合、(両親に対する)恩知らずに対する刑罰を差し控えますか?」

「もし人が両親に仕えたり忠誠を誓ったりして報いないと、(両親に対する)恩知らずは法に触れる羽目に成ります」

「(両親に対する)恩知らずの名前は(『執政官』の候補の)名簿から削除されてしまいます」

「(両親に対する)恩知らずは『執政官』の職に就く事を禁止されます」

「次のように言われています」

「そのような(両親に対する)恩知らずな人が国家のために捧げた捧げものは、不信心によって汚染されていて、神への捧げものと成らない。また、何にせよ、(両親に対する)恩知らずが(おこな)った事は(神の目から見ても)『正しい』事には成らないのである」

「(両親に対する恩知らずが統治者に成ってしまったら、神を怒らせてしまい、天罰で、)我々は酷い目に遭ってしまう!」

「もし、ある人が死んだ両親の墓を飾る事を怠って、国家が、その(両親に対する)恩知らずによる問題を認識したら、執政官は(両親に対する)恩知らずを尋問します」

「では、あなたランプロクレスは、どうかと言うと、我が子ランプロクレスよ、もし、あなたが落ち着いていて良識が有れば、まさに、あなたを『(両親に対して)恩知らずな人である』と神々が思わないように、そして、『神々のほうからも、あなたに善い事をする事をしないようにしよう』と神々が思わないように、本気で母クサンティッペに懇願するであろう」

「また、人々が『あなたランプロクレスは両親を軽んじている』と気づいて、全員一致して、あなたを侮辱しないように、あなたは人々にも注意を払うであろう」

「そうしないと、あなたランプロクレスは友人もおらず砂漠の中にいるかのように感じる羽目に成ってしまう」

「なぜなら、『両親に対して恩知らずな人である』と、もし一度でも思われたら、『(両親に対して恩知らずな、)あなたランプロクレスに、どんな親切を示しても無駄に成るだけである』と思われてしまうからである」

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