第二巻 第三章 (兄弟は大事)(してもらいたい事は先にしてあげるべき)(友人の獲得方法)
第二巻 第三章 (兄弟は大事)(してもらいたい事は先にしてあげるべき)(友人の獲得方法)
別の、ある時、ソクラテスが両方共に良く知っている、カイレフォンとカイレクラテスという名前の二人の兄弟が仲違いしている事に、ソクラテスは気づいた。
そのため、二人の兄弟のうち弟カイレクラテスを見かけるとすぐに、次のようにソクラテスは話した。
「教えてください、カイレクラテスよ、あなたカイレクラテスは『財産は、兄弟よりも、良いし貴重である』と思っている変人の一人ではない、と私ソクラテスは思っています」
「また、『財産は守る必要が有る、意識が無い物に過ぎないが、兄弟は財産をもたらす事ができる、気配りできる意識が有る存在である』とも私ソクラテスは思っています」
「また、さらに、兄弟は兄弟しかいないが、財産と同様な物は多数、有る」
「また、次のような事は驚くべき事である」
「ある人が、兄弟の財産は自分の物ではないので兄弟(の存在)は損であると見なしたら(、驚くべき事である)」
「しかも、そういう人は、仲間の都市国家の市民の財産は自分の物ではないが、仲間の都市国家の市民(の存在)は損であると見なさないのである」
「都市国家の市民の場合、そういう人は、都市の全ての財産を所有して孤立して危険に暮らすよりも、大衆と共に安全に暮らして十分なだけの財産を所有するほうが良い、と理解する知力だけは有るように思われる」
「しかし、そういう人々が無視している兄弟にも、この同じ考えを同様に適用できるのである」
「また、ある人が仕事の助手が(、労働力だけが)欲しかったら、もし財産が有れば、召使いとしての奴隷を購入するだろう」
「また、ある人が支援を必要としたら、友人を獲得するだろう」
「しかし、誰が兄弟を大事にするだろうか? いいえ! 誰も兄弟を大事にしないのである!」
「友人は、(都市国家の)一般市民の中には見つかるかもしれないが、兄弟といった血縁者の中には見つからないかもしれない、と(、そういう人々には)思われてしまっている」
「しかし、同じ(母の)股から生まれた事と、同じ乳房から母乳を吸った事は、友愛への大いなる有利と成るのである」
「なぜなら、一緒に育てられた生物の間には、獣の間にすら、多少の自然な愛情、好意が生まれるのである」
(「なぜなら、乳兄弟の間には、獣の間にすら、乳兄弟は思いやりを表すのである」※別の版)
「さらに、兄弟がいない人よりも多く、兄弟がいる人は他の人々から敬意を集めるのである」
「また、兄弟がいない人は独りで戦う必要が有ります」
(次のようにカイレクラテスは話した。)
「私カイレクラテスは、あえて言いますが、ソクラテスよ、『(兄弟の)仲違いが深くない場合は、願わくば、人は自分の兄弟を我慢するべきであるし、多少の些細な事のためだけで兄弟を避けるべきではない』と論理的に考えます」
「なぜなら、あなたソクラテスが言うように、善い兄弟は、ありがたい者だからである」
「しかし、もし、まさに、兄弟が善とは正反対(の悪)であるならば、どうして人は(悪い兄弟と仲良くするという)不可能な事を遂行しようと着手するべきでしょうか? いいえ!」
次のようにソクラテスは話した。
「では、私ソクラテスに教えてください」
「あなたの兄カイレフォンは、あなたカイレクラテスを喜ばせる事ができないのと同様に、兄カイレフォンは誰も喜ばせる事ができないのでしょうか?」
「また、ある人々は、あなたの兄カイレフォンを『十分に好感が持てる人である』と思うのでは?」
次のようにカイレクラテスは話した。
「いいえ(。兄カイレフォンは、私カイレクラテス以外の誰かを喜ばせる事ができます)」
「そこで、あなたソクラテスは思い当たってください」
「まさに、そのため、私カイレクラテスには兄カイレフォンを嫌う権利が有るのです」
「兄カイレフォンは他人を十分に喜ばせる事ができるのに、私カイレクラテスには、兄カイレフォンは、いつ現われても、役に立ってくれないのです。全く役に立ってくれないのです!」
「実に、全ての手段によって、(兄カイレフォンは)正反対(の役立たず)なのです」
次のようにソクラテスは話した。
「まさに、馬を操縦しようとする人が未熟な騎手では馬は何の得にも成らないように、とても同じように、もし人が兄弟を扱おうとしても、無知な無作法な方法では、その兄弟は反抗する事が起こらないでしょうか?」
次のようにカイレクラテスは話した。
「では、そう成っているというのですか?」
「私カイレクラテスは、思いやり深い言葉や善行には思いやり深く報いる方法を知っているのに、どうして兄弟を扱う方法について無知な事が有り得るでしょうか? いいえ!」
「しかし、全力で言動で私を苦悩させる兄カイレフォンには、私カイレクラテスは感謝する事も利益をもたらす事もできないし、また、さらに、(仲良くしようと)努力するつもりも有りません」
次のようにソクラテスは話した。
「さて、それは驚くべき発言です、カイレクラテスよ」
「あなたカイレクラテスが所有している犬は、あなたが所有する羊の群れの、役に立つ守護者、役に立つ牧羊犬で、あなたに仕える羊飼いの手に甘えて舐めますが、あなたカイレクラテスが近づくと、怒って唸って牙を見せる事しかしません」
「さて、」
「あなたカイレクラテスは、犬の怒りに気づきもしないし、犬を優しくなだめようと試みません」
「では、(あなたカイレクラテスは、)兄カイレフォンに対しては、どうでしょうか?」
「もし、あなたの兄カイレフォンがあるべき(理想の善い兄の)状態であったならば、兄カイレフォンは、あなたカイレクラテスにとって大いに役に立ったであろう」
「このように、あなたカイレクラテスは認めていますよね」
「そして、さらに、あなたカイレクラテスが認めているように、あなたは思いやり深い言動をするための秘訣を知っています」
「しかし、あなたカイレクラテスは、兄カイレフォンを最高の友人にするための諸手段を応用する努力をするつもりが無いのです」
次のようにカイレクラテスは話した。
「残念ながら、ソクラテスよ、兄カイレフォンを、あるべき(理想の善い兄の)状態であるように、私に友好的にするための知恵や機転が私カイレクラテスには無いのです」
次のようにソクラテスは話した。
「難解な趣向や変わった趣向を応用する必要は無いのです」
「あなたが最も良く知っている方法という餌をあなたという釣り針につけるだけで、あなたカイレクラテスは、兄カイレフォンを獲得する事ができるのです」
「その結果、あなたの兄カイレフォンは、あなたカイレクラテスの忠実な友人に成るはずです」
次のようにカイレクラテスは話した。
「『私カイレクラテスが何らかの愛情を引き寄せる魔法を知っている』、『愛情を引き寄せる魔法によって私は幸せに成れるが、愛情を引き寄せる魔法の所有者である事を自分では知らない』と、もし、あなたソクラテスが気づいているのであれば、ソクラテスよ、どうか、急いで私に教えてください」
次のようにソクラテスは話した。
「では、私ソクラテスの質問に答えてください」
「もし、あなたカイレクラテスが、ある知人が次の祭日を守る時に夕食に招待されたいのであれば、どのような手段を取りますか?」
次のようにカイレクラテスは話した。
「疑い無く、私カイレクラテスは、その知人を同様の祭日に私自身の夕食に招待して、その知人に良い前例を示すでしょう」
次のようにソクラテスは話した。
「では、あなたカイレクラテスは、あなたが外国にいて不在の間、ある友人に、あなたが所有しているものの世話をする気にさせたい場合、どのように、あなたは目的を達成しますか?」
次のようにカイレクラテスは話した。
「疑い無く、私カイレクラテスは、同じ状況で、その友人が所有しているものの世話をする事を約束して、(約束を履行して)前例を示すでしょう」
次のようにソクラテスは話した。
「では、ある外国の友人に、その友人の国を訪れた時に、その友人の家に招待されたいと望むのであれば、あなたカイレクラテスは、どのようにしますか?」
次のようにカイレクラテスは話した。
「疑い無く、私カイレクラテスは、その外国の友人の愛情を得て、さらに、その友人の国を私が訪れた時の目的を達成するために、その外国の友人が私の都市(国家)アテナイに来た時に、私の家を先に提供するでしょう」
「同様の場合に相手のために同様の事をする自分の気持ちを先に示すべきであるのは、明らかです」
次のようにソクラテスは話した。
「それならば、『あなたカイレクラテスは、結局、人が知っている媚薬的な物事についての達人である』と思われます」
「あなたカイレクラテスは、いつも、知恵を隠す事を選んでしまっているだけなのです」
「それとも、あなたカイレクラテスは、『思いやり深く、あなたから兄カイレフォンに歩み寄る』事を恥辱として、最初の一歩を踏み出す事から、しり込みしてしまっているのですか?」
「しかし、損害をもたらす事において敵を追い越す事や、思いやりにおいて友人を追い越す事は、普通、『人からの称賛をもたらす』と評価されているのです」
「さて、もし、『兄カイレフォンのほうが、より、兄弟の友情への道へ導くのにふさわしい』と私ソクラテスに思われたのであれば、あなたカイレクラテスの愛情を勝ち取るための最初の一歩を踏み出すように兄カイレフォンの説得を私ソクラテスは試みたであろう」
「しかし、今では、『兄弟の友情への第一歩は、あなたカイレクラテスの物であるし、最終的に兄カイレフォンの愛情を勝ち取るのは、あなたカイレクラテスの物である』と私ソクラテスは説得されています」
次のようにカイレクラテスは話した。
「ソクラテスよ、あなたソクラテスの口から出た言葉は、驚くべき知らせです」
「また、年長者である兄カイレフォンよりも先行する事を年少者である弟である私カイレクラテスに勧めるのは、最も、あなたソクラテスらしくないです」
「それでは、『話す者としても、行う者としても、全ての物事において、年長者が先行して先導するべきである』と思考する、人の普遍の慣習に反してしまいます」
次のようにソクラテスは話した。
「どうして、そう思ってしまうのですか?」
「年少者が、道で年長者に遭遇した時に、年長者に場所を譲るために、(先行して)道の脇に避けるのは、全ての場所で、(普遍的に、)慣習ではありませんか?」
「年少者は、席から立ち上がって席を年長者に譲る事を求められていませんか?」
「年少者は、柔らかい寝椅子を譲って年長者に敬意を払う事を求められていませんか?」
「議論の際に、年少者は、先んじて年長者に譲る事を求められていませんか?」
「私ソクラテスの善い仲間であるカイレクラテスよ、ためらうなかれ。なだめるように手を差し伸べれば、尊敬に値する人である兄カイレフォンは、すぐに速やかに、応じてくれるのをあなたは見るでしょう」
(「私ソクラテスの善い仲間であるカイレクラテスよ、恐れを抱くなかれ。なだめるように扱おうと試みれば、尊敬に値する人である兄カイレフォンは、すぐに速やかに、応じてくれるのをあなたは見るでしょう」※別の版)
「『兄カイレフォンの性格は、誇り高く、率直で、(真の)名誉に敏感である』と、あなたカイレクラテスは気づいていないのですか?」
「兄カイレフォンは、賄賂で虜にできるような劣悪な御粗末な悪人ではない」
「賄賂は、賄賂で虜にできるような人間の屑には、実に、最良の手段ではあるが」
「兄カイレフォンは、全く悪人ではない!」
「思いやり深い上品な性格の人達には、より思いやり深い上品な扱いが必要と成るのである」
「思いやり深い性格の人達には、思いやり深い行いをする事で、最善(の結果)を望む事ができるのです」
次のようにカイレクラテスは話した。
「しかし、もし私カイレクラテスが、そうしても、もし全力を尽くして試行錯誤しても、兄カイレフォンが改善した態度を見せなかったら?」
次のようにソクラテスは話した。
「最悪の場合でも、あなたカイレクラテスは善良で、誠実で、兄弟らしい思いやり深い人であると示す事ができるであろうし、兄カイレフォンは思いやっても無駄な御粗末な奴であると示す事に成るであろう」
「しかし、私ソクラテスの推測では、そのような事には成らないだろう」
「『兄カイレフォンは、あなたカイレクラテスの(仲良く成ろうという)試行錯誤に気がつくとすぐに、あなたの(仲良く成ろうという)挑戦を喜んで受け入れるであろう』と私ソクラテスは確信しています」
「負けたくないという誇りに刺激されて、兄カイレフォンは、思いやり深い言動において、あなたカイレクラテスよりも善良な人に成ろうと望むであろう」
「今は、あなた達、二人は、神によって形成された相互に助け合う両手のような状態ですが、兄弟としての務めを放棄してしまってきていたし、兄弟として可能な全ての物事を相互に妨害し合う事に手を染めてしまってきていた」
「あなた達は、相互に働きかけ合うように神の計画によって形成された一対の両足ですが、相互の足並みを妨害し合うために、この神の計画を放棄してしまってきていた」
「さて、利益と成るように意図されたものを損害として用いてしまう事は、無分別な愚行ではありませんか?」
「私ソクラテスが考えるに、兄弟の二人を形成する際に、神は、両手よりも、両足よりも、両目よりも、生まれた時から人の(肉体の)一部である一対の全ての器官よりも、兄弟が相互に助けと成る事を意図した」
「人の(肉体の)両手に、腕を伸ばした長さよりも遠くに離れた二つの地点で力を結合するように求めても何と無力であるか、考えてください」
「また、人の(肉体の)両足は、たった腕を伸ばした長ささえも離して広げる事ができないのである」
「また、人の(肉体の)両目は、人が全ての広範囲を見るように求めても、より近い場所のものでさえも、ものの前後を同時に見る事ができないのである」
「しかし、友好的な絆で結びついている、兄弟は、海を隔てていても、相互に役に立つように働く事ができるのである」




