8
少し前に別れたあかねがいたので近づいてみる。
石英の欠片を眼前にかざし辺りを見回していたが、こちらを見たところで動きを止めた。口を大きく開けている。
「若様、どうやらあの娘には見えている様子。急ぎここを離れましょう」
ふたきに急かされ山へと戻る。少し驚いた。
「我らの姿を見るなんて、珍しいですね」
「うむ、神官の他に見つかったのは初めてじゃな」
あかねの様子を見に戻ったふたきを待つ間にはちやと言葉をかわす。
「初めてですか?そうか、若様はほとんど御山にいらっしゃいますからね」
「たまには外にも行くぞ?今度は父様と母様と一緒に出雲に行くのじゃ!」
「あぁ、神議りですね。今年のお供はいつきでしたか、我が子ながら心配です」
話しているうちにふたきが戻って来た。はちやの上に飛び乗って三方で上へと戻る。
「我らの姿は見られていたようですが、まぁ大丈夫でしょう」
さて、境内に戻ってみると嬉しいことに未だ祖父が居てくれた。
「じじ様!さっき下でな、坊たちが見えるようにしていないのにあかねが見てて驚いた。神官でなくとも見えるんじゃな?」
社の縁に腰掛けている膝に飛び乗る。
「ん?見鬼でもおったか。そうじゃぞ、世の中にはいろんな人間がおるからな」
頭を撫でる祖父の手を取ってみる。つるつるだ。
「何でじじ様が人に化けているときは鱗がないんじゃ?」
「じじはな、本性がちいっと人を怖がらせるんじゃ。だからなるたけ人と同じようにしとるんじゃよ」
そう言って少し寂しそうに笑う祖父。怖がらせる?
「ばば様か?さっき下で昔話を読んでた。じじ様はばば様に正体知られて叩かれてた」
「そういやそんな事もあったのう」
「人間は何で怖がるんじゃろ?坊は蛇のじじ様も好きじゃ。鱗が並ぶ様は綺麗じゃし、角は格好が良いし、大きくなったら坊にも生えぬかのう?」
「そうか、そうか」
社から丁度父が出てきたので祖父の膝から地面に降りて、入り口の踏石で履いていた下駄を脱ぎ捨てる。
「こら、ちゃんと揃えなさい」
「はぁい」
下駄を揃えてようやく父に手を伸ばす。いつもの腕の中に収まって、袖から覗く鱗を撫でてみた。
「父様は人の格好でも鱗じゃな?」
「父は人に化けるのが下手なんだ」
「ふぅん……ふや……」
あくびが一つ。
「祭りの本番は明日だからね、もう寝なさい」
「……うん」