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翌朝、善博と博恵の二人は境内へ入った所で立ち尽くしていた。ふふん、驚いているようだな。
「善博、博恵、お早う。どうじゃ、これで掃除が一度に片付くじゃろう!?」
実は二人が来る前に木に葉を全て落としてもらったのだ。
ところが、てっきり喜ぶと思ったのだが様子がおかしい。
「博恵」
善博が硬い声で隣を呼んだ。
「これはお前が若神様に願ったのか?」
「なっ、違うぞ!これは坊が勝手にやった事じゃ」
博恵が怒られそうになり、勘違いを正すとこちらに顔を向ける善博。
責めるような目で見られ、せっかく手伝ってやったのにと悔しさが募り、背を向け社へ飛び込んだ。
中に居た父に強く抱きつく。
「父様、坊は何か悪い事をやったかしらん?」
鱗の揃った手で頭を撫でられ眼を細める。真珠色で綺麗な鱗、早く坊にも生えたら良いのに。
「姫が怒っておったよ」
少し困った顔で父は言う。
「は、母様が?」
「木々に無理をさせたと言っていたな」
その後、草木に我儘を願った事を母に怒られて、やっとの事で社から出ると善博と博恵の二人が落ち葉を掃き集めているところだった。空を見上げると真上にはお日様が、何時もなら弁当を食べている時間なのに……
「昼は食べぬのか?」
「ここを片付けてから食べますよ」
博恵がこちらを見もせずにそう言った。
そうか、一度に落としたからいつもより時間がかかるのか。今日やるべき事もあっただろうに余計に手間をかけさせただけだった。
ざかざかと、二人は腕を休ませずに今までよりも大きな木の葉山を作っていく。 それを少し寂しそうに見つめる木々に気付いた。本来ならもっと長く一緒におられたのだものな。
近くにある荒樫の幹に手を添える。
すまぬな、無理を言った。仕事が早く済んだら遊んでくれるかと思ったのだ。坊が勝手だった。
「って!」
博恵が声をあげ、かつん、と音がした。
「あたっ!?」
かつ、こつん。
「待て、待つのじゃ!よせというに!!」
坊の兄、姉等を自負している山の木が、一斉に博恵へ向けて木の実を落としたのだ。
慌てて止めたもののせっかく掃除した地面がまた埋もれてしまった。