第95話 エピローグ① ~二人で星空を~
「りっくん、明日どうしよっか?」
「うーん、主役のさやっちが喜ぶようなのだろ?」
「だよねー。サーヤが喜びそうなものって何だろ。猫?」
「ってことは猫カフェか? でも打ち上げが猫カフェってのもな。まあ普通に楽しめそうではあるけどなんか違うよな」
「だよねー」
陸翔と蕾華は明日の打ち上げ兼入部歓迎会について話し合いながら道を歩いている。
せっかく桜彩と仲良くなれたのだ。
ここで一気に距離を詰めてやる、と蕾華は意気込んでいる。
その為にも明日の歓迎会は絶好のチャンスであり、絶対に外すことは出来ない。
「後は何だ? さやっちの好きそうなモンってーと……」
「サーヤの好きな……」
そこで二人の頭に一つ思い浮かんだものがある。
顔を合わせて二人揃ってその言葉を口にする。
「怜かなー?」
「れーくんかなー?」
「まあ好きなのは間違いないけどな」
「だよねー」
疑問にするまでもないだろう。
自分達の見たところ、明らかに桜彩は怜のことが好きだ。
まあ『好き』と一言で言っても、桜彩本人が自覚している『好き』と自覚していない『好き』の二つがあることも疑問にするまでもない。
後者に関しては本人達は気が付いていないようだが、陸翔と蕾華からしてみればバレバレである。
「でも怜って言ってもなあ……」
「うん。れーくんを箱に詰めて、『はい、サーヤの歓迎プレゼントだよ』ってれーくんをプレゼントするってのも違うしね」
「さやっちに内緒で怜に手料理でも作ってもらうか?」
「うーん、それもそれでなあ。いや、喜んではくれそうだけど。それにそれじゃあアタシ達なにもしてないし」
あーでもないこーでもないと歩きながら話していると、目的地へと到着する。
「とりあえず甘い物でも食べて脳に栄養を補給しよっか。そうすれば良いアイディアの一つくらい思い浮かぶかもしれないし」
「そうだな。とりあえず食べるか」
目的地の店の前で立ち止まり、いったん話をやめてドアをくぐる。
アンティークベルの心地良い音が耳に届き、行き詰っていた頭をリセットしてくれる気がしてくる。
「いらっしゃいませー。ってあら、久しぶりね。怜君と待ち合わせ?」
目的地であるリュミエールへと入ってきた陸翔と蕾華に店員の望がそう問いかけてくる。
蕾華の姉の瑠華が望と友人であり、蕾華も陸翔もこの店はもう常連のように訪れているので望ともすでに顔見知りだ。
そんな望の言葉におもわず真顔になって二人で顔を見合わせる。
「…………」
「…………」
「あら? 違った?」
二人の反応が思っていたのと違ったため、望が首を傾げて問いかける。
陸翔と蕾華は単に話し合いの場(という口実によるデート)として訪れただけなのだが、望の言葉にイートインスペースへと無言で視線を走らせればそこには怜と桜彩が楽しそうにケーキを食べながら談笑している姿があった。
一方で怜と桜彩は話に夢中で陸翔と蕾華の来店には全く気が付いていない。
「いや、待ち合わせじゃないんですけど」
「え? そうなの?」
「はい。でもそっか。れーくんとサーヤ、二人で……」
長く親友として付き合ってきた怜が楽しそうに談笑している。
その笑顔は間違いなく心からの笑顔。
怜本人が本当に仲の良い相手にしか見せない、心から笑っている顔だった。
それを見て二人は表情を緩ませる。
「そっかそっか。二人共楽しそうだね」
「ああ。さすがに割って入れねえな」
「だよね。まあれーくんとサーヤなら邪見にはしないだろうけど、さすがにお邪魔だよね」
「馬に蹴られたくもないし、ここは素直に退散しとくか」
ここで二人が怜と桜彩に声を掛けたとしても、二人は受け入れてくれるだろう。
しかし、もちろんそんな無粋なことなど断じてしない。
「言葉で定義出来ない自分達だけの関係か。怜やさやっちにとって、今のところはそうかもしれないけどオレ達にとっては違うよな」
「うん。れーくんもサーヤもアタシ達にとっては親友って言葉で定義出来るよね」
幸せそうに話す『親友二人』を暖かな目で見守る。
あの二人と過ごすのは明日以降の楽しみとしておこう。
ついでに思う存分からかってやっても良いかもしれない。
普段怜にバカップル呼ばわりされているのだから、明日以降に意趣返ししてやろう。
そう考えて顔を望の方へと戻す。
「それじゃあすみませんけど、アタシ達は出直してきますね」
「はいはーい。なんとなくしか分からないけど、分かったわー」
このまま二人の姿を眺めていたいがそれではいずれ気が付かれてしまうだろう。
今のこの雰囲気を邪魔することなど絶対に出来ない。
そう思って二人は当初の予定を取りやめてリュミエールから出て行く。
最後にちらっと店内を見て、相変わらず仲良く話す親友二人の姿を焼きつけながら。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「すっかり遅くなっちゃったね」
「こういう時に一人暮らしだと便利だよな」
リュミエールで楽しい時間を過ごした怜と桜彩。
二人で話している時間はとても楽しく、つい時間を忘れて話し込んでしまった。
お冷のおかわりを持ってきてくれた望が
『二人共仲良いわね。でももう外も暗くなってきてるけど大丈夫?』
と心配して声を掛けてくれたおかげで、二人はようやく時間を忘れていることに気が付いた。
そのまま慌てて店を飛び出す二人に望がニヤニヤとしながら
『それじゃあお二人さん。仲が良いのは構わないんだけど、もう少し周りを見た方が良いわよ~っ』
とからかいの言葉を投げかけてきた為に、二人揃って顔を赤くしてしまった。
「うぅ……恥ずかしかったよぅ……」
「か、完全に忘れてたよな……」
「う、うん……」
「でも、とっても楽しかったな」
「うん。私も本当に楽しかったよ」
「……それじゃあそろそろ帰るか」
「……うん。帰ろっか」
そう言ってアパートへと足を向け――向けようとするが、まだ桜彩と離れたくない。
この楽しい時間がいつまでも続けば良い。
「……桜彩。後一箇所寄り道しても良いか?」
「寄り道?」
怜の言葉に桜彩が不思議そうな顔をして問い返す。
「ああ。そんなに時間はとらせないと思うから」
「うん。あ、別に時間が掛かっても構わないよ」
「ありがと。まあ近場だから」
「うん。どこに行くの?」
「まあ行けば分かるさ。期待されても困るけど」
そう言って苦笑する怜につられて桜彩もクスッと笑みをこぼす。
「それじゃあ行こう。エスコートよろしくね」
「ああ。それじゃあ付いて来てくれ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…………ここ?」
「ああ」
訪れたのは近所の高台。
まだゴールデンウィークの夜風は少しばかり冷たく感じる。
直前に自動販売機で購入した温かい紅茶を桜彩へと差し出して、怜は上を、空を指差す。
「ほら」
「わあ……」
「雲も無いから星が良く見えるだろ?」
怜の指差す先、そこには星空が広がっていた。
夜空というスクリーンに散りばめられたいくつもの煌めき。
桜彩の目が釘付けになる。
星が降って来る、とは今この時の為にある表現なのかもしれない。
怜はふとそんなことを思う。
「凄い……綺麗……」
満天の星空。
その光景を見た桜彩の口から無意識の内に言葉が漏れる。
「これを見せたかったんだね」
「ああ。昔、一時期天文にはまってたことがあって、ここで良く星空を見てたんだ」
「そうなんだ。あ、あれって天の川?」
桜彩の指差した先、地平線の少し上に、夜空を横切るように存在する雲状の光の帯が掛かっている。
「そう。実は七夕以外の季節でも見れるんだよな」
「そうなんだ。七夕のイメージが強いから夏にしか見られないと思ってたよ」
「まあ確かにな。あんまり天文に興味ない人からすればそうだよな」
そのまま二人で紅茶を飲みながら夜空を見上げる。
「天の川と言えば織姫と彦星だよね」
「ああ。二人が出会ってから仕事をサボって遊んでばかり。神様が怒って二人を引き離して、心を入れ替えたら年に一度だけ、天の川を渡って二人を会わせてあげるって話だな」
「でもなんだか私達みたいだよね。私と怜が出会ってからずっと一緒に遊んるでしょ?」
その言葉にこれまでの二人の出来事を思い返す。
出会いから再会。
そしてすぐに仲良くなった。
そして楽しい思い出を積み重ねていった。
たった一か月弱で、もうお互いがかけがえのない相手となっている。
「そうかもな。でもさ、別に俺も桜彩も遊んでばかりってわけじゃないだろ? やることはちゃんとやってる。それこそ織姫と彦星だったら今日の紙芝居なんてほったらかして遊び続けてたんじゃないのか?」
神話では織姫は機織りの仕事をサボり、彦星も牛飼いの仕事をサボり皆に迷惑を掛けた。
しかし怜も桜彩も楽しさにかまけて周囲に迷惑を掛けることはしていない。
ちゃんと自分達に出来る事に取り組んだ。
「ふふっ、そうかもね。だったら私達が神様に怒られて引き離されることもなさそうだよね」
そう言ってクスッと笑う桜彩。
そして二人は一度夜空から視線を外してお互いに見つめ合う。
「ああ。ずっと一緒だな」
「うん。ずっと一緒だね」
エピローグは①~④で構成されています




