第42話 ハッピーバースデー、クールさん
買い物を終えて帰宅、そして夜は前日と同様にそれぞれの部屋へと泊まり翌日は日曜日。
積もる話もあるだろうということで、昨日に続いて朝食は桜彩抜きで作ることとした。
さすがに二日連続で手伝わないという事に桜彩は申し訳なさそうにしていたが、怜が『めったにこっちに来ることが出来ないんだから葉月さんとの時間を大切にしてくれ』と言ったところ納得してくれた。
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「へえ。今日のも美味しいわね」
「でしょ? 怜さんの作る物は何だって美味しいんだから」
怜を褒める葉月に桜彩がうんうんと頷く。
今日の朝食は葉月を交えて四人で食卓を囲んでいる。
パンにベーコンエッグとサラダ、コーンポタージュというメニューだが、桜彩も葉月も美味しいと言ってくれて安心する。
「ええそうね。ちゃんと美味しいわ」
美玖も普通に美味しいと言ってくれる。
ちなみにこの日の朝食は美玖も手伝った。
「うんうん。桜彩もこんなのを毎日食べているんなら体の方は心配しないで良さそうね」
「俺をそこまで信用するのもどうなんですか……」
「でも本当に助かっていますから。怜さんの料理はとても美味しいので、これまでも、そしてこれからも毎日食べることが出来て本当に幸せですよ」
嬉しそうな顔でそう言っていた桜彩だが、途端に何かに気付いたように慌てだす。
「あっ……その、これからもってそういう意味では……」
「毎日食べてるだろ?」
桜彩の言う意味が良く分からない怜が首を傾げる。
桜彩は顔を赤くして慌てながら
「あ、いえ、その、なんていうか……」
「つまり、これから一生料理を作ってくれっていう意味ね」
「良いじゃない。怜、これからもちゃんと作ってあげなさいよ」
「だ、だからそういう意味じゃないって言ってるのよ! み、美玖さんもからかわないで下さい!」
気が付いていなかったのに葉月が説明したせいで怜の顔も赤くなる。
慌てた桜彩が焦って怜の方に向き直って両手を目の前でバタバタと振る。
「れ、怜さん……! ご、誤解ですからね! 誤解です!」
「わ、分かってるって! 二人にからかわれてるだけだから!」
「あははははは! 本っ当にあんた達ってからかいがいがあるわねえ」
「そうねえ。怜も随分と変わったわ。ついこの前までこんなからかい方なんて出来なかったのに」
「も……もう~! 葉月!!」
「姉さん、うるさい」
半泣きになりながら姉を睨みつける桜彩と、それを意に介さずに笑い続ける葉月。
昨日からの様子を見るに、この姉妹は普段からこんな関係なのだろう。
なお美玖は怜の抗議をどこ吹く風といった感じで受け流している。
「でも怜が一生桜彩の食事を作ってくれるのなら私は心配無いんだけど」
「だからからかわないでって言ってるでしょ!」
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「ど、どうぞ……!」
緊張した様子で三人に昼食を進める桜彩。
せっかくの機会なので葉月に桜彩の腕前を見てもらおう、ということでカレーを作った。
桜彩が料理をする姿を間近で眺めていた葉月は妹の成長をニコニコとしながら見守っていた。
出来たカレーはレシピ通りに作られたことで、葉月曰く普通に美味しかった。
その感想がとても嬉しい。
その後はしばらく四人揃って怜の部屋で過ごす。
せっかくなんだから姉妹水入らずで過ごしたらと提案したのだが、それは寝る前に充分すぎるほど過ごしたので今日は改めて四人で過ごしたい、と言われたのでさすがに断れなかった。
葉月と美玖を含めた四人で先日怜が作ったプリン作りに挑戦したり、そのプリンを食べながら四人で話をしたりして過ごしていると、部屋の時計が十四時を少し過ぎた。
「今日の夕食は色々と試したいことがあるから俺と姉さんで作るよ」
「え、ですが……」
「まあまあ桜彩ちゃん、気にしないで。あたしが作りたいだけだから。ね、お願い」
「は、はい……」
怜と美玖の提案に桜彩は頷いて葉月と共に一度自室へと戻る。
怜と一緒に料理を作ることで早く上達したい気持ちはあるのだが、それはそれとして怜の作る料理そのものにも興味はある。
(怜さんの料理、いつも美味しいから楽しみ。今日は一体何を作ってくれるのかな?)
まだ見ぬ夕食に期待を膨らませながら桜彩は自室で過ごしていた。
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「ふう」
桜彩と葉月が部屋を出た後、怜と美玖は急いで買い物へと向かった。
そして買い物を終えて自室へと戻った怜が、購入した物を片付けてから一息つく。
予想外の買い物に少し疲れてしまったが、長く休んでいる暇はない。
夕食の時刻を考えるとそろそろ仕込みを始めた方が良いだろう。
「さて、それじゃあ怜、始めるわよ」
「オッケー」
「言っておくけど、今日のあたしはあくまでもあなたのサポートだからね。メインで作るのはあなたよ」
「分かってるって」
頷きつつエプロンを手に取る怜。
「でも、まさかなあ……」
昨日美玖に言われた予想外の内容を思い出す。
「美味しいって言ってくれればいいけど」
「大丈夫よ。それにあたしがサポートするんだから、大船に乗った気でいなさい」
「分かってるんだけどね」
少し不安になりながらも怜は料理を進めていった。
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怜に指定されたいつもの夕食よりも少し遅い時刻に桜彩と葉月は怜の部屋を訪れた。
「怜さん、お待たせしました」
「いや、時間ぴったりだから待ってないよ」
既にテーブルの上には料理が並んでいる。
鮭とキノコのマリネ、季節の野菜の入ったキッシュ、カボチャのポタージュ、魚介のパエリア、そして桜彩が最初に食べた怜の料理、肉巻き。
普段の夕食よりも格段に豪華なメニューに桜彩が驚く。
「す、凄いですね、これ……」
「ふふっ。怜とあたしが腕によりをかけて作ったの。どう? 驚いた?」
「は、はい……」
驚きつつも席に着く桜彩と含み笑いしている葉月。
「それじゃあ食べようか」
「あ、あの……怜さん、今日は一体どうしたんですか? いつもよりも、その、すごく豪華なメニューですけれど」
いつも通りに写真を撮りながらそう聞いてくる桜彩に怜はどう答えた物かと少し考える。
「ん、まあ俺が作りたかったから、でとりあえず納得してくれると嬉しい」
そう適当にごまかしておく。
どうせすぐにばれるのだが、とりあえずはそれでいい。
「そうそう。怜の言う通り細かいことは気にしないで食べましょう」
事情を知る美玖もそうフォローを入れてくれて、怜の言う通りひとまず桜彩は納得する。
「は、はい。それではいただきます」
「「「いただきます」」」
四人で早速料理に手を伸ばしていく。
「ん~っ、美味しいです!!」
料理を食べながら美味しそうに感想を言ってくれる桜彩を、怜は笑顔で見ていた。
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「とても美味しかったです。怜さん、美玖さん、ありがとうございました」
「そう言ってくれると俺も作った甲斐があったよ」
「まああたしは怜を手伝っただけだけどね」
いつもの通り、食後のお茶を淹れている怜に桜彩がお礼を告げると、怜もにっこりと笑顔を浮かべてそう言う。
(良かった。口に合ってくれて)
今日の料理は桜彩に喜んで欲しくて作った物だ。
この桜彩の笑顔が見れたのだから、怜としても頑張ったかいがあった。
そしてここからがこのメニューを作るに至ったネタばらし。
喜びながらお茶を用意してテーブルに置くと、そのまま椅子に座らずに冷蔵庫を開けて中から目当ての物を取り出す。
リュミエールで買ってきたイチゴのショートケーキが四つ。
桜彩から見えないキッチンの死角でそれぞれを皿に乗せて、その内の一つにナンバーキャンドルをセットして火を点ける。
「怜さん?」
座っている桜彩からは怜が何をしているのかは見えない。
その為、怜の方へと向かおうと席を立とうとしたが、それを怜がやんわりと制止する。
桜彩は何をしているのか気になっているようだが、この準備はあまり見せたくない。
「姉さん、お願い」
「ええ」
怜が美玖へと合図すると、それを受けて美玖は立ち上がり部屋の電気を消す。
「え? え?」
真っ暗とまではいかないものの、いきなり室内の明かりが消えて桜彩が戸惑う。
それを少しばかり申し訳なく思いながらも怜はキッチンでチャッカマンを使って火を点ける。
少しして準備を終えた怜が、それを持って桜彩の方へと向かう。
「え……? 怜さん……まさかそれって…………」
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怜の手に持たれた物を見て、驚いて声を漏らす桜彩。
ショートケーキにセットしたナンバーキャンドルは『1』と『7』。
さすがにこれが何を示しているのかは桜彩にも理解出来る。
「桜彩。誕生日おめでとう」
怜が笑顔で桜彩の前にショートケーキの皿を置く。
キャンドルの炎の向こうで笑いかける怜に対し、桜彩は、予想もしていなかった事態に固まってしまう。
「私の誕生日……どうして……」
あまりの事態にそれだけしか言えない。
「昨日姉さんから聞いたからさ。せっかくだからお祝いしようと思って」
『うん。予想通り知らなかったようね。今日は桜彩ちゃんの誕生日よ』
まだ驚いたまま声を出すことの出来ない桜彩を見て、怜が不安になっていく。
「あ……もしかして、嫌だったか?」
申し訳なさそうな怜。
しかし桜彩はゆっくりと首を横に振る。
「ううん……とっても嬉しい……。けど、ちょっと待って……」
桜彩の目から涙がにじみ出て来る。
「まさか、こんなに素敵なお祝いをしてもらえるなんて思ってなかったから……」
先日の不審者騒動の前までは、桜彩は他人を信じようとは思っていなかった。
怜や蕾華とは友人と呼べる関係になってはいたものの、それでもどこか壁を作って相手を信じていなかった。
だからこそ他人に誕生日を教える理由などなかったし、今年の誕生日は普通の一日として過ぎていくだけだと思っていた。
「本当に嬉しいです……最高のお誕生日になりました……」
そう言って目を拭いながら顔を上げる。
炎の向こうでは、怜が安心したように息を吐いていた。
そんな二人を姉達は何を言うでもなく微笑ましく見守っていた。




