正義の神の祝福
『姉々! ここが入口っぽい!』
ここの動力源が分かったところで、メア達も入口を見つけたらしい。皆でメア達の方に移動する。一見ただの壁にしか見えないけど、手で触れると、そこが他とは違うという事が何となく分かる。
「ソイル。仕組みは分かる?」
『ううん……分からない……』
「そっか。エアリー」
『私も分かりません』
「じゃあ、無理矢理突破しよう。アストライアーさん、頼めますか? あまり奥の方まで請わないようにという感じで」
「分かったわ」
アストライアーさんにお願いしたら、すぐに入口らしき壁を斬ってくれた。斬られた壁の向こうには、メアの言う通り部屋があった。その中央には、魔法陣が描かれている。すぐに壁や天井を確認してみるけど、そっちには魔法陣は描かれていない。
「あの神殿と同じじゃない……じゃあ、ここでは冥界の炎があっても意味はないって事かな……」
魔法陣の他には、大量の本が散乱している。一応、本棚に残っているのもあるけど、地面に落ちている方が多い。
「研究資料のようね。悪魔についての考察が書かれているけど、見当外れな事ばかりね」
「こいつらは大体見当外れですよ。経過報告書……こっちは、手紙の写し?」
私が呟くとアストライアーさんと玉藻ちゃんも後ろから覗いてくる。ここに書かれているのは、誰かからの手紙の写しみたいだ。内容的には、進捗を訊いているのと、実験台の用意が出来るという事だった。手紙の最後には署名も書かれている。署名に関しては、手紙の一部を貼り付けているようだ。
『ふむ。どこかの街の重鎮みたいじゃな』
「町長的な?」
『そうじゃ。名前は知らんが、署名に押印を付けるのは、大体そういう立場じゃ。妾も公的な命令には使うからのう』
「ふ~ん……でも、これどこのだろう?」
「……これはアークサンクチュアリのものね」
「えっ!?」
まさかの一番近くにある街の偉い人だった。
「それって、天聖教の教皇とかですか?」
「ええ。この押印に覚えがあるわ。代々受け継いでいたもののはずよ。どこかで紛失したとなっていたはずだけれど。この名前は……分からないわね」
「なるほど……オーディンさん聞こえますか?」
念話で繋げば喋る必要はないけど、皆に誰と話しているか分かって貰うために口に出してオーディンさんに話し掛ける。
『何だ?』
「質問なんですけど、天聖教の教皇でこの名前の人っていますか?」
書いてあった名前を伝える。
『ああ。殺された教皇だな』
「殺された?」
『裏で邪聖教と呼ばれるところと繋がっていたようだ。邪聖教は、抜け目なく証拠を取っておいたみたいだな。その証拠を掴んだ天聖教の枢機卿により暗殺された。邪聖教の存在は秘匿されたようだな。今後、同じような者を出さないための措置だ』
「なるほど……ありがとうございます」
お礼を言ったら、念話が切れた。さすがに、この情報を得るのは厳しそうだったので、オーディンさんを頼ってしまったけど、多分正解だったかな。
「どうやら、枢機卿によって暗殺された教皇の名前で、邪聖教と繋がっていたようです」
「なるほどね。じゃあ、この実験台というのもアークサンクチュアリの住人……いや、天聖教の教徒だった可能性が高いわね」
「はい。もしかしたら、私が【降霊術】で話を聞いたお爺さんは、この枢機卿だった可能性があります」
「そう……ところで、今のって北欧の?」
「はい。主神のオーディンさんです。祝福と全知を頂いたので、念話で話を出来るようになったんです」
そう言ったら、アストライアーさんは、何とも言えない表情でこっちを見ていた。
「アテナさんからは聞いていないんですか?」
「いや、聞いてはいたのだけど、まさか本当に貰っているとは思わなかったから。まぁ、良いわ。ここも一通り調べておくわよ」
「はい。メア、闇の偏りは?」
『そこの魔法陣の上が濃いよ』
「まぁ、それはそうか。この魔法陣は発動していなさそうだけど……あの神殿と同じ魔法陣だ。ここで魔法陣の研究をしていたのかもしれない」
『ふむ。ここでは、幻術も使用されていたようじゃのう。幻覚を見せて、より深い絶望へと落としていたのかもしれないのじゃ』
「玉藻の言う通りね。こっちに絶望が悪魔へと至るために必要なのではって考察が書かれているわ」
あの人達も幻術を掛けられて、絶望するような幻覚を見せられていたのかな。やっぱり、邪聖教は許す事は出来なさそうだ。
「他のアジトに繋がる情報はないでしょうか?」
「今のところ見つかっていないわね。あの襲撃計画の地図にも無かったのでしょう?」
「はい。あそこにあったのは、襲撃の計画だけです。街の名前なども書かれていましたが、アジトに繋がる情報はありませんでした」
「他アジトに繋がるような情報のやり取りはしていないのかもしれないわね。変なところで情報管理が行き届いているわね」
『やり取りの情報は焼いていたのかもしれないのう』
「なるほど……エアリー、ソイル、メアは、他に隠し部屋がないか探って。玉藻ちゃんは、ここの資料を集めて」
『はい』
『うん……』
『オッケー♪』
『分かったのじゃ』
皆に指示を出していると、アストライアーさんが、私の方を見ていた。
「何か見つかりました?」
「いや、この流れで私にも指示が飛ばされるのかと思っただけよ」
指示をされたかったのかな。まぁ、アストライアーさんに出来る指示なんてないのだけど。皆で協力して調査を進めていく。本の内容は、経過報告書などが多く別の場所に繋がりそうな資料は見当たらなかった。でも、悪魔の実験が上手くいっていなかったという事だけが分かる。本当に最後の手段が砂漠の神殿だったのかもしれない。
「取り敢えず、これくらいかしらね」
ようやく全部の資料を集める事が出来た。それらは、全部私が回収する。アストライアーは読みたいものを読めたみたいだしね。
「ありがとう。私はこいつらの足跡を追っていくわ。もし組織の理念を受け継ぐような存在がいるのなら断罪するつもりよ」
「はい。私からもお願いします」
奴等の理念を受け継ぐのなら、十中八九裁かれるべき悪だ。アストライアーさんなら、そこら辺はしっかりとやってくれるはずなので安心して良い。
「それじゃあ、あなたには祝福を授けるわ」
「へ?」
有無を言わせずに、祝福が授けられる。
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【正義の神の祝福】:善悪を判別する天秤を召喚出来る。悪の場合には、断罪の剣を生み出し、存在を消去する事が出来る。祈りを捧げる事で正義の神アストライアーを召喚する事が出来る。控えでも効果を発揮する。
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何か凄いスキルが手に入った。存在の消去というのがゲームからの完全排除を意味するのなら、NPCを消滅させるヤバいスキルって事になる。よく実装したなと思ってしまう。というか、自由にアストライアーさんを喚び出す事が出来るというのもヤバい。
「これでいつでもあなたの元に行けるわ。もし悪事を見て、自分では対処しきれないと思ったら、いつでも喚んで頂戴。そうでなくても喚んでくれたら行くわ」
「ありがとうございます」
「アテナ達が気に入る訳ね。ヘラ様もあなたに会いたがっているから、オリュンポスには定期的に来た方が良いわよ」
「分かりました」
アストライアーさんは、私の頭を撫でた後に、そのまま消えていった。今度会う時には、私の方でも情報を渡せるように色々と調べておくかな。
『妾も妖都で情報を集めてみるとするのじゃ。またの』
玉藻ちゃんも尻尾で私を思いっきり撫でると妖都に消えていった。
「それじゃあ、私達も戻ろうか」
『はい』
『うん……』
『オッケー♪』
アークサンクチュアリにて得られた情報は、また邪聖教に繋がった。正直、もう関わりたくないと思っていたけど、色々と危ない事をやらかしていそうなので、長い付き合いになりそうだ。嫌だけど……