06 ー中級貴族の同級生ー
いそいそとレポートを写していると、時折チラチラと視界にユキが映る。
ついっと顔を上げると必ず目が合う。
うむ、相変わらずニコニコと嬉しそうに笑っているな。
ー暇じゃないのか?
聞いたところで建設的な答えが返ってくるでもなし、ささっとレポートを写して帰るとしよう。
本腰を入れてペンを動かしていると、講堂前方のドアが、建て付けの悪そうな音を立てて開く。
「やあ、ウィンタエア君!まだここに残っていると聞いてね。」
視線だけそちらに向けると、制服をきっちりと着こなした、燃えるような赤い髪をした男性がこちらに向かってくる最中であった。
「あ、カリダム様!ごきげんよー」
ユキは少し砕けた様子で元気よく挨拶をする。
…貴族らしくはないが。
「…ごきげんよう。カリダム様」
ユキに続き、俺からも挨拶をしておく。
「ああ、ごきげんようウィンタエア君。今日も元気そうで何よりだ」
カリダムはユキに挨拶を返す。
…どうやら彼の目には、ユキの隣に座る俺は目に入らないようだ。
これまたいつものことなので特に感想はない。
とにかく義務は果たしたのだ。今の俺に彼を相手にする時間はない。
目線をレポートに落とし、再び写し始める。
「…あのー、カリダム様?僕だけじゃなくて、シズクも挨拶してるんだけど…」
余計なことを言わないでほしい。
無視されているならそれが一番楽なんだが…。
付き合いは長くとも、こういう所は伝わらないようだ。
「…ふむ、ウィンタエア君。すまないが、平民の無能に掛ける言葉は持ち合わせていないものでね」
初めてこちらに視線を向けるカリダム。
至極当然のように発する彼の声色に一切の罪悪感はない。
すまないという言葉でさえ、ユキを慮ったものであり、俺に一切の関心を向けていないことがわかる。
「もう!ダメだよカリダム様!この学園にいる間は、貴族も平民も対等の立場で接することって学則にあるでしょ?」
憤慨するユキであったが、カリダムは意に介さない。
「ふん、本来であればこの場で骨も残さず焼き尽くしている所だ。まだ生きているというだけでこちらは最大限譲歩しているのだよ」
おお、怖い怖い。
貴族ってのはなんでこう血の気が多いのか。
「そもそも、下級貴族である君が私にこうして対等に接しているのだ。それで十分だろう?」
尊大に言い放つカリダム。
中級貴族である彼からすると、本来であれば、吹けば飛ぶような下級貴族など視界に収める価値すらないと考えているのだろう。
…だが、現実はわざわざ彼の方からユキを探し、話しかけてくるのだ。
目当てはわかりきっている。ユキの持つ凄まじい魔導力だ。
魔導力はこの国において、貴族としての爵位と同程度… いや、それ以上に重視される。
魔導力は絶対だ。この世に生を受けた瞬間決定付けられ、生涯変わることは無い。
だが、高い魔導力は子に遺伝する。貴族としての地位、立場を盤石のものとするため、身分差があろうとも魔導力の高い者と婚姻を結ぶのは珍しい事ではなかった。極端な例では、下級貴族が王族の第3夫人として迎え入れられた事もあるほどだ。
要するに、ユキはモテる。上級貴族顔負けの魔導力に優秀な成績、良い意味で貴族らしからぬ竹を割ったような性格。
入学当初から既に多くの貴族にアプローチを受けているが、その全員が色恋や地位に興味がないユキに撃沈されている。
…興味がないというよりも、知識がないと言った方が正しいかも知れない。まだまだお子ちゃまなのだ。