05 ーユキは何でも知っているー
ー今日も一日よく学びましたね。また明日、今日よりさらに実りある学びをー
音響魔法を通した学園長の声が響く。
「ふぅ… 今日も終わりか。いやー疲れた疲れた」
伸びをしつつ席から立つと、隣からジトッとした声がする。
「もー… 何が疲れたのさ。結局1日中寝てただけのくせしてさー」
教科書や参考書をカバンにしまいつつ、ユキがジト目で睨んでくる。俺の教科書は全部机の中だというのに、相変わらず律儀な奴だ。
「まあ… こっちにも色々あるのさ。昨日も色々捗りすぎて寝不足なもんで」
色々ってなにさー などとぶー垂れつつ、ユキがこちらに向き直る。
「あ そーだ!シズク 3時間目の魔導力概論だけど、レポートの提出期限明日までだよねぇ?ノート写す?」
どうやら俺は、この少女に出していない宿題すらも把握されているようだ。
軽く戦慄を覚えつつ、3限の内容を思い出そうとしてー諦めた。寝てたし。
「あぁ… いや いいよ別に」
なおざりに答えると、ユキは心底ビックリといった表情でこちらを見る。
本当によく変わる表情だ。疲れないのか?
「えぇ!?で でもあの授業必修だし、シズク2つ前のレポートも出してなかったよねぇ? 前回のは出してたけど、評価は落第ギリギリの可だったし…」
だからなぜそんな詳細に記憶しているのだろう。ここまで行くと正直気味が悪い… 本人に言うと泣かれるから言わないが。
「だってほら、ノートなんか写さなくてもユキのレポート直接写せばいいだろ」
最終手段を事もなげに告げるとユキはまたジト目を向けてくる。
「えー… レポート直接ってのはなぁ… ずるっこじゃない?」
ノートを写させている時点でズルも何もないだろうと思いつつ、とりあえず手を合わせておく。
「頼むよユキ! ほら この通り!何でも言う事聞くから!」
そういうとユキの表情は途端にふにゃっと崩れる。
「えー…もうしょうがないなぁシズクはさぁ!今回だけだからね!あ、僕のレポート写したのバレないようにしてね!」
相変わらずチョロ… 頼み事に弱い少女に若干の心配を覚えつつ、「特優」確実のレポートを受け取る。
「バレないから大丈夫だって。どうせ…」
そこまで言いかけ、口をつぐむ。
「んー?どうせ? どしたの?」
豊かな表情をたたえた瞳で、下から俺の顔を覗き込んでくるユキ。
「…いや、なんでもない。レポートありがとな」
そう言ってユキの頭にぽふっと手を置くと、縮むからやめろー!などと言いつつ嬉しそうに笑うのであった。
彼女曰く「絶賛成長中」の少女の頭は、俺の胸あたりにあるので手を置きやすいのだ。
ーどうせ中身がどんなに素晴らしくても、俺の名前が書いてあるだけで「ギリギリ可」以上にはならんだろうさ
だが、たとえ事実だったとしても、今それを告げれば間違いなく目の前の少女の笑顔は曇るだろう。
それはなんとなく…嫌だった。




