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剣聖の幼なじみが俺にだけ弱い  作者: 秋原タク


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第42話 事故、からの個人配信

「今日はありがとうね、レイン! 登録者数も5万人も増えてウハウハだわ! また近いうちに続き、やりましょうね!」

「そうだな、またやろう。あのあと、爆発に巻き込まれた主人公たちがどうなったかも気になるしな」

「えへへ、でしょー? 次回をお楽しみに!」


「……なあ、キャロル」

「ん、なーに?」

「キャロルの夢は、いつかミルルみたいになること、なんだよな?」

「なによ突然? まあ、そうだけど……それが?」

「不安にならないのか? この道が正解じゃなかったらどうしよう、全部無駄になるかもしれない、失敗したらどうしよう……って、夢を追うことが怖くなったりしないのか?」

「知らない!」

「知ら……え?」

「そんなの知らないわ! キャロルはミルルのずーっと後ろにいる。すごい出遅れてるの。だから、追いついて、いつか追い抜くためには、不安になんてなってる暇はないのよ! 不正解でも無駄でも失敗しまくっても、とにかく突き進むしかないの!」

「――――」

「でも、そうね。キャロルでも一瞬くらい不安になるときがあるかもだけど……んー、うん、やっぱダメ。想像できない。不安になったときのことは、実際不安になったときに考えるわ! やる前から不安になったときの心配をするなんて、すごくバカらしいもの!」


「…………すごいな、キャロルは」

「え、えへへ、そう? もっと褒めてもいいわよ!」

「キャロルはすごい!」

「えへへ! もっと!」

「すごいぞキャロル!」

「えへへ! 倒置法!」

「本当にありがとうな、キャロル――おかげで、俺も決心がついたよ」

「? よくわかんないけど、どういたしまして!」



 

 

 キャロルの家を出る頃には、日はとっぷりと暮れ、路地には街灯が灯りだしていた。

 宿屋ビレビハへの道を進みながら、俺は意味もなく右手をグーパー、と開閉する。

 いますぐにでも木剣を握りたかった。誰かと鍔迫り合いをしたかった。

 それは、キャロルの夢に対する真っすぐな姿勢に焚きつけられたからだった。


「騎士になる、なってみせる……」


 決意を口にすると、全身の血流が速くなった。夢を掴め、と急き立てているようだった。

 ローザに追いつく。騎士として、肩を並べる。

 そのために、いまの俺になにができる? なにをすべきなんだ?


(勧誘は断っちゃったから、入団試験を受けないといけないんだろうな……)


 腕が立てば平民でも入団することができる、というのは耳にしたことがあるが、だからといって実技試験だけで合格ということもないだろう。筆記や面談があるはずだ。

 騎士入団試験の過去問題集とか、王都の本屋に売ってないだろうか?

 それか、いまのご時世だったら魔導ネットに載ってるかも――


「あ」


 そこまで思考したところで、俺は魔導フォンの電源を切っていたことに気づいた。

 ポケットから魔導フォンを取りだし、数時間ぶりに電源をONにする。


「お、おぉ……」


 すると。待ってましたと言わんばかりに、シュポポポポ、とRONEの通知音が連続で響いた。メールと、それから不在通話の通知だ。メールは全部で7通、不在通話は3件。

 そのすべてが、ローザからのものだった。

 RONEのメール通知は、魔導フォン画面上部にメール文面の最初の一行が表示されるのだが……最後に送られたメールはいまから五分前、最初の一行は、『もう、いまからそっちに行きます』と記されていた。怖い。


「……どこに来るつもりなんだ?」


 呆れながら、いつもと変わらないローザの行動力に、ほんのすこしホッとする。

 昨夜、俺が自分勝手な劣等感のせいでローザにおかしな反応をしてしまったから、変に気まずくなっていたらどうしようかと思っていたのだ。よかった、いつも通りで。


「なんであれ、早く返信してやらないと……」


 もうすぐビレビハに着くが、ローザの性格上、部屋に戻るまでのその数分でとんでもない想像を働かせる可能性がある。というか、すでに働かせているだろう。

 俺は魔導フォンを持ったまま、大通りから近くの裏路地に逃げ込んだ。

 その裏路地は、以前カナリエが『騎士団寮舎からビレビハに行くときの近道』と言っていた道だった。数日前、俺が野次馬のひとたちから逃れたときに入った道でもある。

 街灯もない薄暗い中。俺は急いで、RONEアプリをタップした。

 した、と思っていた。


「……え?」


 瞬間。画面いっぱいに黒いエフェクトが広がったかと思うと、小さな配信画面のようなものが中央に表示された。

 その隣には、コメント、と書かれた欄が並んでいる。さらに、画面下部には『00:00:06』という、一秒ごとに増えていく数字列。

 この画面には見覚えがある。ついさっきまで、キャロルの家で見ていた。


 そう。

 俺がタップしたのはRONEではなく、その隣にあった生配信アプリだったのだ。


 ミルルはこれをマチューバー専用のアプリだと言っていた。そのせいか、初期設定ではタップしただけで紐づけしたマチューブチャンネルで生配信を開始してしまう、玄人向けの設定になっていたようだった。


「ヤバイ、えっと……」


 うろたえながら、その場に屈んで魔導フォンを睨む。


「これどうやって……あれ?」


 配信の切り方を探っていると、横のコメント欄が視界に入った。


『待ってました!』『画面くらいよー』『登録者数700万人記念配信?』『ヤバくないよヒーロー!』『チャンネル登録しててよかった』『ネタの貯蔵は充分か?』『なに話すんだ? ヒーロー』『通知見て急いで仕事終わらせてきたぜ! 初配信楽しみ!』


 事故同然ではじめた生配信に、すでに87万人もの視聴者が集まりだしていた。

 先ほど行った、キャロルとのゲーム実況を思い返す。

 寄せられたコメントは、言い方は荒々しいものばかりだったが、いわゆるプロレスで、本気でキャロルを傷つけようとする悪意に満ちたものは見受けられなかった。


 いま見ている限り、この配信のコメントも俺を歓迎するやさしいものばかり。

 ここで配信を切ったら、みんなの期待を裏切ることになる。

 配信への不安よりも、集まってくれたひとへの罪悪感のほうが大きくなってきていた。


(す、すこし話すぐらいだったら……)


 配信を切るのは一旦保留にし、俺は覚悟を決めて、小さく咳払い。


「は、はじめましてー……」


 魔導フォンを握りしめながら、はじめての個人配信を開始したのだった。

 ミルルから教わった『心構え』を忘れて。

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