特典9「願いを込めた舞い踊りを君と」
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楽しい時間とは早いもので、あっという間に俺やサクヤの誕生日も過ぎ。
魔法学院の入学試験当日となっていた。
サクヤからの誕生日プレゼントとして新たな杖をもらい。
俺からは以前にカイルンで見かけた杖をサクヤへの誕生日に送った。
奇しくも考えていたことが同じだったことに思わず笑ってしまったが、俺達らしいな。
リズからも紅茶用の素敵なカップをいただいたりと、相変わらず仲良くやっている。
そして今日はリズと共に試験会場へ向かう。
他愛のない会話をしながら学院に到着。
どうやらこちらは貴族専用の試験会場のようだ。
周りを見回しても貴族しか居ない。
落ち着かないったらありゃしねえ。
受付で試験番号をもらい、あてがわれた席に着席。
「タクミ、頑張りましょうね。」
両手を握って身体の前に頑張れと言わんばかりのポーズをとるリズに笑顔を返すと、周りからヒソヒソと話し声が聞こえた。
まあ何を言われても気にするようなメンタルじゃないから放っておくか。
「試験時間は2時間!
各自最後まで諦めないように。
また、筆記試験終了後は実技試験があるので速やかに移動するように。
それでは、はじめ!」
問題に目を通すと、最初は貴族としての一般教養の問題だ。
リズとサクヤと共に勉強しまくったからまったく苦じゃないな。
あとは魔法知識が問題の約7割と、自身の見解についての簡単な論文か。
さて、さっさと終わらせるとしよう。
・・・さて、開始40分で終わってしまったがどうしたものか。
とはいえ論文を書く際に熱くなりすぎて危うく紙が足りなくなるところだった。
周りの生徒の出来が気になるが、キョロキョロしてカンニングを疑われても嫌だしな。
この後のために軽く寝ておくとしよう。
「こら、試験はまだ1時間以上残ってますよ。」
教官の先生に怒られてしまった。
「もう全ての問題を終えてしまって手持ち無沙汰なので。
実技試験に移ってよければ先に受けさせていただけたりしないでしょうか。」
「それはできません。最後まで諦めないように。」
どうやら解けずに諦めたと思われているらしい。
試験も他の生徒と一緒に受けるのは遠慮したかったのだが仕方ない。
少しだけ解いてるふりをしながら時間をつぶし、ラスト30分となったところで突っ伏した。
少しだけ緊張してあまり眠れなかったせいか、すぐに意識をもっていかれた。
「久しぶりじゃのう、タクミ。」
あれ、いつの間にか神様ズの世界に。
レビス様、相変わらずお美しい・・・結婚してください。
「あなたが神になったときには考えてあげるわねえ。」
瞬時に俺の隣に来て頭を撫でるレビス様。
なんだかんだでかわいがってくれる優しい師匠だ。
「ところであの論文本気で提出するつもりい?
補助魔法の複数同時発動についてなんて、魔法学会レベルの代物じゃないかしらあ。」
あんなに頑張って書いたのに、なんてこったい。
熱くなりすぎて学生の域を超えてしまったようだ。
「しっかし、なんて量のスキルを創造しとるんじゃ。
レビス以外でここまでのスキル量は神ですら見たことないぞい。」
あんれま。
いつの間にか今度は神様を超えてしまっていたらしい。
今の俺でも軽く300は超えているはずなんだが、レビス様はもっとあるらしい。
一体いくつ持っているのだろうか。
「うふふ、乙女の秘密よお。」
はうあっ、結婚してください・・・。
くそう、ウィンクしながら人差し指で口元をおさえるとはやるなレビス様。
妹以外にここまでやられるとは。
この師匠にはいつまで経っても勝てないかもしれない。
「まあなんにしても元気そうで何よりじゃわい。
だがこの後の実技試験、やりすぎるでないぞ。
間違っても学院含め、王都に影響のでないようにな。」
そんなそんなあ、人を破壊神みたいに言わないでくださいよ。
「破壊神なんてまだ可愛いほうじゃろ。
隠れて『帝級』魔法造っとるの、全部バレとるんじゃからな。
レビス以外じゃもうお主の相手できる相手はおらんて。」
サクヤは俺の理解者。
だが相手をするようなステータスを授かったわけではない。
つまりは人間で俺の相手が務まる者は居ないということだ。
うすうす気づいてはいたが、やはりそうなのか。
「まあ最悪の場合は、わたしが顕現して止めてあげるから安心してねえ。
それじゃあそろそろ時間だから、お戻りなさい。」
そんなことにならないように気をつけます。
つけますー
ますー
ー
「それまで!解答は回収します。」
そう言いながら試験官が杖を振ると、すべての解答用紙が試験官の手元に集まった。
おお、便利な魔法だ。
どうやるんだろう。
「それでは続いて実技試験です。
外の訓練場に集合してください。」
皆が席を立つので、それに習って立ち上がるとリズが心配そうに声をかけてきた。
「筆記試験、とっても難しかったですね。大丈夫でしたか?」
難しいと感じた問題はなかったが、どれのことを言っているのだろう。
魔法知識なんて『魔法神の弟子』として持っていて当然だからなあ。
論文を除けば、余裕で満点だな。
レビス様に言われたことが気がかりだが。
屋外に出た俺達を待っていたのは、結界が張られた会場だ。
離れた箇所に3つの的があり、それに向けて魔法を放つとのこと。
これに関しては神様から釘を刺されたように、全力でやってはいけない。
どうせあれだろ、結界ごとぶっ壊してしまうとかそういうオチだろ。
どれだけ異世界ファンタジーを見てきたと思っているんだ。
そんな先人たちの失敗を見てきているからな。
全力で手加減するとしよう。
「ひとしずくからなる大いなる波紋。
その飛沫、うねりをあげて敵を穿て!
『水の銃弾!!』」
パァンー
「よし、次!」
うん、手加減とかもはやそういう次元じゃないわこれ。
何もしてはいけないレベルじゃないか?
そう思っていた矢先、目の前でリズの出番となっていた。
「えっと・・・全力でやってもよろしいのでしょうか。」
「そう簡単に結界は壊れるものではない。
思う存分にその力をふるいなさい。」
それに頷いたリズは、赤い水晶がついた立派な杖をかまえて魔力を込める。
おお?これは無詠唱魔法じゃないか?
「『火焔の爆撃』!!」
・・・って、この威力はやべえっ!!
「『多重結界』!」
的に大きな光が大量に集まったと思った矢先ー
ドッゴォォォォォォォォンーーー
今まで誰一人傷をつけることも叶わなかった的が、完全に消滅していた。
教師は驚きのあまりフリーズ。
魔法を放った当人はあまりの衝撃の大きさにおろおろとしている。
俺がとっさにバリアを張らなかったら、学院ごと吹っ飛んでいたかもしれない。
こんなに綺麗な女の子が、無詠唱の最上級爆撃魔法をぶっ放すとは。
その威力は無詠唱にしてぶっ壊れ級。
見直したぞ、とリズに視線を送っていると。
試験官さんが俺の前に現れた。
「結界を張ったのは君ね?
危うく学院が吹っ飛ぶところだったわ。ありがとう。」
「いえ、間に合ってよかったです。」
「君の力は充分に分かったわ。
的があんな状態だし、試験はパスで大丈夫よ。」
うーん、嬉しいやら悲しいやらだけど。
学院をふっとばすよりはよっぽどいいか。
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そして試験も終わり。
リズと共に俺の家に戻ってきた。
「リズすごかったんだぞ!
無詠唱の最上級爆撃魔法なんて初めて見たわ。」
「いえいえ、実はあれともう1つしか魔法を使えないんですよ。」
「へえー、アタシも見たかったなあ!」
と言っているものの、ドラゴンの魔力以外であれば俺よりもサクヤのほうが検知能力が高い。
いくら結界があったとはいえ、あのレベルの魔法の発動に気づかないわけがないだろう。
それでも話を合わせているのはサクヤの優しさかな。
それに気づいても言わないのは俺の優しさ、ということで。
その後は記憶の許す限りでテストの問題を紙に再現。
2人で答え合わせをしつつ、サクヤにも試しに解いてもらった。
やはり論文以外のところで俺に減点は1つもなく、リズも1問間違えていただけだった。
ちなみにサクヤも2問間違えただけ。
引っ掛け問題に2人ともうまくハマってしまったようだが、この調子であればリズとは無事同級生になれそうだ。
まあ、資材の破壊については言及があると思うが。
そんなこんなで迎えた合格発表日。
リズ、サクヤと共に見に来たのだが、俺達の名前がない。
まさか論文での減点と、試験場の破壊により不合格になったのか・・・?
「あっ!お兄ちゃん、リズさん、こっち!」
サクヤが指さしたのは、合格発表者とは別のボードに書かれた名前欄だった。
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・成績上位者
以下の者は合格、ならびに成績上位者としてSクラスに配属するものとする。
首席 タクミ・イスタル
次席 グレイ・ティールズ・マルクルス
三席 リズベット・カーレ・オーグレイ
四席 シャーレ・ファン・バルカン
五席 シャーリー・ギルジーニ・フォート
六席 ララ・トレス・ファッズバルト
七席 リンク・リング・リンクス
以上
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「2人ともすごーい!!おめでとう!!」
「皆さん、伯爵家以上の御子息ですね。
・・・あっ、ごめんなさいタクミ。悪気はないんです。」
「気にしてないよ。
そんななか首席・・・ねっ。」
「あはは・・・お兄ちゃん、みなまで言うな。」
さすがは妹。
笑顔で言ったにも関わらず言いたいことが分かるらしい。
マージで仲良くできる気がしねえ・・・。
名前を見るに、王太子殿下ともクラスメイトみたいだ。
まいったね。
そのまま必要な手続きを済ませて制服を受け取り、帰宅することになった。
早くも登校するのが億劫になってきたが、念願の魔法学院だ。
楽しく過ごせるように頑張るとしよう。
「お兄ちゃん、準備できた?」
「急いでドレス買わないとな。」
リズも一緒にお祝いをしようとしていたのだが、家でのパーティがあるとのことだ。
逆に招待されたのでせっかくなのでお言葉に甘えることに。
とはいえ人生初めての貴族のパーティ。
当然ドレスなど持ち合わせていないので、大急ぎで買いに向かっている。
これを機にサクヤに良い服をたくさん買ってあげるとしよう。
俺は1発で決まったのだが、女の子は買い物に時間がかかるってのは日本もマルクルスも変わらないな。
サクヤがあれでもないこれでもないとたくさん試着をしているのだが、なかなか決まらないようだ。
「お兄ちゃん、どっちがいいと思う?」
言いながら両手に一着ずつドレスを持つサクヤ。
赤か黒かで迷っているらしい。
どっちにもサクヤには似合うと思うが、黒髪ということもあり真っ黒になってしまうので赤を推すと笑顔で試着室にこもっていった。
それを試着しているあいだに店員さんにどちらもください、と支払いを済ませておくのも忘れずに。
我ながらスマートな兄だ。
試着室から出てきたサクヤのドレス姿に危うく意識を失いかけたが、なんとか持ちこたえてオーグレイ公爵家へとやってきた。
店から出る際。
「あれ、お兄ちゃん。支払いは?」
「野暮なこと聞くなよ妹よ。」
「わあ、お兄ちゃんかっこいい・・・。大人の人みたい。」
顔を赤らめながら上目遣いで言われた。
残念ながら大人なんだよ、中身は。
入口の門で招待状を見せると、中へと案内され。
以前来たときとは違う大広間には、たくさんの人が居てその全員がドレスまたはパーティスーツ。
やっぱこういう社交の場こそ貴族って感じだよな。
「あっ!タクミ、サクヤさん、ようこそおいでくださいました。」
声に反応すると、薄い黄色のドレスを身に着けたリズがこちらにお辞儀をしていた。
首の下あたりにふわっとしたフリルがついており、可愛らしくもある。
「ご招待ありがとうございます、リズ。
ドレス、よく似合ってますよ。」
「ふふ、ありがとうございます。
タクミもサクヤさんも、よくお似合いですよ。
ゆっくりしていってくださいね。」
「リズさん、ありがとうございます!」
俺達が挨拶を終えるとすぐにリズは他の貴族様たちにご挨拶に回っていった。
ではゆっくり堪能させてもらうとしよう。
サクヤと共にビュッフェスタイルの料理を楽しみながら談笑していると、他の貴族からコソコソと何やら聞こえる。
こんな子どもがとか、次女と同じく醜いとか色々聞こえてきた。
俺はともかくサクヤのことを悪く言っているなら、消すぞ・・・?
「あははー、お兄ちゃーん、どうどう。」
サクヤに呆れた声でなだめられた。
しかしある程度は気づいていたことだが、リズもやはりそういう評価なのか。
あんなに綺麗なのにな。
「うーん・・・リズさん綺麗なのになあ。」
この感性の理解者も妹だけらしい。
まあそんな奴らの声なんてどうでもいいか。
今はかわいい妹とパーティを楽しませてもらうとしよう。
時間が経つにつれ、徐々にダンスを楽しむ人が増えてきた。
ダンスの経験なんて人生で1度もないのだが、せっかくだしな。
「スキル創造ー『舞い踊り』。」
「あっ、お兄ちゃんずるい!アタシも!」
言いながらスキルを創造するサクヤに、膝をついて右手を差し出した。
「かわいいお嬢さん、わたしと1曲踊っていただけませんか。」
その姿を見たサクヤは頬を赤らめながらも満面の笑みで。
「はいっ、よろこんで!!」
ゆっくりと、絆を確かめるような舞い踊り。
願わくば、こんな笑顔でずっと過ごせるようにと、願いを込めて。
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