特典10「入学式」
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学院入学を1週間後に控えたある日の午後。
突然我が家にリズの執事であるアラン様が訪れ、オーグレイ公爵家に来てほしいとのこと。
道すがらリズになにかあったのかと確認したところ、今日はオーグレイ公爵様からの呼び出しだそうだ。
余計に緊張するわ。
オーグレイ公爵家に到着して応接室に案内されることしばらく。
当主の公爵様が部屋に入ってきた。
さすがに座りっぱなしは良くないだろうということで立ち上がる。
すると公爵様の後ろに続いてリズも部屋に入ってきた。
俺の姿を確認するなり、笑顔で手を振ってきた。
さすがに公爵様の前で手を振り返すわけにもいかないか。
「急に呼び立ててすまない、イスタル男爵。
気にせず座ってくれたまえ。
来週の入学式について話しておこうと思ってね。」
なるほど、それでリズも一緒なのか。
にしても爵位を授かってからというもの、人付き合いも少なかったため男爵呼びがむず痒い。
入学についてはほとんど無知に等しいので気にかけていただけるのはありがたいな。
「例年首席の生徒が新入生代表挨拶をしているんだ。
今からでも挨拶を考えておくように。
それと入学後はリズと共にSクラスに配属されると聞いている。
あそこは将来有望な生徒に自由に学ばせているから、自分の思うように学ぶといいだろう。」
Sクラスと聞いて正直進学クラスのようなイメージを抱いていたのだが、その逆みたいだ。
入学時点で既に素養を持った人間には無駄な檻は必要ないと考えられているのか。
こちらとしてもありがたいな。
「あとは試験での論文の件、聞いたよ。
私の管轄する魔法学会でもあそこまでの論文は滅多にでてこないくらいだ。
君の考えはすでに学生の域にとどまっていない。
そこで、どうだろう。
Sクラスで時間もあることだし、君さえよければ魔法学会に参加してみないか?」
いくら男爵とはいえ、学院入学前の子どもにそこまで言うか。
正直お誘いはめちゃくちゃ嬉しい。
試験の際に熱くなって書きすぎたということもあるが、魔法についての討論の場なんて魅力的すぎる。
自分の見識を広めるチャンスでもあるわけだしな。
だが、サクヤ以外に俺を理解されるのか不安ではある。
理解されなければ俺は腫れ物を見るような目で見られ続けることになるだろう。
俺だけならまだしも、サクヤにもそんな目が向けられるようなことになれば・・・。
「とてもありがたいお誘いですが、返答は一度持ち帰らせていただけますでしょうか。
まだ入学前の身分で学院の右も左すら分からぬ若輩者ゆえ、申し訳ありません。」
「返事はゆっくりで構わないよ。
リズを通してでも問題ない。
だが、君にとっても大きなチャンスとなるのは今の時点でも分かってくれていると思う。
良い返事を期待しているよ。」
そう言い残し、公爵様は部屋を後にしていった。
残されたリズは自分のことのように喜んでくれている。
「お父様があそこまで言うのなんて滅多にないんですよ!
さすがです、タクミ。」
代表挨拶といい、入学までの期間は頭を悩ませることになりそうだ。
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魔法学院。
魔法神レビスが創立した由緒正しく、かつ伝統のある学院だ。
校門をくぐった先には大きな噴水。
その真ん中にレビス様の美しい像がたてられており、なんとも幻想的な雰囲気。
コの字状に造られた学び舎にはいくつもの教室があり、生徒それぞれが多くのことを日々学んでいる。
屋外には巨大な訓練場や、大議事堂も完備。
そんなとんでも施設を持った学院が大事にしているのが、自由と尊重。
学ぶことの自由として授業の多くが選択科目となっている。
将来や、学びたいことへの自由を許してくれているのだ。
そしてもう1つが尊重。
加護というものが存在している世界なだけあり、必ずしも貴族にのみ加護が与えられるとは限らない。
中には平民でいずれかの加護を持ち合わせていることもある。
そんな生徒たちにとっても学ぶ機会、場所でもある。
何より学院の中では完全な実力主義制度。
身分の差など関係なく、その人のちからを尊重する校風となっている。
そんな王都魔法学院も今日、入学式を迎えていた。
「新入生代表挨拶。首席、タクミ・イスタル。」
「はい!」
緊張しながらも壇上へとあがる。
数百をこえる目が俺に集中しているのが分かる。
そんな俺は清々しい顔をしつつ。
・・・ゲロ吐きそうだ。
昨日までの準備としてスキルによる『魅力』、『演説』、『鼓舞』などのチートを準備している。
でもそんなの関係ないんだよ。
なんだよこのさらし者。
喋りだしたら口からなんか色々出てきそうなくらい気持ち悪いんだよ。
まじでわざと試験の問題間違えておけばよかったよ。
あー、今からでも王太子殿下この役目かわってくれねえかなあ!?
と顔をあげてみると、心配そうな顔をするサクヤが目に入った。
・・・カッコ悪いところだけは、見せられねえじゃねえか・・・!
「はじめまして、タクミ・イスタルと申します。
わたしは昨年、男爵位を授かりました。
しかしその前は遥か遠くの田舎の平民でした。
魔法学院に入学をしようと妹と共にアールス山脈を超え、やっとの思いで王都にたどり着きました。
身に余る男爵という地位を授けてくださった陛下には感謝の念が絶えません。
そんなわたしに対しても平等に評価し、首席という立場をくださった学院の関係皆様にはこの場をお借りし感謝を申し上げます。
魔法神レビス様曰く「身分に関係なく自由に学び、互いを尊重しあえる学び舎」とあるように、家柄にとらわれずに学友を作り、共に切磋琢磨し、わたしを含めた皆さんの学院生活がより良いものとなるよう励んでいく所存です。
若輩者ゆえ色々とお世話をかけるとは思いますが、どうぞよろしくお願い致します。」
言い終えてお辞儀をする。
ずっと思っていたことだが、王太子殿下を抑えての首席だなんてやはり歓迎されていないな。
そう思い壇上を降りようとしたとき。
パチパチパチー
2箇所から拍手が聞こえた。
思わず顔をあげるとリズとサクヤが笑顔で手を叩いてくれていた。
それが引き金となったのかは分からないけれど。
拍手は次第に大きくなり、大議事堂の全方角からされているのではないかと錯覚するほどの拍手が寄せられ。
驚きと嬉しさのあまり思わずこみあげてきた涙を隠すように、深々と長いお辞儀をして壇上をあとにした。
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入学式の後はリズと共に割り当てられたクラスへと移動。
クラスメイトと初対面となった。
驚くことに、最初に声をかけてきたのは王太子殿下だった。
「やあ、式での演説は見事だったよ。
僕よりも上の成績を残した君がどんな人物なのか気になって仕方なかったんだ。
よければ立場など気にせず、仲良くしてくれると嬉しいよ。」
「ありがとうございます。
タクミ・イスタル、爵位は男爵です。
こちらこそよろしくお願い致します。」
「僕はグレイ・ティールズ・マルクルス。
気軽にグレイと呼んでくれて構わないし、ここでは敬語も必要ない。
固っ苦しいのは苦手なんだ。」
「分かった、グレイ。
改めてこれからよろしく!」
俺が手を握り返すと満足したようににこやかな笑顔になった。
続いて現れたのは、七席のリンクさんだ。
「あっ、あのっ・・・リンク・リング・リンクス・・・です。
仲の良い人たちには・・・リンリンって呼ばれてます・・・。
タクミさんさえよければ・・・魔法を教えてくれると・・・嬉しいです。」
「俺で良ければ、よろこんで!
タクミ・イスタル。タクミでいいよ!
よろしくな、リンリン。」
おどおど系女子のような印象だが、わりと自己主張をしてくる子だ。
クラスの中で唯一黒いローブを羽織っており、大きな丸眼鏡とそれにあたって跳ねている前と横髪が印象的。
そしておそらくこの世界の基準では、めちゃくちゃ美人なのだろう。
リズを除くそれ以外のメンバーからはあまり良い印象を持たれていなそうだ。
六席のララさんはからはまるでゴミを見るような目を向けられたしな。
四席のシャーレ、五席のシャーリーさんは我関せずといったところだ。
どいつもこいつも曲が強そうなメンバー。
まとめるのも大変そうだ。
「おーし、席につけー。」
ちょうど担任教師が入ってきたところで解散になり、全員が着席。
俺とリズは1番廊下側のテーブルに2人で座った。
「今日からお前らの担任になる、デイビス・アーク・ボーンだ。
担当は火属性攻撃魔法。よろしくな。
まあSクラスということもあって授業にでるのもでないのも個人の自由だ。
最終的に卒業までに学院が納得する論文を提出さえすれば、卒業までの3年間で1度も授業に出なくても問題ない。
それだけの自由がこのクラスにはある。
とはいえ朝の出席だけは取るから、朝は必ずこの教室に居るように!
以上だ。質問がなければこれで今日は解散!」
Sクラス半端ねえな。
まあでもせっかく学院に来たのだから、色んな授業を受けておきたいところだ。
空いた時間でそれこそ魔法学会だったり、冒険者の仕事をしてもいいかもしれない。
魔法と同じで、可能性は無限大だな。
「タクミ、リズベット。この後良かったら親睦会として一緒にご飯でもどうだ?」
リズと共に帰ろうとしていたら、グレイとリンリンに呼び止められた。
お誘いは大変嬉しいのだが可愛い妹のことだ。
料理を作って待ってくれているに違いない。
だがせっかくできた学友を初日から無碍にするのも・・・。
この全てを解決する良い方法はなにかないか?
『二重思考』
『思考速度上昇』
どうすればいい・・・どうすればすべてまるっと解決できる・・・!これだっ!!
この間、時間にして0.1秒である。
「それなら皆でうちに来るか?」
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「ええええっ!王太子殿下っ!?」
家に到着するなり、サクヤが大きな声をあげた。
俺のことを玄関の角に引っ張り耳打ちしてきた。
「ちょっとお兄ちゃん。さすがに聞いてないよ!
連れてくるなら事前に言っておいてくれないと!」
「最愛の妹に早く会いたい気持ちと、学友との初日を天秤にかけた結果なんだ。
でも急でごめんな。」
そう言いながら頭を撫でると嬉しそうに顔を赤らめて。
「もうっ、そういうことなら仕方ないなあ。」
頬をかきながらなんだかんだで許してくれた。
ちょっと口元が緩んでいるあたり、本当にかわいい妹だ。
「申し遅れました。
タクミの妹、サクヤ・イスタルと申します。
兄がお世話になっております。
妹とご学友をどちらも優先できない兄ですが、変わらず仲良くしていただけると。」
おいい事実だが余計なことは言わなくていいぞ妹よ。
いや事実だが。
「グレイ・ティールズ・マルクルスだ。
こんな素敵な妹君が居れば早く帰りたいのも頷けるな。
今日はいきなりの来訪すまない。
完全にプライベートだから、好きに呼んでくれ。」
互いに挨拶を済ませてリビングに案内。
少し落ち着いたところでグレイが声をかけてきた。
「タクミ、もしかしてだけど家のお披露目会はやってないのかい?」
「確かに。わたくしも呼ばれてませんわね。」
リズも同意したが、なんだそれは。
助けを求めるようにサクヤを見るも、首を傾げながら肩をすくめられた。
そんなこと実家では一度もなかったしなあ。
「そういえば平民あがりだと言ってたな。
貴族では爵位を授けられて独り立ちをして家を持った際、身分が上の者や親しい者を招待して家のお披露目会をするんだ。
芸術品がないからまさかと思ったけど、これほどとは・・・。」
右手で頭を抱えつつため息をつかれた。
リズも知っていたなら教えてくれたらよかったのに。
という目を向けていると。
「ごめんなさい、わたくしがもっと早くに気づいていれば・・・。
初めてのお友達が出来て浮かれてしまい、てっきり忘れておりました・・・。」
「知らなかった俺が悪いんだから、謝らないでくれリズ。」
というかそれでSクラスの貴族様の御子息からの視線だったわけだ。
全員が伯爵家以上らしいし、誘われていないことに失礼な奴だと思われているということか。
なるほど、すべて納得できた。
「芸術品ってどんなのがいいんだ?」
「んー、絵画だったり高級な陶器だったり。
あとはモンスターの剥製を置く人も居るね。」
なるほど、剥製でもいいのか。
あっ、ちょうどいいかもしれない。
「それなら今から玄関ホールに置いてくるわ。
帰る時に驚かないでくれよ?」
「よし、置いてきた。」
「マジックバッグから取り出したような早さだね。
まあ帰りの楽しみにしておくよ。」
「きゃああああああああああああ!!!!」
女の人の悲鳴に、俺とサクヤが超反応。
続いてグレイが追いかけてきた。
何事かと玄関ホールへと到着すると、腰を抜かした侍女さんが居た。
「あっやべっ、説明するの忘れてた。」
「うっわ、なにこれ!」
「タクミ・・・これは確かに僕よりも上の成績になるのも納得だよ。
君はどれだけ規格外なんだ。
まさかレッドドラゴンの剥製とは。」
だって魔物の剥製の中でも最上位だろう。
傷をつけるつもりはなかったわけだが、そのままでは持ち腐れだからな。
どうせなら俺の泊をつけるのに一躍買ってもらおうということだ。
まあ、俺が倒したわけではないというのは言わないでおこう。
頭を抱えるグレイの肩にサクヤが手を置いた。
「グレイ殿下、これがうちの兄です。
諦めるか、早々に慣れないと身体がいくつあっても足りません。
どうか、お気をつけて。」
サムズアップと共に真顔でそんなことを言うサクヤに、ため息を返すグレイ。
「これはホント、あと3年のうちにどれだけ寿命を縮められるのか。
・・・たまったもんじゃないな。」
「ええ、アタシは早々に諦めて見ているうちに慣れました。」
おうっふ、初耳だぞマイシスター。
そんな苦労をかけていたのなら、言ってくれたら良かったのに。
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