⑲ 少女、昼休みにも絡まれる・後
机の上に二人分のお弁当を並べ、さぁ食べるぞ! といったところで邪魔者がエントリーしてきました。
「盗み聞き……ではありませんわね。同じ教室内ですから会話が聞こえるのは仕方ないでしょう。ですが、誘われてもいないのに淑女の食事に加わろうとするのはどうでしょうか? 流石に品位を疑われますわよ?」
乱入してきた男子に対してやんわりと、それでいてしっかりと嫌悪感を露にする園城寺さん。
「いやいや、それは逆だ。一般の男子生徒はこうして積極的に関わっていかないと、あんたみたいな綺麗どころとの出会いや会話のきっかけが無いんだよ」
そんな園城寺さんに対してやれやれと言った感じで肩をすくめて反論する男子。その名も有馬ゴブ太。いや、ゴブ吉かゴブ助かもしれませんが、まぁそんな感じのヤツです。
私が龍造院さんと園城寺さん以外に顔と名前が一致する数少ないクラスメイトなのですが、その理由は名前からすでにお察しでしょう。
「へへっ」
そう、こいつの視線にはゴブリンが雌をみたときのような隠しきれない性欲が含まれているのです。実際今も上から園城寺さんの胸部装甲を眺めていますし、チラチラと私の脚も見ています。
うん。本物のゴブリンを知った今でさえ、こいつの視線はアレに勝るとも劣らないと断言できますね。件のギルド職員並とでもいいましょうか。そのくらい気持ちが悪いです。
「年頃の男子生徒なんだから女性に興味があるのはしょうがない」という人も居るかもしれませんが、コイツの視線は「しょうがない」で我慢できるレベルを遥かに超越した不快感をもたらす存在なんですよ。
これで実力が有るならまだ許されるかもしれませんが、所詮は学生ですからねぇ。パッと見た感じでも彼には情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ、そして何より強さが足りません。師匠とは月とスッポン……と言えば月やスッポンに失礼ですかね。
何が言いたいかといえば、全然惹かれませんってことです。
そんなゴブ太ですが、周りの男子生徒からは何故か「おぉ……」とか「すげぇ!」とか「そこに痺れるっ!」って感じの憧れの目のようなモノを向けられていますが……男子諸君。こいつの真似をしたら普通に嫌われますよ。
どうなろうと私の知ったことではありませんけどね。
「話をすり替えないでくださいな。私は貴方のマナー違反を咎めているのですよ?」
ほら。温厚な園城寺さんも問答無用で話を終わらせようとしています。
「マナーも何も、ここは学校の中で壁の中じゃねぇ。何よりクラスメイトじゃねぇか。アンタだって無駄にお堅いのが嫌いでこの学校に来たんだろ?」
冷たい目を向ける園城寺さんに対し、ゴブ太もゴブ太で反論していますね。何や自分の言葉に自信があるようですが、そもそもお堅いのが好きとか嫌いだのというのと、女の子の食事に口を挟むのは全くの別問題なんですけどねぇ?
というか、お嬢様である園城寺さんがわざわざ二層にある学校に来たのってそういう理由だったんですか。
「勝手に決め付けないでもらえますか? そもそも貴方が私の何をご存知だと?」
おや。痛いところをつかれたんでしょうか? 園城寺さんはあくまで冷静さを保ってゴブ太を論破しようとしているようにみえますが、論点がずらされていることに気付いていませんよ。
「あれだろ? あんた、園城寺って名家の娘としてではなく、園城寺トモカっていう一人の人間として見て欲しいって願望があるんだろ?」
ほーん。なんというか、お嬢様はお嬢様で贅沢な悩みを抱えているようで。
「なるほど……確かに中学時代にはそんなことも言いましたわね。ですが貴方は致命的に勘違いしてますわ」
はぁ。これは長引きそうですねぇ。
そもそもの話なんですが、こういうのは相手にしたらダメなんです。だってゴブリンは言葉を理解しませんからね。問答無用で殴り倒すか無視するかしかないんです。昼休みは有限なんですよ?
なので、私はなおも囀っているゴブ太をシカトしてさっさとご飯をいただくことにします。
「開封ぅ~」
おぉ! やっぱりおかずにお肉が有ると違いますね! それにこれは薄切りのハムでしょうか? いや、違う。サーロインを薄切りにして炙っているんですね。言うなれば超レア! それに師匠から貰ったなんか高級な塩! この塩は「ただの塩も高いと味が違うんだねぇ」とアオイがしみじみ語りながら、塩だけでご飯を1杯完食できたほどの塩ですよ!
「ほほぉ」
これがサーロイン様とどのような化学反応を起こすのか……ゥンまああ~いっ!! このの甘味と高級な塩の爽やかさが生み出すコンビプレイ! これはもうなんて言うんですかねぇ? コーラとポテチを遥かに凌駕すると言いますか、紅茶とスコーンと言いますか、緑茶とオニギリと言いますか! さらにこのお肉に白米を併せると……ンまいっ! くうう~~~っ クッ! クッ! 生まれてきてよかった~~お母さん! さいこー!
「勘違いだぁ? 一体何を言って……ってこっちは普通に飯食ってやがる! しかも早ぇ!?」
「わざわざ貴方に話すことではありませんわ。って木下さん……あら、中々美味しそうですわね」
ふっ。園城寺さんも驚くお肉の輝き。さすがは師匠!
というか、さっさと食べないと昼休みが終わってしましますよ? もしも食べないなら素体に収納して……いや素体に関しては師匠から『学校内ではできるだけ明かさないように』って言われていましたね。
むぅ。普通にお土産として包んで貰えないでしょうか?
「つーかなんで木下がそんな豪勢な弁当食ってんだよ! 木下アキラって言ったら具なしのオニギリだろうが!」
「ほむ?」
「え? 具なしのオニギリ? 木下さん、貴女は今までそんなお食事を……」
ん? どこでその情報を? もしかしてゴブ太も私を調べたんですかね?
しかしその調査は不十分と言わざるを得ませんね。だって昔でさえ塩や香草が入っていましたから! 断じて具なしではありませんっ!
とは言え、あんまり大声で騒がれても困りますし、さっさとご飯を食べて移動しますかねぇ。あぁその前に1つ確認しなきゃいけないことがありました。
「ねぇ園城寺さん。もしかして貴女の家が調べた私の情報って、クラスの皆さんに公開されているんですか?」
つい冷たい視線を向けてしまいますが、仕方ないですよね? もしそうなら友達辞めたいんですけど。
「ま、まさか! そんなことしませんわ! ……あのお二人と龍造院さんにはお話してしまいましたけど……」
普通に公開してるじゃん。それならその会話を聞いて、私の昔のことを調べたのでしょうか? 園城寺さんからの融資のお話といい、ゴブ太といい、私の過去の情報を握って何をするつもりだったんでしょうかねぇ。
いや、まぁ園城寺さんはオニギリのことを知らなかったみたいだから今回はそこまで関係無いようですけどね。というかそもそも今だって塩だけのオニギリは好きですよ? 中身の具については……止めましょう。これは戦争になります。
そんな戦争案件はさておくとして。
「そうですか。話してしまったことは仕方がないですけど、あまり言い広めないでくださいね? 内緒話のつもりでもこうして聞き耳を立てる人はいるんですから。できたら話題にすらして欲しくないです」
このゴブ太みたいに干渉してくるヤツがいるならなおさらです。私が関わらないところで勝手に馬鹿にするだけならまだしも、こうして関わって来るようなヤツに情報を渡して欲しくないですよねぇ。
「……はい。誠に申し訳ございませんでした」
目の前に聞き耳を立てて会話に参加してきたゴブ太が居るので、園城寺さんも反論できないようですね。シュンとして謝罪して来きました。
うん、そもそも向こうの三人に話してる時点で有罪ですからね。友達だと言ってくれるなら今後は情報管理を徹底して貰いたいものです。
「謝罪は受け入れます。ではお昼ご飯を続けましょう。あぁ当然有馬さんの同席は拒否します」
「はぁ!?」
「えっと……」
ゴブ太はあっさりスルーされて驚き、園城寺さんはそれで良いの? って顔をしてますけどね。これで良いんです。
「いや、驚かれましてもねぇ。もともと誘いもしてないし、私も園城寺さんもOKを出していないなら不参加に決まってるでしょう? 何を勘違いしたのかはわかりませんが、クラスメイトだからと言って、不躾な男子を相手に仲良くしなきゃいけない義務なんかありませんよ?」
「なっ!」
園城寺さんのオブラートに包んだ言い回しがゴブ太みたいなヤツに効果あるわけないじゃないですか。はっきり言わないとダメなんです。それにここまではっきり言えば、他の男子に対する牽制にもなるでしょう。
ゴブ太みたいに強引にいくのが正解! なんて勘違いされても困りますからね。
きっぱりと拒絶の言葉を向けられて絶句しているゴブ太ですが、次はどうしますかね? これ以上食事の邪魔をするなら意識を失ってもらいますけど? ……というか園城寺さんのお弁当、かなり美味しそうですね。色とりどりというか何というか。見ただけで美味しそうなのがわかります。
「いい加減にしろ! 彼女たちは嫌がっているじゃないか!」
話が終わりかけたところでまさかの龍造院さんがエントリー!
「……あぁ? お前には関係ねぇだろ」
いや、本当に関係ないですよね。ついでに言えば彼の隣にいる青いのと赤いのも。
「「ちっ!」」
舌打ちしやがった。
「園城寺さん。アレ、止めて貰ってもいいですか?」
龍造院さんが騒ぎを拡大させようとするのは、まぁ空気が読めない彼らしいと言えばそうなんですが、そのせいで何故か青いのと赤いのがゴブ太じゃなくて私に敵意を向けているんですよねぇ。
アレですか? 愛しの龍造院さんとご飯が食べられると思っていたのに、肝心の彼が恋敵である園城寺さんと、ついでに恋敵候補である私を庇ったから不機嫌なんですか?
正直すごい迷惑なんですけど。
「……すみません」
うん。この謝罪は私の言いたいことをしっかりと理解した上での謝罪ですね。
そうですか。無理ですか、そーですか。
「はぁ」
……私は静かに美味しいご飯を食べたいだけなんですけどねぇ。
もう、やっちゃおうかな?
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