⑱ 少女、昼休みに絡まれる・前
なんやかんやありましたけど、無事に午前中の授業も終わり、みんなが大好きな昼休みになりました。
授業についてはアレです。最初は初っ端から長期で休んだので授業についていけるかどうか密かに不安に思っていましたが、まだ教科書の序盤も序盤の内容だったこともあり、今の私でも十分理解できる範疇でした。まぁ『全教科満点を取れ!』とか言われたら困りますが、平均点くらいなら取れそうなので問題ない感じです。
問題があるとすれば……。
「木下さん、お昼をご一緒しませんか?」
「あ、はい」
そう言いながらお弁当箱、というか重箱を掲げて私の前に座るのは『黄色のお嬢様』こと園城寺さんです。
うん。なんか気付いたらお嬢様なお友達ができていたんですよねぇ。
落ちぶれる前もギリギリ中流階級くらいでしかなかった私と、生まれながらのお嬢様である園城寺さんでは文字通り住む世界が違うと思うんですが、一体私の何が彼女の琴線に触れたのやら。
それに気になることがもう一つあります。
それは彼女とお友達になる切っ掛けだった朝の呼び出しで、青いのと赤いのが何のためにいたのかがわからないままだってことです。
元の用件は『融資に関して』ってことでしたけど、お金を出すのは園城寺さんであって、あの二人は関係ないでしょ? 授業中も休み時間もチラチラと私を見てはヒソヒソ話をしてるし、なんか龍造院さんも私を意識してるみたいだし。
龍造院さんに関しては自意識過剰と言われるかもしれませんが、師匠からも『【気のせい】なんて簡単な言葉で片付けるな。【違和感】として認識しろ』って言われてますからね。
で、先入観とかを抜きにして周囲を観察した結果、どうも私って彼だけでなく周囲の注目を集めているみたいなんですよね。
まぁ? 朝に園城寺さんにも言いましたけど、入学二日目からいきなり不登校になるようなクラスメイトを気にするなという方が無理があるとは理解していますよ?
だから暫くはこんな感じで注目を浴びるのも仕方が無いとは思っていますが、青いのと赤いのがずーっと敵意をむき出しにしているのはどうかと思うんです。
最初から仲が悪いとか、私が何か失礼なことをしたとかいうのであれば理解も出来るのですが、何の接点も無いのに敵視されてもねぇ。いや、もしかしたら接点が無いからこそ、でしょうか?
具体的には『私たちが苦労して入ったっていうのにサボるなんて生意気だ!』なんて思っているのかもしれません。
もしそうなら……気持ちは分からないでもないんですけど、正直彼女たちの気分なんてどうでも良いんですよね。そもそも、気に入らないなら睨んでいないで直接言いにくればいいんです。
ま、もし喧嘩を売ってきたら、身ぐるみ剥いだ後で彼女たちの所持品をそれ系が好きな人たちが集まるお店に売るだけの話ですけど。もちろん顔写真付きで、ね。
なにせ身体を売る前の非常手段として考えていましたからね。お店や相場はしっかりとピックアップしているんですよ。それに鑑みれば青いのや赤いのであれば結構なお値段になるはずなんですよね。
「ふ、ふふふふふ」
早く喧嘩を売ってきてくれませんかねぇ? なんなら今からでもいいですよ。人目に付かない場所に呼び出してくれれば最高なんですけどねぇ。
「木下さん……怖い目をしていますわよ? それに涎も」
「おっと、失敬」
危ない危ない。色々出ちゃってましたか。
「大丈夫です。私はあくまで被害者ですからね。青いのとか赤いのに絡まれる事なんて望んでいませんよ?」
「……そうですか。まぁさしものお二方も今の貴女に絡もうなんて思わないと思いますわ」
「えぇ?」
「なんで残念そうなんですの?」
「そりゃ、ねぇ?」
「ねぇ? と言われましても……」
師匠が借金を肩代わりしてくれたおかげで利子もなくなったし、返済を急かされることもなくなりましたけど、借金まみれなのは変わりませんからね。臨時収入が欲しいんですよ。本気で。切実に。
ま、来ないなら来ないで静かにご飯を食べられるってことですから悪くはないんですけどね。
今まではその辺の食べれる草を混ぜたオニギリだけでしたから、お母さんも「ごめんね」なんて謝りながら渡してきたんですけど今日のお弁当は違いますよ! なにせ出発前にお母さんが笑顔で「今日のお弁当は凄いわよ~」なんて言いながら渡してきたくらいですからね!
何でもないようなことが、こんなに幸せだったなんて思いもしませんでした。きっと今ごろアオイも同じようにお弁当箱を見ながら涙を我慢してるんだろうなぁ。
師匠には本当に頭が上がらないですよ。本当に。
「(怖い笑顔を浮かべたと思ったら急に涙目?)木下さん。何か嫌なことでもございましたか?」
グシグシと目元を擦って、さぁご飯を食べよう! と思ったところに園城寺さんがエントリーです! うん。普通に心配してくれたのでしょうが、まさか『周囲の人たちに見られないようにコソコソとトイレに行って一人寂しく便所メシをしていたのが嘘のようだなぁ……』なんて言ってもリアクションに困りますよね。
「いえ、少し昔を思い出しまして」
かと言ってあまり関係ない話をしても変な奴と思われるでしょうからね。そんなわけであえて曖昧に言ってみます。私のことを調べたというなら後は向こうで勝手に勘違いしてくれそうですし。
「昔の? ……あぁそう言えば木下さんのお父様は」
「まぁ、もう過ぎた事ですから。ただ、たまにふと思い出すんですよね」
「そうですか……ご苦労なされてきたのですね」
「……えぇ。本当に」
ほらね。なんだかんだで気遣いが出来る人みたいだったからこの方向で間違ってなかったようです。そもそもお父さんが死んだのは1年以上前だし折り合いはつけてます。だから寂しくないか? とか言われても別に寂しくはないんです。
今はむしろ「お前がクソ野郎に騙されたせいでお母さんが苦しんだんだよ!」って怒鳴りつけたいくらいなんですよねぇ。
いや、恨みはありませんよ? むしろ頑張って育ててくれたんだから感謝だってしています。だけどこの1年半を振り返ればどうしても感謝よりも怒りが込み上げてくるんですよ。
だって、私はまだしもアオイまでがあのクソ野郎に手篭めにされていた可能性を考えると、どうしても……ねぇ?
態々ここにいない人を思い出してしんみりする必要もないでしょう。ご飯は美味しく食べないと!
で、そのためには片付けておかないといけないことがあります。
「私は構いませんが……その、大丈夫なんですか?」
青いのと赤いのは龍造院君のところに行ってますけど? という意味を込めて向こうをチラ見すれば、園城寺さんも私が言いたいことに気付いたようで、苦笑いをしながら私の疑問に答えてくれました。
「あぁ。『木下さんとお友達になりましたから今日は木下さんとご一緒しようかと思います』とお伝えしたら『そっか、木下さんによろしく』って言われて笑顔で送り出されましたわ」
それはまた、なんと言うか……。
「私としても園城寺さんとご一緒するのは嬉しいことですよ? 嬉しいことなんですけどねぇ」
「なにか?」
「こう言っては何ですけど、龍造院さんはもう少し女心を学んで欲しいかなって」
龍造院さんが青いのと赤いのを引き連れてこられても困りますので、こうして園城寺さんを単独行動させてくれたことは評価しますよ? けどね? 園城寺さんが持っている重箱だって元は龍造院さんと一緒に食べる為のサイズでしょ? 少しは気を使えよ! ってお話です。
「……わかりますか?」
「モチのロン。むしろわからないのがいるんですか?」
「いるじゃないですか。あそこに」
「……でしたね」
一気にしょぼーんとしちゃいましたけど、やっぱりお嬢様でも一人の女子ですからねぇ。というか久し振りに登校した私でさえ園城寺さんと青いのと赤いのが龍造院さんにベタ惚れだってのは分かりましたよ。
まぁ、実のところそれが分かったのはついさっきなんですけどね。
いやはや『園城寺さんが彼と一緒にご飯を食べない』ってわかったときの、あの二人が見せた勝ち誇ったような顔がね。あれが全てを物語っていましたよ。
うん。つまりは三人は仲良しなのではなくてお互いが抜けがけをしないように監視してるんですね。
でもって青いのと赤いのが私を敵視しているのは、おそらく園城寺さんから私の家庭の事情を聞いた龍造院さんが私に同情したからでしょう。彼女たちの中では『自分たちが惚れた男に同情されるなんて生意気だ!』とか『ライバルになっても困るから排除しよう!』っていうのが、あの敵意の元なんでしょうね。
しょーもな! 女子高生らしいといえばらしいんですけど、勝手に勘違いして勝手に敵視されても困りますよ。
あ、そうだ (唐突)
「ところで園城寺さん?」
彼女だけでも今のうちに誤解を解いておきましょう。
「はい? といいますか、急に小声になってどうしたんですの?」
そりゃ大声で話すことでもありませんからね。
「私には心に決めた男性がいますので、安心してくれていいですよ?」
当たり前ですよねぇ? だって私は師匠一筋なんですから。
「……え? あ、そ、そうですか!」
とりあえず将来依頼をくれるかもしれない彼女に勘違いされたままっていうのも困りますからね『私は龍造院さんを巡るライバルにはなりませんから安心してください』と伝え、敵じゃないアピールをしておきましょう。
三角関係だけでも面倒なのに四角とか五角とか、正直関わりたくありませんしね。
「そうなんです。ですから相談とかがあったら乗りますので、お気軽にお声がけ下さいね」
この人と縁があっても悪いことはなさそうですし。今のうちから営業努力はしておくべきでしょう!
「え、えっと……あ、ありがとうございます」
なんとも言えない表情で俯いていますが、わかりますよ。恋愛相談ってなかなか難しいですもんねぇ。ライバルなら愚痴を言い合うことは出来ても、出し抜くための作戦とかは立てられませんしね?
とりあえずそういう話は後にしましょうか。今は食事の時間ですからね。
「さて、ではお昼を頂きましょうか。あ、そちらのお重、もし食べきれないようでしたら私も頂いてもよろしいですか?」
むしろ食べさせてください。
「あぁ、それは助かりますわ。お恥ずかしいお話なんですが、流石に1人で食べるには量が多くて」
そう言ってはにかむ園城寺さんですが、そういう自然な表情を出していけば大抵の男子は落ちると思いますよ? なんてどうでも良い事を考えてみたりなんかして。
「お任せください。余すことなく頂きますから」
お残しはしませんよ。冗談抜きで。
だって、そのお弁当は一流シェフ(推定)がお嬢様の為に作ったお弁当でしょう? 素材も料理人も一流のお弁当なんて最高じゃないですか! ぜひ味見させてくださいよ!
そんな心からの願いを微塵も感じさせず粛々と準備をして、いい加減ご飯を食べようとしていたんですけどねぇ。
「へぇ? 余るなら俺が貰ってやろうか?」
頂きますをしようとしたら、何故か横に座っていた男子が口を挟んできました。
「……結構ですわ」
「遠慮すんなって」
ここに、ニヤついた顔をして私たちを見る男子と、嫌悪感を隠しもしない園城寺さんの図が出来上がってしまいました。
「はぁ」
……私はいつになったらご飯を食べられるんですかねぇ?
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