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㉓ 主人公観戦する/少女、戦う②

「うらららららららら~!」


「「「「ギャギャギャ?!」」」」


両手にこん棒を持ち、奇声を上げてゴブリンに奇襲攻撃をかます女子高生。うむ。今日もいい天気だ。


反省会から二日。昨日簡単な立ち方やこん棒を使った攻撃方法。攻撃を受けた際の心構えなどを叩き込んだので今日はその実戦をしに来たのだが、随分と調子が良いようだ。


「一匹! 二匹!」


普通の女子高生なら、いくら軽いとはいえこん棒の両手持ちなんかできないのだが、やはり力がFの素体は素晴らしい。まるで小枝のようにこん棒をふるい、無駄なく撲殺していく今の弟子の姿を見れば初日の無様な姿など微塵も感じられない。


「ギャ!」


「甘い!」


「ギャギャ!?」


余裕があるから周囲も見れる。周囲も見れるから攻撃も見える。ゴブリンCからの攻撃を左手に持つこん棒で防ぎ、反撃すると見せかけて移動することで隙を伺っていたヤツからの挟み撃ちを防ぐ。


うむ。小回りが利く相手には止まらないことが大事。俺の教えをきちんと守っている。まぁ理想としては体ごとの移動ではなく、紙一重での回避&反撃だが、今はそこまで期待しない。


そもそも実力がない奴がやる紙一重の回避はタイミングをずらされただけでピンチに早変わりするからな。今は安全マージンを多く取りすぎるくらいで丁度いい。


そして移動されたことでフルスイングの攻撃を外したゴブリンDは、弟子に対して馬鹿デカイ隙を晒してしまっている。たとえるならデンプ〇ーロールに対して距離を取られた感じだな。


「ダッシャーー!」


そして距離を取られたデンプシーの使い手は……


「グギャ!?」


完全に隙を晒して阿呆面を晒したゴブリンDの頭にフルスイング返し! ゴブリンは死ぬ! ……冗談抜きで死ぬわな。


「これで3つ! さぁゴブリンC! 一昨日前みたいに私を汚せると思うなよっ!」


「ギャーギャー!」


力強く宣言する弟子に対して、完全にとばっちりをうけた形のゴブリンは「理不尽だー!」と言わんばかりの叫び声を挙げつつ、その手に持つこん棒を振り回して、弟子が近付かないようにしている。


うむ。ゴブリンCは間違ってない。色んな意味で。


「ギャーギャー抜かすな! 無駄な抵抗は止めて首を出せ!」


「なんて無茶言いやがる」


そもそも悠長に会話なんかかしてる余裕は……いや、もしかしてあぁして声を己を奮い立たせないと駄目なくらい怖いのか。


良く見れば弟子の手や足が震えているし、視線も倒れたゴブリンに対して何度も向けている。今は勢いに任せて戦っているが、やはり前回の経験が有るし、何だかんだで先日まではただの女子高生でしかなかったんだもんな。


誰だって命のやり取りは怖い。生き物を殺すということに関しては金や生活の向上を目的にして克服したかもしれないが、ストレスの要因になるのは同じだし、そもそも何が有るのかわからないのが壁の外の世界だ。


こうして目の前にいるゴブリンだけじゃない可能性も考えたら、そりゃ怖いだろう。


事実、相手の援軍は俺が抑えてることは教えてないからな。その辺の余裕を与える気は無い。このストレスには早いうちに慣れておかないと駄目だし、他人に甘えて隙を晒すようじゃ壁の外の探索は不可能だからな。


第一、こうして横から見ている俺だってな。敵の罠を見落としたり、予測もしないところからの乱入をされて裏をかかれる場合だって有る。それらへ警戒をすれば弟子への警戒が甘くなる。だからアイツはアイツでしっかりと気を張らなきゃ駄目なんだ。


弟子がゴブリン相手に油断して痛い目に遭うのは勉強で済むが、俺が油断したら……アイツは死ぬか、良くて苗床だからな。


それに一昨日のゴブリンといい、今日のコイツらといい、同じパターンの連携だ。つまりはコイツらはこの前の連中と同じ群に属するゴブリンである可能性が高い。


「おぉーかぁーねぇーにぃーなぁーれぇぇぇ!」


そう言って残ったゴブリンに上からこん棒を叩きつける弟子。これで本日四体目か。何だかんだでしっかりと一人で殺れてるし、もう少ししたら四体以上のグループと戦わせてもいいかもな。


うむ。昨日一日だけの座学と教練ではあったが、本人に殺る気があり、さらに基礎の基礎だけを教えたから最低限のことはできている。


「勝ちました! 今回は間違いありません!」


四体のゴブリンを吸収して、誉めて誉めてーと言わんばかりに俺の元へ走ってくる弟子。


ゴブリン四体を抱えても走れるなら、次は重さの限界に挑戦させるか?

あれを知っているのと、知らないのだと全然違うからな。




―――



木下視点。


今回は無傷で勝ちました! 死んだふりを警戒してきちんと死体を吸収したので間違いはありません! そう言って師匠の元に走る私。


ちょっとゴブリンが重いかな~と思いますけど、この程度なら問題なく走れます! ただバランスとかが崩れるのでポンポンと収納するのは危険なのかもしれませんね。


「うん。よくできていたな。こん棒の使い方も中々様になってたし、この調子で油断せずに数をこなしていこうか」


師匠はそう言って褒めながら私の頭を撫でてくれます。なんというか扱いが犬みたいですけど、今はそれでも良いです!


……なにせ一昨日は汚物を抱えるような感じでしたからねぇ。


俵持ちされて運んでもらっている間の記憶はあまりありませんが、あの映像の中の私は何というか、非常にアレでしたしね。あんな感じで汚れてしまった私を抱えてくれただけでも感謝するべきだとは思うんですが、やはり女子としては色々と思うところがあるわけでして。


ま、まぁそれももはや過去のことです! 最初は素手だったからどうしても臭いとかが付着したんですけど、今回からこん棒を使わせてもらってますからね! これで汚れは激減ですっ!


最初は「師匠から武器を借りれたら楽に倒せるのになぁ」なんて思ったんですけど、自分で手に入れた武器を使ってこその探索者ですからね。


そう考えれば、私の初めての収穫ともいえるこの「こん棒」にも愛着が湧いて来るような感じがしますよ!


それに、師匠が言うにはこれを使ってゴブリンを狩ればその分だけこん棒も強くなるって話ですからね! 私もプロの人たちが最初に手に入れた魔石やこん棒を大事に飾っているって話を聞いたことありますから、コレを粗末に扱うつもりはありませんよ!


(うわぁ)



――真顔で先ほどゴブリンを撲殺したばかりのこん棒を抱きしめ、愛おしそうに撫でる女子高生にドン引きした少年が居たとか居ないとか――



「…ハッ!」


 なんか師匠が私から距離を取ろうとしている気がします!


っていうかダメダメ! ここは壁の外で、今は訓練中! そして今の私は可愛いだけの女子高生ではなく、師匠の弟子で探索者見習いです!


ならば私はしっかりとスイッチを切り替えないといけませんよね!それに師匠がこれからの修行内容に関するヒントをくれました!


「数をこなす。つまり、この重さを抱えながら戦ってみろってことですか?」


「そうだ」


私がそう聞けば「そのとおり」と頷く師匠。


さっき戦闘したばかりでこの内容は厳しいとも思えますが、所詮ゴブリンは1匹100円。普通に考えれば分かることですが、4匹殺したからと言って満足してるわけにはいきません。


かといって死体を捨てるのは勿体無い。私の強化と素体の強化は必須です。だからここはできるだけ数をこなすべきなんでしょう。


「まずはこの一週間で100匹を目標にする。で、来月の訓練で200匹だな」


「なるほど!」


具体的な数が出てくるとやる気が出ますよね。今が8匹ですから残り92匹! 1回で4匹の群れなら残り23回でノルマ達成です。でも…


「ですけど、次のノルマは来月になるんですか?」


いや、一度引越しとかの為に戻るのはわかるんですが、それが終わったらぶっ続けでやった方が良さそうなんですけど? ……その方がお金も貯まるし。


「ノルマって言い方はアレだが、俺たちには学校があるからな。遠征の許可は通常で三か月に10日くらいが上限なんだとよ」




私の言葉に「うむ」と腕を組んで頷く師匠。なんか一々動作が大人びてると言いますかなんと言いますか「……ほんとに同い年?」って思う時があります。まぁそれで困ることがあるわけではないので別に構いませんけど。


「へー。そうだったんですか」


でもって学校についてです。私としては師匠に弟子入りできた時点で学校に未練は無かったんですが、師匠は学歴目当てですもんね。そりゃ戻らないといけません。


むぅ……こうして遠征に出られない間、お金をどうやって稼ぐかを考えないといけないですね。師匠はお母さんに職を用意してくれるらしいですけど、私にも何か紹介してもらいましょうか?


「そうなんだ。あそこは基本的にプロの探索者を育成するための学校だから『探索者としての成果が出せれば学校に来なくても文句は言わん』と言いたいのだろうが、他の生徒との兼ね合いも有るからな。他の連中に『抜けがけはズルい!』とか言われるのも馬鹿臭いし、変に拗らせてた学生が現場に出ることになったら困るって感じだったな」


「あぁ、なるほど」


私の金策はともかくとして「お行儀よく授業受けて、卒業したけどEランクです!」ってよりは「あんまり学校には通っていませんでしたけど、在学中に頑張ってCランクになりました!」って方が学校としては実績になりますよね。


そんでもって卒業生の紹介のときに態々授業態度に対して言及するようなことはしないでしょう。基本的には「卒業生には現役の○ランクハンターが何人!」とかそんな感じです。


ただ、それだと学校の意味が無いからそれなりに出席しなさいってことなんでしょうか。


成績も基本的には知識よりも実技重視みたいだし……あぁいや、罠とか魔物に対する基礎知識は絶対に必要ですね。師匠が教えてくれると言っても、学校で学べることは学校で学んで、学べないことを師匠から教えてもらうのが効率的でしょう。


フッフッフッ、つい効率に付いて考えてしまうのは優秀な探索者たる私の悪い癖ですね!


「ドヤ顔してるところすまんが、ホレ、獲物だぞ」


「ほほう。来ましたか。次の得物がって……え?」


そう言われて師匠が指差す先を見てみれば


「「「「「「ギャギャ!」」」」」」


こん棒を振り回す緑のゴブリンが1・2・3・4・5・6…って6匹?!


「いや、師匠! 今の私、重いんですよ!? それなのに6匹って!」


体重とかじゃなくてゴブリンの重さですけど! っていうか私ってまだ二回しか実戦経験してないんですけど!


「4匹相手じゃ負けないってわかったからなぁ。そんな戦闘は無意味、とまでは言わないが、油断を生むだろ? でもって個体の能力に違いがない以上は数を増やすしかないだろ?」


「いや、それはそうかもしれませんけど!」


「大丈夫大丈夫。ステータス的には負けないんだから、しっかり殺ってみせろ。とりあえずは援軍は来ないようにしてやる……いや、これだと甘すぎるかな?」


あぁ~。この「何言ってんだコイツ?」って顔が出たらもうダメです。師匠の中ではこれが当たり前。っというか、これでもかなり優しいみたいなんですよね。


確かに追加でゴブリンが来ないのはありがたい話だし、私の経験にもなるでしょう。それに一回4匹よりも6匹の方が効率良いですもんね!


「結局のところ数が増えてもゴブリンだ。防具があるわけでも無ければ特殊な存在でもない。つまり当たれば殺せる。油断なくいけばいい」


この信頼というか何というか……こんなのを受けてしまっては弟子として無様な姿は見せられませんよ!


「分かりました。では師匠の弟子として恥ずかしくない戦いをお見せしましょう!」


両手にこん棒を展開した私はそのまま両腕を畳み、体の前でこん棒を交差させます。そして右足を前に出し、やや前傾姿勢になって、相手に突っ込む構えを取りました。


「「「「「「ギャ!?」」」」」」


フフフ、この構えをとらせた時点でキサマらの負けは決まったのだ!

なにせこれは鉄壁な防御と爆発的な攻撃を両立させた最強の構えなのですから!


このまま突っ込んでいって、集団の真ん中でドーン! って感じで振り切りれば2匹殺せた上で流れをこちらに向けることができるんです! これこそ私が考案した必殺の構えからの必勝パターン!


「覚悟しろゴブリン! 雑魚がいくら群れようとも所詮は雑魚なんだってことを教えてやるっ!」


「「「「「「ギャギャギャ!!!」」」」」」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


くたばれゴブリンっ! そして大人しく六百円になれぇ!

閲覧ありがとうございます



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