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㉒ 主人公、押し付ける/少女、食べる

何か勘違いして『ひょえー』って感じの顔芸をしている弟子はさておくとして、まずは反省会と手に入れたものの確認だよな。


あわあわしている弟子を連れて地下の、なんて言えば良いんだろうな。東京ドームの地下6階に有ると言われる地下闘技場っぽい場所で、今回の戦利品を出す。(ちなみに地面はコンクリで舗装してある)


「今回は俺の判断ミスもあったから俺が戦利品を運んだが、今後は自分で運べよ」


そう言ってゴブリンの死体×4と、連中が装備してたこん棒を取り出す俺。本来なら弟子が殺したのは3体なんだが、今回はご祝儀みたいなもんだ。


「えっと、ここでコレを出されましても……」


地下室に無造作に並べられるゴブリンの死体を見ながら、何とも言えない顔をする弟子。


ゴブリンCに関しては頭がないが、他の三体は首の骨が折れてるだけだしな。なんというか、死体置き場って感じの印象が強くなるのは、仕方ないことだろう。


「別にゴブリンを検死しろだとか、解剖しろと言っているわけじゃない。今のお前には素体があるんだぞ? まずはさっさと強化せんといかんだろ」


その為に態々持ってきたんだしな。


「……」


返事がない。言われた言葉が頭に入って来なかったのか、フリーズしているようだ。


間抜け面晒してると写真撮るぞ?


「そ、そうだ! 素体ですよ! 師匠、借金はダメです! いくら未来の妻である私の為とはいえ、そこまでしてはいけませんマサオッ!」


再起動したと思ったら無駄に勢いよく突進してきたんでデコピンをくれてやったが……だれが未来の妻だって? 最初は娼婦っぽかったのに、さりげなくランクアップすんな。


「あ~う~」


毎回車田落ちさせて気絶させるのもアレなんでかなり手加減したデコピンだが、それでも痛いものは痛いのだろう。勢いは完全に失われ、涙目でデコをさすっている。


「そもそも弟子が心配するような借金なんざしとらんわい。普通に買ったヤツだから、いらん心配するな」


まったく、何を一人で慌ててるかと思えばその心配かよ。


確かにオーダーメイドされた素体なんて市場には売りに出されないし、あの市松人形もそんなの早々作ったりはしないからな。


今回はそれなりに顔見知りなのと、俺が持ち込んだ魔石の代金が大きいのだろう。


なにせBランクの魔石の価値はCランクの10倍と言うだけのモノではない。例として出すなら、その辺で千円とかで売っているワインより10倍美味いワインと言うのは、1万円では買えないのが普通なんだ。


旨さは11~12倍。喜びも14~15倍。だけどお値段は1万倍ってヤツだ。


人間には魔石の味はわからんが、市松人形にしてみれば久しぶりのご馳走って感じなんだろうさ。だからこそ多少の無理を聞いてくれたわけなんだが。


とは言え俺もBランクの魔石を大量に持ってるわけではないので、何気に痛い出費ではあったのは確かだがな。ま、いずれ自分でBランクの魔物を倒せるようになったら返してもらうさ。


それはそれとして


「普通? 数千万円が普通? ふつうってなに?」


さっさと壊れかけの女子高生を修復させてやらんとな。こんなんじゃいつまで経っても話が前に進まんよ。


ちなみに弟子の素体は材料費が数千万だからな、販売価格はもっと高いぞ。


そんなこと言ったら固まるから言わんけど。



―――


木下視点


「はえー」


し、師匠が借金したわけじゃないと聞いて安心しましたけど、数千万円の素体を普通に買って普通に移植するって……お金って持ってる人は持ってるんですよねぇ。


いや、私たちもお父さんが死ぬまでは貧しいってわけでもなかったから、本当にお金で苦労してる人たちからしたら「寝惚けるな!」って言われるかもしれませんけど。


いや、まぁこの件は了解しました。お金に関しては働いて返せというのも了解です。諸々落ち着いたところで残るのはこのゴブリンですよね。築地のマグロめいた感じで並べられてますけど……


「コレ、どうするんです?」


「まず素体にモノを入れることからだな。基本的に素体の中に入れるモノに関しては制限は無いんだが、それらについての知識は有るか?」


そう言って、今まで素体の素の字も知らなかったような学生である私に素体についての基礎知識を確認してきた師匠。アレですかね? 学生には関係ないから知らないと思ってます?


ふふん。残念でした! 売ったらいくらになるかなぁ~って妄想してたので、そのくらい調べてるんですよ!


「はい、大きさも質量も、固形物だろうが液体だろうが関係ありません。その容量はまさしく『無限』です。だけど重さはそのまま、なんですよね?」


昔の探索者が試したらしいんですが、調子に乗ってビルだの車だのを入れるとその重さで潰れるんですよね。だから本当の意味で無限として使えるのは特殊な部屋に置かれている迷宮型のダンジョンコアだけなんだとか。


「うん。その通りだな。だから着替えやら何やらのように重くはないが嵩張るものを持ち運ぶのには重宝するが、特殊弾頭を放つ為の重砲だの何だのを持ち歩くにはそれなりのレベルが必要になる」


「いや重砲って」


まさか持ってるんですか? 不安を覚えて師匠を見るも、向こうはニヤリと笑うだけ。


だけど今の表情だけで分かりました。うん。この人絶対に持ってますね。特殊弾頭の弾頭にナニが使われているかはわかりませんが、これは聞かない方が良さそうです。


「俺の持ち物についてはいずれ話すこともあるかもな。ただ今は『重い武器や大量の水なんかを持ち歩くためにはそれに耐えられる力が必要だ』って話を理解してれば良いさ。そしてここからが修行の本題である強化についてなんだが、基本的な探索者の強化方法は知っているか?」


おぉ、なんかこうして問答してると師弟って感じがしますよね! もちろん返事はイエスです!


「はい! 日々の鍛錬と魔物を殺して強化すること! そして素体を強化することです!」


自信満々に私が言えば、師匠も「その通り」と頷いてくれました。 いやぁ簡単でも問題に正解するって良いですよね! さらに正解者には何かあったら最高なんですけど何か無いんですかね?例えば1問正解で100円とか!


「うむ。良く勉強してるようで何より。その中でも特に重要なのは日々の鍛錬だが、人間である以上その肉体強度には限界があり、どうしても頭打ちになってしまう。そこで魔物を殺すことで魔力的なモノを取り込んで自己の強化をするのと、素体を強化することでその壁を越えるわけだ」


「おぉ! レベルアップですよね!」


魔物を倒してレベルアーップ! って昔アニメでやってましたよ!


「まぁ、呼び方は人それぞれだが、そういうヤツも居るらしいな」


苦笑いしながら話を続けようとしてますけど、師匠はレベルアップ派じゃなくステータスアップ派なんですかね?


「呼び方はともかく、魔物を倒したときに相手から魔力的なモノを吸収して強くなるのは確かだ。その成長率には個人差が有るが、大体ゴブリン一匹の討伐で百グラム前後握力が増すらしい」


ほほぉ。それは初耳です。教本にはありませんでしたが、これはアレですね? その情報を聞いた新米の狩人が、簡単に自らの成長を求めてゴブリンに挑まないようにしてるんですね?


さっきのでわかりましたが、ゴブリン一匹は簡単に殺せても、集団を相手にするにはそれなりの基礎能力が必要です。だけど、ふと気になったんですけど。


「それならゴブリンだけ倒してれば、いずれ世界最強になれるんですか?」


私としては世界最強なんかに興味は有りませんが、楽してお金儲けはできそうですよね? 一匹100円なら一万匹で100万円です。


…いや、毎日ゴブリン仕留めても一万は無理ですね。しかもそれだと年収100万以下になっちゃうし。だけど最初の一年くらいはゴブリンに専念しても良さそうですよね?


私の質問に対して更に苦笑いをする師匠。っていうか、師匠って何気に表情豊かですよね。 第一印象で「人間味が薄い」とか思ってスミマセンでした!


「残念ながらそれもない。昔のOTA……探索者はレベルキャップという表現をしていたが、ある一定以上になると力の上昇率がガクンと下がるんだ。ゴブリンの場合だとFランク(握力で言えば50~100)を卒業したあたりだな」


「はぇ~」


私の内心はともかくとして、意外としっかりとした数値が有るんですねぇ。


「だが逆に言えばゴブリンを討伐するだけでもEランクには届くということでもある。だから今回の目的は複数のステータスをEランクにすることだったんだ」


「い、Eランクですか。予定は一週間でしたよね?」


お父さんが長年Dランクだったことを考えれば、かなりの飛躍。というか、何かズルいような気もしますけど……私の気持ちなんかどうでも良いですね! まずはお金ですよ!


だけど、「Eランクにすること()()()」って何ですかね? 過去形ということは今は違うのでしょうか?


「そうだな。今の弟子には素体も有るから、それほど難しい話じゃない。だがさっきの戦闘で、お前にはステータスを向上させる前に基礎の基礎を教える必要が有ると判断した」


「基礎の基礎、ですか?」


「あぁ、簡単に言えば自分の体の動かし方だな。分かりやすく言えば構えとか攻撃の仕方。間合いの取り方や詰め方。自分に何ができて何ができないかの確認。それと素体の有効利用方法ってところか」


「な、なるほど!」


確かに私は学校に入ったばかりで、探索者としての素養や知識はあっても戦うことに関しては完全に素人です。武術の下地すらない私には、全てが足りていませんよね。


「本当の基礎である身体能力は素体を移植したことでクリアしている。ゴブリンを殺した事に対してのトラウマ的なのはなさそうだから心構えも問題ない。結果論になるが、いきなり技に入れるということがわかったのは失敗だらけの初体験の中でも良い発見だと思っているよ」


「そういえば私、ゴブリンを素手で殺してましたねぇ」


ふと視線を移せばそこには私が殺したゴブリン三体と師匠が殺したゴブリンが一体が転がっています。


うーむ。罪悪感とかよりも100円にしか見えません。これは私が異常なんでしょうか? それともゴブリンの死体に罪悪感を覚える方が異常なんでしょうか?


……あ、いや、違う! そうだ! それより先に確認しないと! 私としたことが最初に確認するべきことを忘れていました!


「えっと、コレってどうやったら換金できるんですか?」


ゴブリンを指差して確認を取ります。そう。コイツら一匹100円になるんですよ!


「ん? あぁ……本当に逞しくて何よりだ。うんうん。女は強いねぇ」


しみじみと呟いてますが、そーゆーのは後で良いですから! ハリーハリー!


「学生証がギルドカードの代わりになっているはずだから、お前の学生証に討伐履歴が載っているはずだ。ゴブリン討伐は常設の依頼だから、場合はギルドで更新すれば褒賞金が出る。討伐証明とかはいらんぞ」


「が、学生証ですね!」


そういえば色んな機能が有るとは聞いてましたが、まさかギルドカードと同じような性能まであるなんて。うむ、この学生証って中々に便利ですね!


そう思って胸ポケットから学生証を取り出して見てみれば、確かに今まで無かった「討伐履歴」という項目が有りました!


「確認したな? 基本的に討伐するだけで褒賞金が出る賞金対象の魔物はこれだけで金が貰える。ただこれは止めを刺したヤツにしか履歴が載らんから、パーティーで賞金首を倒した場合の利益分配なんかには使えない。そのへんはちゃんと注意するように」


「ほほう」


言われて確認してみれば、なるほど。確かに私の履歴はゴブリン×3です。師匠が殺したゴブリンCに対しては私もダメージを与えていましたが、それは討伐数にはカウントされていません。


ふむ。この仕様だとパーティーを組んだ時の取り分で揉める場合があるというのも無理はないかもしれませんね。


「ついでに言えば、それは自分が魔力的な何かを吸収した時にカウントされる。またどれだけ近くに居たとしても、自分で魔物を殺さないと強化はされないぞ」


つまりサポート役の人はいくら頑張っても強化されない。ということですかね? 格差社会といいますか何といいますか。


「だからパーティで大物を狩るときはきちんと話し合いをしておかないと駄目なんだよ。報酬だけならまだしも強化は一生ものだからな」


「それは、そうですよね」


みんなで命懸けで大物を倒したのに、強化されるのは一人だけってなったらどうしても不公平感は出ますから。私だって基本的にはお金だけもらえれば良いですけど、それでも強化できるなら強化はしたいですもんね。


「それに関しては今すぐどうこうなることは無いが、一応覚えておけ。そして本題の素体の強化についてだ」


「うっ」


なんとなーく分かっていましたよ? ただできるだけその話題に触れたくなかっただけで!


「予想してるように、魔物を取り込むことで強化される。これは『捕食』と表現される場合もあるな」


「やっぱり!?」


というか『捕食』はやめてくれませんかね!? イメージ悪すぎでしょ! 地下室に私の声が響き渡りますが、残念ながらここには私に賛同してくれる人はいません。


「ハイハイ、とりあえずゴブの死体を素体の中に入れてみろ。素体自体は胴体部分に移植しているが、移植された素体は完全に同化するから手でも足でも、なんなら口からでも死体を取り込めるぞ」


「軽く流された!?」


 それにそんな小ネタは要りませんよ! いや、場合によっては凄く役に立つ情報なんでしょうけど、今は要らないっ!


「さっさと食え」


「くっ」


本気でこの、異臭塗れでぐでーっと舌を出して倒れている緑の物体を捕食しなきゃ駄目なんですか? それも生で? いや、煮ても焼いても食べられるとは思っていませんけど!


「いいからちゃちゃっと取り込め。そんでもって自分の中にある素体に対して捕食……まぁ消化でも何でもいいから、そういうのをイメージしてみろ。慣れれば袋に入れたまま、中身だけを吸収できるようになるが、それまではこのままだな」


そう言ってる間にも、師匠によって片手で持ち上げられたゴブリンがグリグリっと押し付けられます。洗濯したばかりの学生服に擦りつけられるゴブリンの死体! くぉれはとりあえずさっさと取り込まないと臭いとか汚れが残るパターンですよね!?


洗濯だってタダじゃないし(密かに下着を洗おうとしたけど動かなかった)洗濯しないにしてもゴブリンの臭いが染み付いた服を着る女子高生なんてアレ過ぎますよ! ……かといってゴブリンを体内に取り込むのにも抵抗が……そう思ってまごまごしていれば師匠がより強くゴブリンを押し付けてきます!


「おい待てヤメロッ! 心の準備を! 心の準備を~!」


「やかましい。さっさと受け入れろ」


嘆願する私を冷たい一言で切り捨てる師匠。いや、頭ではわかっているんですよ? 強化に必要だし、素体に入れることができないと今後何もできませんからね!


「だけどゴブリンは……この緑の物体を受け入れるのは抵抗がぁぁぁぁ!」


「……埓があかん。口から行くか?」


「ぼそっと怖いこと言わないでくださいっ!」


女子としての何かがそれを拒否してるんですってばよ! だけどこのままではゴブリンがベチャッてなって、制服に汚れや臭いが染み付いた上に、各部が破損したゴブリンだったモノを口から収納(捕食とは絶対に言いません!)させられます! 師匠はやると言ったら絶対にやるでしょう!


……口からは絶対にダメです! 女子としてどころか人として!


「ぐ、ぐぬぬぬぬ」


覚悟を決めた私は師匠に押し付けられるゴブリンを徐々に体内に取り込むように受け入れて……そうして完全に1体目のゴブリンを収納したとき、私の中にゴブリンの死体が有るのがわかるようになりました。


この重さ、この質感。そういった諸々の理解したとき、私の中で何かが「終わった…」と呟いたのが聞こえた気がしました。


「よし、ようやく受け入れたか。その調子で残り3体行こう。でもってそれを吸収したら今日は飯食って座学だ。明日は基礎的な体の動かし方を勉強するからな」


一体目を受け入れたことを確認した師匠は、次なるゴブリンを掲げながらそんなことを言ってきます。


確かに師匠にしてみたら『この程度でガタガタ抜かすな!』って話なんでしょうけどねぇ?


「いや、もう少しなんかこう、ないですか?」


優しさとか、フォローとか!


「ん? あぁ消化についての説明がまだだったな。速度的には慣れが必要だが、途中経過が分かったりはしないし、胃もたれとかも無いぞ? だから心配するな」


「へ、へぇ~途中経過がないんですか? それは良かったです」


いや、実際有ったらグロイですもんね。


思ってた優しさとは違いますけど、それはそれで嬉しいフォローでしたんで、なんとも言えません。


「だな。ちなみに消化したら、いきなり『ひゅん』って消える感じだ。ま、それも経験してみればわかるさ」


「なるほどなー」


……安心しましたけど、そういう事じゃないっ!


この人、話をしながらもゴブリンを一切の容赦なく押し込んで来ているんですよ!


その結果、私の視線の先には私の体と師匠の手に挟まれ頭の形を歪な形に変えながらも、つぶらな瞳でじっと私を見ている二体目のゴブリンが……。


うん。もう諦めました。


「お、入った入った。うむ、さっきより早いな! やっぱり一回経験すれば慣れるもんだよな!」


「慣れたと言いますか諦めたと言いますか……」


朗らかな顔して追加のゴブリンを掲げないでください。


だけど今の笑顔を見て分かりました。師匠には完全に悪気とか無いんです。純粋に私の強化と、やるべきことをやってるだけでした。


はぁ……そんなの知っちゃったら文句をつけられないじゃないですか。


溜め息を吐きながら3体目、4体目と取り込み、言われたように内部で消化するイメージを固めます。


「う~ん、何といいますか」


取り込む時とは違う感じの抵抗がありますけど、それもこれも全部私が強くなるために必要なことですからね。諦めます。


「よし、終わったな。そんじゃさっさと晩飯の準備でもするか。あぁ、弟子は休んでるといい。まずは素体に取り込むことと吸収する感じをしっかり覚えろ」


「あ、はい。よろしくお願いします」


そう言って手渡されたゴブリンの持ってたこん棒を私の素体に収納し、地下室から出て上のダイニングに向かいます。


そして部屋に備え付けられたソファーに座りながら、体内で消化されつつあるゴブリン4体分の重さを感じ「コレが命の重さかぁ」なんて現実逃避気味に考えてると、師匠は奥に言ってさっさと今晩の食事の準備をしてくれます。


こういうのは本来なら弟子の私が支度するべきなんでしょうけど、今は流石に余裕がありません。それを知っているからこそこうして何も言わずに率先して食事の準備をしてくれてるんですよね。……何だかんだで優しくて面倒見の良い師匠です。


はぁ。


急にギルドの支部に行ったり、4体のゴブリンと戦わされることになったり、素体を移植されてたり。


「こうして考えると随分と濃い一日を送っているなぁ」


今の自分が置かれた状況に思わず苦笑いをしていたとき、向こうでは調理の準備を終えた師匠が素体から食材を出していました。


まぁ準備というか用意したのは七輪と網ですけどね。そして師匠が取り出した食材は脂身を帯びて赤く輝く物体でって……そ、それはまさか!?


「ONIKU!」


久しく見ることが無かった肉汁と夢がモリモリ溢れる魅惑の物体を見て、思わず立ち上がって声を上げてしまいました。


いきなり声を上げた私に師匠は「なんだ嫌いか?」なんて聞いてきましたが、何を言っているのでしょう!


「まさか!」


ONIKUが嫌いなヤツなんかいるわけないでしょ! 勘違いされて引っ込められても困るので全力で首をブンブンと横に振ります!


だってアレですよ? 七輪と網が有って、ONIKUが有るなら、導き出される答えはただ1つしかないじゃないですか! そう、謎は全て解けた! 今夜はYAKINIKUだっ!


れっつパーリーだ!


「……タン? 嘘でしょ?! その厚さはタンじゃない! 霜降り? そんなの昔だって食べたことないですよ! あ~。まてまてまてちょ~と待って! 私の分はもっと薄くていいですから! 余った分を下さい! 素体に入れて帰るんで! ゴブリン? そんなのもう居ませんよ! だからONIKUを! そのONIKUを下さいっ!」

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