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㉑ 主人公、色々と伝える/少女、驚く

「うっうっ。汚れちゃった。私、汚されちゃったよ………」


拠点(転送小屋)に戻り、泣きながらシャワーを浴びる女子高生と、その女子高生が着ていた制服を洗濯する(精神的)アラフォー。うーむ。事案だ。


いや、アラフォー関係なしに普通に男子高生であっても不純異性交遊と言われること間違いなしな案件ではあるが、基本的にこの世界は人が少ないため、産めよ増やせよが奨励されているのでいきなりタイーホされたりはしない。


もちろん人権を無視した犯罪行為はしっかりと咎められるので、双方の同意が有ることが最低条件では有るが、今回は確実にセーフな案件だと思われる。思いたい。


何せ弟子の体や制服に付着してるのはゴブリンの体液だしな。アレにまみれた女性相手に欲情できる程の上級者はそうそういないし、実際にゴブリン被害に遭ったなら、あんな風にシャワーを浴びる余裕なんか無いからな。


それはそれとして、あの市松人形め。いざというときは自分が使うセーフハウスだからインフラを整えているのはわかるが、各種料金に魔石を使うってなんだよ。


確かに壁の外でも安全に寝れるってのは良いことだし、弟子みたいな新人には大助かりなんだろうがよぉ。魔石って意外と高いんだぞ? それに俺自身がGランクの魔石なんか持ってないもんだから強制的に割高の魔石を使うことになるんだよな。ここでお釣りがあればまだしも、魔石にそんなシステムはないので、お釣りなんか出るはずもない。


ぼったくりにも程があるぞ。


そもそも新人が使うような場所じゃないっていうのも有るだろうし、自分は当然無料にできるから関係ないってところだろうが、これはさすがになぁ。損害的には大した損害では無いが、気分的に凄く損した気分になるんだよなぁ。


たとえて言うなら、110円のジュースを買うために500円、いや、1000円を出してお釣りが来ない感じとでも言えばいいだろうか?


財布的に余裕があっても精神的にかなりクルだろ?


今回は最初だから自前の道具でキャンプせずにここを使うことにしたが、次回からはキャンプさせよう。そう決意するには十分な理由だと思う。


つーか弟子の育成ってこんなに金が掛かるのか? 人材育成の教本にはこんなこと書いて無かったぞ? ……まさか出版元のバンブー書房が、意図的に都合の悪いことを書いていない。とかじゃないよな?


ギルドの売店に売っていた教本に不満を抱きながらも、自己流というか実戦で鍛えられてきた俺には、一般的な育成の勝手がわからないため、教本を読むのを止めるつもりはない。


ただ教本だけというのもあれなので、とりあえず両親がどうやって俺を鍛えてくれたのかを思い出してみたのだが……



~~~


父 「よしコータ。まずは基本のゴブリンだ。ヤツを一匹殺せば握力がおよそ100グラム上がる。最初のうちはアレを狩るぞ」


コ 「え? マジで? 百匹殺したら握力十キロ上がるの? 千匹で百キロ? 一万匹で千キロ? ゴブリンだけでも天下取れるじゃん!」


母 「あ~残念だけど百キロくらいから上昇率が下がるのよね~。レベルキャップってヤツ?」


コ 「うぉぉぉ死に晒せぇぇ! そして俺の糧になれぇぇぇぇ!」


母 「……聞いてないわね。まぁ弱くなるわけじゃないからいっか♪」


~~~



うむ。大体一緒だよな。俺の場合は握力。というかステータスアップが餌で、弟子は金だ。


戦闘方法に関してはどうだったか。


確か最初は普通に父さんの武器を借りていたな。で、討伐数が200を越えた辺りから普通に石とか小型の武器を使っていた。だがこれは当時の俺が子供で、素体も宿していなかったからだ。


だからこそ最初にゴブリンを倒すときは苦戦もしたし怪我もした。罠とかを覚えたのもその時だ。だけど何だかんだで乗り越えたんだよな。


う~む。あのときの両親は俺が死なないようにフォローはしてくれてたけど、それ以外は特に何もしてなかったような。


いや、キャンプのときとかは普通に眠れるようにしてくれていたし、飯も食えていたな。うん、十分フォローしてもらっていたわ。


あの時の俺が受けた恩恵を考えれば、弟子の成長のためにはある程度の出費は覚悟するべきなのかもしれない。そういう甲斐性も高ランクに求められてるのかもしれんし。


それに素体を移植してから戦いを経験させてみたが、やはり基礎は重要だ。


構えだとか動きの無駄を無くすことは当然だが、踏み込みの一つも無駄にはできない。当然倒された時の対処もな。


殺すことに関しての意識の切り替えができるようになったら、技術を教えよう。


本人も自分に足りないものをしっかり認識してる頃だろうしな。


そうこう考えている間にゴウンゴウンと回転していたドラム型の洗濯機が停止した。もう終わったか? と思いきや乾燥は別料金らしく乾燥の部分が点滅していて、さらに「さっさと魔石を追加しろ」と言わんばかりに魔石を入れる場所が自己主張している。


なんつーか、確実に市松人形の影響受けているよな。


「キャッ!」


そして洗濯機が自己主張をしてくると同時に、シャワーを浴びていた弟子が悲鳴を上げる。


ここでエロゲーの主人公なら「どうした!?」だとか「大丈夫か!?」と言ってシャワー室に突っ込み「きゃー。のび○さんのエッチー」とか言われて叩き出されるのだろうが、残念ながら俺はそんなことはしない。


なんてったって悲鳴の種類が限りなく軽かったからな。どーせお湯が水になった。とかだろ?


「し、師匠! お湯が、お湯が水に! いや、普段から水風呂だから水には慣れているんですけど、最初がお湯だったから油断してしまいました! 正直温度差がキツイですっ!」


「……そうか」


予想は当たっていたが、普段の弟子の生活を聞かされると「そうか」としか言えん。


妹たちの為に節約をしてるのか、それとも妹たちも水風呂なのか……とりあえず風邪をひかれても困るから魔石を追加することにした。


それにさっきまでの「汚されちゃった云々」なテンションも吹っ飛んだみたいだしな。


ふむ。これは市松人形のフォローか? それとも純粋にがめついだけなのか?


ま、結果的に良い方向に進んだようだし、どっちでも良いか。



―――


木下視点


いきなりの水責めでアンニュイな空気が吹っ飛ばされましたよ! いや、慰めてもらおうとかはちょっとしか思っていませんでしたけど、初めての戦闘で、凄く怖い思いをしたんだから、もう少し「頑張ったな」的な言葉をくれても良いと思うんですよね!


「さて、今回の弟子の失敗だが……」


そんな私の気持ちなんか関係なしに先ほどの私の戦闘に関する映像が展開されます。


いつの間に録ったの!? と思いましたが、学校の試合とかでも今後の指導の為にって撮影はしますもんね。そりゃ弟子の育成の為には撮影もしますよね。


しかしこうして見るとアレですね。敵と睨み合いながら師匠に文句つけてる姿って凄く間抜けですよね。ゴブリンが指差して嗤う気持ちもわかります。笑われてるのが自分じゃなかったら、私も「何してんだこいつ?」って思うでしょうし。


「見ての通り、会話、目線、構え、攻撃、防御、移動、油断、とまぁほとんどが駄目だ。とはいえ初めてだからこんなもんと言えばこんなもんかもしれんがな」


「……はい」


全体的にダメダメですが特に油断ですよね。師匠曰く『ダメージは必要な分だけ与えれば良い』です。特にゴブリンBに馬乗りになって何度もビンタをしたり、ゴブリンCを一撃で倒したと思い込んだりしたのは宜しくないですよね。


そのせいでこのあと……。



私の目の前に映る映像の中には、ゴブリンCに馬乗りになられた挙句、体に色んなものを擦りつけられながらゴンゴンと殴られている純情可憐な美少女の姿がありました。


誰がどう見ても探索者と魔物の戦いではなく、一方的に女子高生が虐められている図です。


「うわぁ。私あんな目に遭ってたんですか。……これってゴブリンの数が多かったら、足とか防御してる腕を掴まれて防御も何もできないまま○○○されてますよね?」


「そうだな」


今回は師匠のおかげで助かったけど本来なら……自分が辿っていたであろう未来を予想して顔色が悪くなるのを自覚します。


防御に両手を使い、目まで閉じてしまった時点で反撃は不可能と判断され、師匠がゴブリンを仕留めたところで映像が終わってますけど……そうですか。そうですか。最後のあのブシャー! って感じで勢いよくかかってきた生暖かいモノは、頭を無くしたゴブリンが流した血ですか!


「ん? 何か文句でも?」


「……ありません」


ま、まぁグスグス言って泣き崩れる私を俵持ちしてセーフハウスまで運んでくれて、さらにそのままお風呂場に叩き込んでくれたので汚いのは洗い落とせましたし、久しぶりにお湯を使ったシャワーとか、ちょっとお湯を貯めて入浴気分に浸れたから良いんです。寛大な私は許してあげましょう。


ただ、普通に洗濯が終わった学生服と、袋に入ったままの下着と肌着をお風呂場の前に置いておくのはどうなんでしょう?師匠には性欲とか無いのでしょうか?


「さて、この映像を見てわかるだろうが、弟子には何もかもが足りていない」


「……はい」


ダメだダメだ! 師匠は真面目に私を鍛えてくれてるんだから、今はそんなことを考えてる余裕なんかない! ちゃんと話を聞かないと!


「だが今のお前には1つ、いや2つか? 他の学生が持ってないモノがある。それがわかるか?」


「私が持ってるモノ、ですか?」


基本的にお父さんが死んでからと言うもの、私が持ってるものは全部無くなったと思ってますけど、何かあるんでしょうか?


「ふむ、わからないか。まぁ自分のことは意外と分かりづらいものだから仕方ないな。んじゃまず一つ目。戦う理由ってヤツがはっきりしていることだ」


「理由? 私が戦うのはお金の為ですけど、こんなのは誰だって有るんじゃないですか?」


「金が欲しいから魔物を殺すと言う理由。大変結構。普通の学生にはそんなモノはない。教師が殺せというから殺す。だの、社会的に殺すべきだと言う風潮があるからと、ある意味惰性で生き物を殺そうとするのが普通の学生だ」


「はぁ。そうなんですか?」


その言い方だと確かに無責任と言えば無責任ではありますけど、結局魔物を殺すことに違いはないのでは?


「そういう奴はな、自分の中に芯が無いから簡単に揺らぐ。もっと言えば子供のゴブリンだの子供の魔物を見ると覚悟が鈍る。そこで妙な同情をして魔物を殺せなくなるんだ。そして仲間の足を引っ張って、仲間ごと殺される」


「……」


なるほど。子供だろうが大人だろうが魔物は魔物ですもんね。魔物相手に油断したらどうなるかはさっき自分で学びました。そもそも私は魔物を殺してお金にするために探索者になったんだし、より効率良く稼ぐ為に師匠の弟子になったんです。だからこそ魔物に遠慮なんかしませんし、今後は油断もしません!


というか、アレと分かり合うとか無理。政治家の人は一度ゴブリンを間近で見てみるべきです。


「納得したところで次、2つ目だが、素体だ」


「はぇ? そ、そたい、ですか?」


覚悟を決めた私に師匠は少し言い辛そうにしながらも、全然思いもしなかった事を告げてきました。


「うむ。素体だ。映像を見ればわかると思うが、あぁ、ここだな」


そう言って、師匠は私がゴブリンDに後ろから叩かれた場面を再生します。


「うわっ。痛そう」


さっきも見ましたけど、思わず目を背けたくなるような映像ですよね。なにせ映像の中の美少女は、ゴイン!って音が聞こえそうなくらいのフルスイングを後頭部に受けていますから。


「これ、普通なら頭がカチ割られて死んでますよね?」


ってあれ? なんで私は死んでないんですか? 私は普通の女子高生なんですけど?


「気付いたな? これを食らって生きてる時点で今の弟子は普通じゃない。その理由が素体だ。一応入試試験にも出ていたから『素体を知らない』なんてことはないよな?」


師匠が私の基礎知識を確認してきますが、流石にそのくらいは知ってますよ!


「は、はい! ダンジョンの種っていうか、そういうのですよね? オークションで数百万円~数千万円単位で取引されてるヤツです! 詳しくは知りませんが、補助機能っていうか、強化するのに役立つんだとか? Bランク以上のプロの人は当たり前に持っていて、Cランクの人も半分は持っている。そしてそれが有るから上位の狩人は人を超えた存在とも戦えるんですよね?」


ついでに言えば、素体には大量生産された量産型と、ダンジョンコアによって特殊加工された特殊素体があるみたいです。そして後者の素体は最低でも数千万円になるんですよ! だからどうにかして入手すれば借金が減るって思って、色々妄想していたんです! なんといっても量産型でさえ最低数百万円するんですからね!


で、そんな高価なモノが私に?


いや、だけど確かにビンタ一発でゴブリンを殺せるのはおかしいし、映像で見たようなフルスイングを喰らって「痛い」で済む時点で何らかの強化はされているのはわかります。わかりますが、まさかそれが素体とは……。


「うん。大体そんな感じだな。今回は特殊素体をオーダーメイドしてお前に移植した。医務室で寝てた時に覚えた痛みはこれだな。そんなわけだから、今のお前は立派な素体持ちの探索者ってわけだ。そもそもここに来る前に『素体の慣熟訓練をする』と言ったが、覚えていないか?」


「……そう言われればそんなことを言われた気もしますけど」


あのとき、お腹に何か熱いのが来たって感じたのは素体を移植されたからですか。


というか今なんともうされましたかね? 特殊素体をおーだーめいどした? そんな素体を私に移植!?


「なんてことを……」


いつの間にか素体を移植されていたショックで言葉も出ません。


「あぁ、まぁあれだ。すまんな。弟子を鍛えるにはどうすれば良いかを考えたんだが、取り敢えず素体で強化してからの方が良いだろうって考えてな。今思えば、これのせいで攻撃力や頑強さが増して油断に繋がったんだろう。正直短絡的だったと思う。だからと言って今更外す気は無いぞ。まぁもし弟子を辞めたいというなら外すしかないんだが」


師匠がそう言って謝ってきますが、それは違います! 油断したのは私が未熟で馬鹿だから。むしろ素体で強化されていなければゴブリンの攻撃で死んでいましたし、死んでいなくても後遺症が残るような事になってたでしょう! だから謝るのはそこじゃありません!


「いや、師匠の弟子を辞めるなんてありえません! ですけど……」


「ですけど?」


「ソレ、いくらしたんですか? そんなの移植されたら借金が倍どころじゃないですよね! ていうか、もしかして師匠、かなり無理したんじゃないですか?」


そもそも素体ってお金で買えるようなモノじゃないでしょ? 基本的に予約は一杯で、オークションで入手するようなモノですよ? いくら師匠がプロとはいえ、そんなのを手に入れるにはかなりの無理が必要なはずだし……ま、まさか師匠もローン(借金)を!?


どうしよう! 後から請求書を出されても払えませんよ! それに無理やり外されるのってかなり痛いって教科書にも書いてましたし、返品しようにも一回使ったから中古品扱いで価値が落ちますよね? 


コレ、返品した際の差額はどうなるんですか!?


「いや、俺は別に無理なんてしていないが」


真顔で言い募る私を見て、師匠は何か呟いてますが、私に気を遣ってるのが丸分かりですよ! だけどどうしましょう。本気でやばいです! 私の為に師匠にローン(借金)を組ませてしまうなんて、洒落になりませんよぉ!!


「や、やっぱり体でお支払いを!」


素体がいくらしたかしりませんけど、せめてそれくらいは!


「なんでやねん」


「ふぎゃっ!」



閲覧ありがとうございます



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