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ヒューマンカインド/Brightness of life  作者: 猫山英風
第2部 友情 ―第1章 最初の一歩―
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第23話 チーム?(6)


 勝輝と同じことに気が付いたのは、大原であった。彼女は高木が倒れた段階で敗北が確定したと理解し、それと同時に相手がどう決着をつけるのかを予想した。その際に、妙なことに気が付いたのである。


「……おかしいわ。」

「どうしたの、典子ちゃん?」


相変わらずキョトンと首を傾げる足立に、大原は言った。


「オドって、確かに物質だけれど、人間の目には見えないのよ。けれど、井上先輩は優華がアンを創りだしたその時に、和田先輩の周りのオドが無くなっていることを認識していた。どうして目に見えていないものを、認識できるの?」

「うん?ちょっとまって。それ、普通じゃないの?」

「え!?」


寝ぼけた顔から予想外の返答が来たことに、大原は驚愕した。


「な、なんですって!?」

「え?いやぁ、だって、陽子もわかるよ?和田先輩の周りのオドがあるのか無いのかくらいだったら……」

「ま、まって。まって陽子さん。それは――それは普通じゃないわ!」

「え?そうなの?」

「そうよ!」


大原は戦慄く手で足立の肩を掴み、祈るように言った。


「私達ダイバーズは、オドを利用し能力を行使する。けれど、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のよ!?」

「ええ!?」

「確かに、熟練のダイバーズであれば、自身の身の回り程度のオドの有無を感じ取れるという話は聞いたことがあるわ。けれど、広範囲のフィールド内にあるオドを感じ取る術があるなんて話、聞いたことがないわ!?」

「ええと……でもさ。」


足立は大原の鬼気迫る形相に苦笑しながら、静かに言った。


「あのね、陽子の話をするとね?私の能力は遠くの音を聞き分けられる能力だけど、それってさ、その空間内にオドがないと聞こえないんだ。」

「――え?」


今度は大原が首を傾げる。


「私の能力の評価方法覚えている?」

「ええ。確か針を落とした音を聞き分けられる距離を測るっていう……」

「そう。でさ、音って空気を伝う波だよね?振動だよね?その振動って()()()()()()()?」

「あ――」


大原はあることに気が付き、小さく声を漏らした。


「まさか――」

「そうだよ。針の音なんて、地面とか空気とか、いろんな物質に吸音されたり減衰したりしてそもそもがどんどん小さくなっちゃうの。いくら高性能な機械を持ってきても、周りに無数の音がある中で一つの限りなく強度ゼロの音を聞き分けることができるなんてできないよ。」

「そ、それじゃあ……」

「私の能力は『獣耳』。これは遠くの音を聞き分けるための能力だけれど、私の場合、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

「じゃあ、あなたの能力って――」

「うん。感覚能力者は――」





「――()()()()()()()()()()()()()()!!」


勝輝は状況を瞬時に把握し、交戦相手を切り替えた。


(俺としたことが、忘れていた!

特殊部隊の資料で読んだことがある。感覚を変化させるウィザードの中には、単純な物理・生理現象として現象を知覚しているのではなく、オドそのものの状態変化をとらえ、()()()()()()()()()()()()()()()と。

しかし感覚に効果が表れる能力は主観的観測しかできないため評価が難しく、仮説を明確に立証する(すべ)が現エーテル学には存在しない。それは感覚系ダイバーズたちが当人の能力の仕組みを理解しづらい原因でもあり、能力の応用や向上が困難であると言われている理由だ。

だがもしも、もしも自分の能力がオドそのものの状態変化をとらえ、五感に置き換えていると明確に認識できるとすれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!)



「井上の能力は『触覚拡張』。自身の肌の触覚が空間的に延長する能力で、一定の範囲内においてどこにどんな形・感触のモノがあるか認知することができる。まぁ、大きさや動いているかいないかでも認知できるものは変わるらしいが、原理としては空間にあるエーテルを()()()()()()()()()()()()()ことで可能にしている。だからあいつは触覚の得られない場所にオドが存在しないと、把握できる。そして空間内のオドを神経化させているのだから――」


 和田は持っていた小平の作った盾を山田に見せる。


「あいつが能力を使うと、かなり広範囲のエーテルを、あいつが支配することになる。」

「そういうことですか……やっと分かりました。」


山田は汗をぬぐいながら笑った。


「ダイバーズの10原則、その3。『ダイバーズはエーテルの無い空間では能力を行使できない』。あたしが和田先輩の周りのオドを大分消費したにも関わらず、()()()()()大量のオドを消費した小平先輩の盾が、和田先輩の手に形成された。

小平先輩はソーサラー。空間にモノを創りだすダイバーズ。あの人の能力を発現させる範囲が広いことは想定していましたけど、どうやってオドを調達したのか分からなかったんです。でも、それがようやくわかりましたよ。」

「お。その答えは?」

「井上先輩が()()()()()()()()()()()?」


山田の答えに、和田は微笑んで見せた。


「正解。」





「能力を行使するとオドは減る。んじゃぁオドの量を戻すにはどうすれば良いかって言えば、そりゃあ能力を解除すればいいだけの話だからな。」

「広範囲のオドを瞬時に支配できる健太郎君の能力は、こと『フラッグ・マッチ』のような閉鎖空間の試合ではとても応用が効くから助かるわ。」


嶋崎の言葉に、井上は肩を竦める。


「とは言っても、いろいろ制限がありますからうまくいかないことが多いんですけどね。

まず消費量がそもそも少ないですし、『含有率』も高くありません。体積的に支配できる領域こそ広いですが密度は低いので、相手の能力行使を完全には防ぐことができません。加えて、時間もかかります。山田さんの能力が発動するまでに支配できたのはエリアの半分。それ以降は徐々に神経を伸ばしていて今やっと全体に及べた、というくらいですから。」

「いんやぁ?そんだけできれば十分だろう?オレだってお前が敵に回ると厄介なことこの上ねーぞ。」

「だからいつも僕が相手になると、工藤先輩、速攻で僕を気絶させに来るんですよね……あれ、割と怖いんですよ?」


苦笑する井上に、工藤は笑う。


「ははは!当然だろう?ダイバーズの戦いは第一に情報が全て。だが、その()()重要なのは“エーテルの管理”だ。戦闘には不向きな能力でも、ここを押さえておけば勝つことができる。なんせ()()()使()()()()()()()()()()()だからな!お前はエーテル管理のスペシャリスト。そんな参謀、早いとこ叩いとかないと致命傷になっちまう。」

「あはは。それはどうも。」

「ま、だからあいつらがオレや和田に注意を向けた時点で、あいつらの敗北は決定的だった。まぁ、それ以前の問題でもあるが、な。

――さて、それじゃあさっさと幕引きにしてくれ。葵。」


 大きく背筋を伸ばす工藤に、島崎は頷く。そして矢のように向かってくる勝輝に、たおやかに、そして優雅に祈りをささげるかのようなしぐさをして見せた。


「ごめんなさいね、吉岡君。あなたは少し、気付くのが遅かったみたいよ。」

「!?」


 衝撃。続いて勝輝は進行方向とは真逆に吹き飛ばされた。


「わっ!今のなに?すごいバチバチって音がしたけど!?」


 後方で様子を見守っていた足立が、驚いて狐の耳を出す。そしてその横で、大原は足立以上に驚いていた。


「――まって。嘘でしょう?だ、だってあの能力は――」


「冗談、だろ?」


 大原同様に驚愕したのは、攻撃を受けた勝輝である。彼はその一撃を受けて島崎葵が何の能力を有しているのかを瞬時に把握した。

攻撃を喰らった瞬間、身を焼くような熱を感じ、その後全身が麻痺して動きが封じられた。筋肉が痙攣し、まともに立つことすら許されない。


(これは、電気ショック。電気系統のダイバーズはいるにはいる。だが、だが、()()()!その攻撃の、方法だ!)


勝輝は自身が攻撃を喰らった場所を睨み付ける。地面は黒焦げ、焼けた砂の臭いが鼻を突く。


「この攻撃は、島崎葵から放たれていない。これは頭上からの電撃だ。だがそれは――」


「落雷!?」


 山田はフィールドの上空を見上げ、開いた口がふさがらなかった。

いつの間に天候が変わったのか。そこにあった真っ青な空は、フィールドの真上だけが絵具で塗りつぶされたかのように、黒い雲に覆われていた。



「落雷を落とせるダイバーズ。俺の知る限り、確か日本では一人しかいないはずだ!」

「ふふ。流石は物知りね、吉岡君は。でも、その人の家族については知らないでしょう?だって――」


嶋崎の言葉は、勝輝を震撼させた。


「『特秘能力者』、だったから。」

「!!」


 嶋崎は膝をつく勝輝に微笑んだ。その笑みはとても穏やかで美しいが、吉岡勝輝にとっては一切笑えない笑みだった。


「そう。『レジェンド』にして特秘能力者第一世代、雷を操るダイバーズ『タケミカヅチ』。その孫娘が、私です。」

「――――」

「それでは、折角ですので『命樹(めいじゅ)』をお見せしましょう。」

「――は?なんだと!?」


 驚愕する勝輝のはるか頭上に、光が走る。

それは轟々と空気を震わす龍の姿。人が決して制御することのできない、天の刃。

そしてそれが雲を駆け巡り、空の中心に集ったとき、島崎葵は透き通るような声で、大気を貫いた。


「これ成るは天の一撃、大地を穿つ一条の(やり)――」




――『命樹』、雷槍(らいそう)




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